本気の
ビーは、森の木々の中を素早く駆け抜ける。
自分が枯れ葉を踏み締める音。
そして、そのすぐ後ろから――寸分違わずついてくる、もう一つの足音。
それを忌々しく思いながら、速度を上げるべく姿勢を低くする。
茂みを飛び越え、幹を蹴って跳ね上がり、枝に手をかけ樹上をめざす。
太い枝へと身を躍らせた矢先――
「こっちだろ!」
隣の木からシャイナが飛び出してきた。
「チッ!」
こちらの動きを読み、先回りされていた。
「取った!」
掴まれた上着を脱ぎ捨て、枝の隙間を滑るように降りる。
「げ、まじかよ」
「そう簡単に捕まるか」
鋭く切り返し、逃走経路を変える。
――と見せかけて、もと来た道を折り返す。
「そう思った」
声が頭上から降ってくる。
それと同時に進路を塞ぐようにシャイナが着地する。
速度は落とさず、そのまま突っ込む。
シャイナの両腕が抱き込むように左右から迫る。
捕まる直前、足裏全体に力を入れて、地面を削る。
急停止の勢いで、髪が前方へ流れる。
つま先に力を入れて、後ろに飛び退く。
シャイナの両腕が空を掴む。
着地と同時に重心を右に移し、再び地面を蹴る。
そしてシャイナの脇をすり抜け、走り去る。
わずかに口角が上がる。
——いける!
「行かせるか!」
シャイナが急旋回し、背後から飛びついてきた。
「うわっ!」
「やべ!」
そのまま二人して地面に倒れ込んだ。
枯れ葉がひらりと落ちてくる。
遠くで鳥の鳴く声が響く。
立ち上がろうにも、腰に回った腕とのしかかっている体重が邪魔をしている。
ビーは文句を言った。
「バカか、本気出しすぎだ!」
「ビーこそ、フェイント入れすぎ!」
「あれはフェイントに入らない」
「じゃあ、ビーだって結構ガチってことじゃん」
二人で言い合っていると、日差しが遮られる。
視線を上げると、手に庭掃除用の箒を持ったエチルスが、半ば呆れたような顔でこちらを見下ろしていた。
「あの……何してるんですか?」
シャイナと一度顔を見合わせ、もう一度エチルスを見た。
「「鬼ごっこ」」
エチルスは何度か目を瞬かせる。
「お前、重いんだよ。早くどけ」
「逃げない?」
「避けてただけだ」
「だから、それを逃げるっていうの」
「わかったから、早くどけ。お前、俺よりでかくなってんだからな」
「それは仕方ないじゃん」
シャイナは腰に回していた腕をようやく緩めた。
先に立ち上がると、ビーへと手を伸ばし、起き上がるのを手伝う。
「砂埃まみれだ」
「払えば大丈夫だって」
シャイナがビーの服をはたく。
ビーは、シャイナの少し伸びた襟足に触れ、絡んでいる葉をつまみ取った。
「髪に葉っぱがついてるぞ」
「ん、ありがと」
二人のいつも通りのやり取りに、エチルスは苦笑する。
「それで、なんで鬼ごっこすることになったんですか?」
二人は顔を見合わせ、首を傾げた。
「なんでだっけ?」
「忘れた」




