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魔蝕のレゾンデートル  作者: 古里古
第三章
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第91話 救援信号


「!?」「えっ!?」


 マリアとキサラギは同時に、同じ方向へ振り向いた。


 少し離れた場所で、カナメの盾の気配がした。

 それを感じ取った瞬間、いくつかの見知らぬ気配もぼんやりと脳裏にチラついた。少なくとも相手は一人ではない。


 マリアは黙ったまま立ち上がった。

 戦いが起きているはずなのに、ジンの気配がわからない。嫌な予感がする。


 ジンの気配自体はいつも隠れていて感じ取りにくいが、それでも戦闘で力を使えばハッキリと分かる。

 だというのに今もカナメの気配しか分からないということは、ジンは戦えない状態なのか、そもそもその場にいないのか。


 どちらにせよ、カナメの元へ行かなくては。


「待って! 私も行くわ」


 キサラギが、マリアの腕を掴んで引き止めた。

 マリアはその手を振りほどこうとしたが叶わず、彼女を睨みつけた。


「……何をしている。邪魔だ」


「あなたがどれぐらい回復できているかなんて、治療した私がよく知ってるわ。そんな体で戦えるわけないじゃない。サツキも呼んでくる」


 キサラギは返事も聞かずに部屋を飛び出していった。

 やろうと思えば引き止めることもできたかもしれないが、マリアは反論できなかった。


 実際、傷と痛みが無くなっただけで、走るにはまだ力が入り切らず、全身がずっしりと重たい。現に今、キサラギの腕を振り払う力すらもなかった。


 今ある選択肢は二つ。


 まだ信頼関係のない能力者と手を組むか。

 そんな相手はリスクだとハナから切り捨て、単身で向かうか。


 ──そんなもの、天秤にかけるまでもない。


 マリアはキサラギの後に続いて部屋を出ると、なんとか男部屋まで歩いていった。


 今はキサラギがサツキを呼んでいるはずだ。

 目的の扉を前に、一度壁にもたれかかって待つ。

 

 この程度で疲れているようでは、どちらにせよ単身で助けに行くのは無理だった。もう二人を頼るしかない。

 

 カナメの気配を見失わないよう目を瞑って集中していると、大声と同時に勢いよく扉が開いた。サツキだ。


「き、聞いたぞ!今戦いが──」


「おい、声が大きい。ホテルには一般人もいるんだぞ」


 迂闊な発言に、咄嗟にサツキを制止した。

 「やべ」と前に出てくるサツキの後ろから、キサラギも顔を覗かせる。


「……早く行きましょう。まだ無事そうだけれど、心配だわ……」


 キサラギとサツキは走り出す。

 マリアもそれについて行こうとしたが、足がもつれそうになり、再び壁に寄りかかる。

  

 マリアは一瞬だけ歯を食いしばると、すぐさま二人に向かって声を上げた。


「おい待て!」


 二人が止まり、こちらを振り返った。


「上手く走れない。先に行って、あいつらを頼む。後で追いつく」


 キサラギもカナメの気配を察知していた。

 であれば、二人だけでもカナメたちの元へ行けるはずだ。


 本来であれば、まだ手放しで仲間を任せられるような相手ではない。

 だが今は、そんなことを言ってる場合じゃない。二人の性格も加味した上で、これが一番生存確率が高いと判断した。


 マリアの言葉に、サツキは間髪入れず答えた。

 

「当たり前だろ! あいつらがやられたら俺たちもカヅキを探せなくなるんだ、任せろ!」


 サツキはキサラギの背中をポンと叩くと、そのまま迷わず走り出した。

 

 返事も、足取りも、本当に迷いがなかった。


「──いや。奴らが信用できる人間か判断するのは……全員が生き残ってからだな」


 今はとにかく、足を前に動かさなければ。

 

 

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