第91話 救援信号
「!?」「えっ!?」
マリアとキサラギは同時に、同じ方向へ振り向いた。
少し離れた場所で、カナメの盾の気配がした。
それを感じ取った瞬間、いくつかの見知らぬ気配もぼんやりと脳裏にチラついた。少なくとも相手は一人ではない。
マリアは黙ったまま立ち上がった。
戦いが起きているはずなのに、ジンの気配がわからない。嫌な予感がする。
ジンの気配自体はいつも隠れていて感じ取りにくいが、それでも戦闘で力を使えばハッキリと分かる。
だというのに今もカナメの気配しか分からないということは、ジンは戦えない状態なのか、そもそもその場にいないのか。
どちらにせよ、カナメの元へ行かなくては。
「待って! 私も行くわ」
キサラギが、マリアの腕を掴んで引き止めた。
マリアはその手を振りほどこうとしたが叶わず、彼女を睨みつけた。
「……何をしている。邪魔だ」
「あなたがどれぐらい回復できているかなんて、治療した私がよく知ってるわ。そんな体で戦えるわけないじゃない。サツキも呼んでくる」
キサラギは返事も聞かずに部屋を飛び出していった。
やろうと思えば引き止めることもできたかもしれないが、マリアは反論できなかった。
実際、傷と痛みが無くなっただけで、走るにはまだ力が入り切らず、全身がずっしりと重たい。現に今、キサラギの腕を振り払う力すらもなかった。
今ある選択肢は二つ。
まだ信頼関係のない能力者と手を組むか。
そんな相手はリスクだとハナから切り捨て、単身で向かうか。
──そんなもの、天秤にかけるまでもない。
マリアはキサラギの後に続いて部屋を出ると、なんとか男部屋まで歩いていった。
今はキサラギがサツキを呼んでいるはずだ。
目的の扉を前に、一度壁にもたれかかって待つ。
この程度で疲れているようでは、どちらにせよ単身で助けに行くのは無理だった。もう二人を頼るしかない。
カナメの気配を見失わないよう目を瞑って集中していると、大声と同時に勢いよく扉が開いた。サツキだ。
「き、聞いたぞ!今戦いが──」
「おい、声が大きい。ホテルには一般人もいるんだぞ」
迂闊な発言に、咄嗟にサツキを制止した。
「やべ」と前に出てくるサツキの後ろから、キサラギも顔を覗かせる。
「……早く行きましょう。まだ無事そうだけれど、心配だわ……」
キサラギとサツキは走り出す。
マリアもそれについて行こうとしたが、足がもつれそうになり、再び壁に寄りかかる。
マリアは一瞬だけ歯を食いしばると、すぐさま二人に向かって声を上げた。
「おい待て!」
二人が止まり、こちらを振り返った。
「上手く走れない。先に行って、あいつらを頼む。後で追いつく」
キサラギもカナメの気配を察知していた。
であれば、二人だけでもカナメたちの元へ行けるはずだ。
本来であれば、まだ手放しで仲間を任せられるような相手ではない。
だが今は、そんなことを言ってる場合じゃない。二人の性格も加味した上で、これが一番生存確率が高いと判断した。
マリアの言葉に、サツキは間髪入れず答えた。
「当たり前だろ! あいつらがやられたら俺たちもカヅキを探せなくなるんだ、任せろ!」
サツキはキサラギの背中をポンと叩くと、そのまま迷わず走り出した。
返事も、足取りも、本当に迷いがなかった。
「──いや。奴らが信用できる人間か判断するのは……全員が生き残ってからだな」
今はとにかく、足を前に動かさなければ。




