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魔蝕のレゾンデートル  作者: 古里古
第三章
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第64話 俺と皆とこれからの五日間


 ジンの足が魔物化してしまってから、既に数日が経過していた。

 

 カナメたちは旅にも慣れ、以前買った安物のエアーマットと寝袋でも野宿できるほどになった。

 だが、慣れてくるほどに、マリアの使う本物の寝心地も試してみたい気持ちも芽生えてきた。隣の芝生は、やっぱり青く見えるものだ。 


 もちろん、楽しいことばかりではない。

 この数日の間で、二度も能力者に襲われた。 


 一度目は、カナメと同い年ぐらいの若い男女カップルだった。

 敵の不意打ちから始まったその戦いは、あっという間に終わりを告げた。

 

 不意打ちを難なく躱したジンが彼氏を押さえ付け、マリアが「殺すつもりは無いから見逃せ」と、あの怖い目で脅迫したのだ。

  

 その彼氏は、彼女を危機に晒さない為に力を奮っていたようだ。周りで能力者を見つけるたびに、震えながら殺しをしていたらしい。

 泣きながら「能力者全てが敵だと思っていた」、「強くないから、不意打ちでしか生き残れないと思った」と言っていた。

 

 魔物に唆された、戦いの被害者だった。

 正直、心底同情した。

 むしろ、大切な人の為に、自分の手を汚す覚悟をした彼のことを、他人事だと思えなかった。


 二度目は、電撃を操る男の能力者一人だった。

 楽しそうに戦っていて、あのカップルや自分たちと同じ能力者だとは思いたくなかった。

 

 広範囲に電撃を張り巡らされ、ジンは身動きが取れなかったが、マリアが水球でそれら全てを集め、電撃を纏った波を敵に押し返した。

 最初はニヤニヤ笑っていた敵も、その反撃を見るや否や、相性の悪さに逃げ出していった。

 マリアは、力に溺れた典型的な愚か者だと言っていた。


 カナメはというと、一度も盾を出していない。どちらの戦いも、力を使うまでもなく、すぐに終わってしまった。

 以前戦ったゴウとユウジの二人組が超強敵だっただけで、ジンとマリアはしっかり強かった。

 

 あれから、ジンの足は一度も魔物化していない。 

 代わりに何の情報も得られず、今でも進捗がないままだ。

 魔物化が進行しないのであれば安心出来るのだが、そんな保証は無い。むしろ嵐の前の静けさのようで、不安を覚えてしまうぐらいだった。 


 宛もなく街を転々とする中で、気付かされたことがある。

 ホテルでラジオをつけた時、壊滅した街や死者の名前が読み上げられていた。

 知らないところで、たくさんの人が死んでいるのだと思い知った。


 そんなことを思い出しながら、カナメたちは今、全体が半壊している街に立ち寄っていた。

 

 建物の壁が黒く焼け落ち、道には溶けた鉄筋がむき出しになっている。最近襲撃されたのか、街の中に焦げた臭いが漂い、人々の空気も重苦しい。

 

 その街で、日雇いの復興支援職員を募る掲示を見つけ、すぐに応募した。

 路銀の調達という目的もあるが、何よりも、目の前で苦しむ人たちの力になりたいと思った。

 

 また敵に見つかる危険性を考えて、滞在期間はマリアの決めた五日間だけ。

 それが三人の妥協点だった。

 

「はい、応募ありがとうね。じゃあ、ここに必要事項を書いてってね」


 職員から渡された紙を見る。

 必要事項は「名前」「年齢」「身長体重」「作業経験」のほか、「分かれば可搬重量」という欄もあった。作業の割り振りを決める為に、事前に細かい情報が必要らしい。


 カナメ、ジン、マリアの三人は、各々渡された書類に、黙々と記入を進めていく。 

 小さいテーブルで三人固まって書いているので、お互いの情報が丸見えだ。 


「えっ、お前二十六歳なの? てか字うまっ」


 ジンが手を止めた。視線の先にはマリアの書類。

 年齢26歳、身長166センチ、体重54キロ、作業経験なし、可搬重量不明。

 綺麗な文字がバランスよく並んでいて、カナメもつい目を引かれてしまった。かなり読みやすい。


「……いいからさっさと書け」


 マリアはそれだけ言い、さっさと書き終えた書類を提出しに行ってしまった。

 彼女が離れたのを見て、ジンはこっそりカナメに囁いた。


「割と年上だったな?」


「年上な感じはしてたでしょ」


 そう言うジンの書類を覗き込む。と言っても幼馴染なので大体知っている。もちろん、字がお世辞にも綺麗だと言えないことも。


 年齢22歳、身長177センチ、体重74キロ、作業経験なし、可搬重量70キロ(頑張れば80キロ)。


「えっ、頑張れば八十キロ持てるの!?」


「まあぶっちゃけ可搬重量とかわかんねえから、筋トレで持てた重さ書いたんだけどな。カナメはいくつよ」


 ジンはニヤッとして、カナメの書類を掠め取った。


「ちょ、ちょっと…!?」


「どれどれ」


 年齢22歳、身長164センチ、体重57キロ、作業経験なし、可搬重量不明。

 

「不明かよー。多分五十キロぐらいって書いとけば?」


「そんなわけないじゃん! 適当に書いて、本当は持てませんでしたってなりたくないからいいの! ほらもう提出するよ!」


 カナメはジンから書類を奪い取ると、マリアに続いて職員に提出した。

 そこでは数名の職員が、既に提出された書類を他の作業員へ渡し、指示を飛ばしている。人手が足りていないのか、応募が済み次第すぐに作業内容の割り振りが始まるようだ。


 最初に書類を提出したマリアは炊き出しの担当になり、一足先に現場へ向かっていった。


 そこからしばらく待っていると、指示を待つカナメとジンの元に、丁寧そうな男性職員と、ガテン系のような作業員が歩いてきた。


「お待たせしました。カナメさんは支援物資の仕分けとその運搬、ジンさんは瓦礫撤去をお願いします。案内しますので、細かい説明は現地で聞いてくださいね」


 丁寧な男性職員はカナメに、作業員はジンに挨拶すると、それぞれ別方向を指差した。

 どうやら、ここから各々の現場に案内して貰えるようだ。


「ジン、気をつけてね?」


「カナメもな。無理すんなよ」

 

 カナメとジンはお互いの拳をコツンと合わせると、職員に導かれるまま歩き出す。ジンとはここでお別れだ。


 そこから十数分と歩き、到着したのは学校の前。ここに物資を載せたトラックがやって来るらしい。

 二、三十人くらいだろうか、既にたくさんの人が集まっている。この人達が今日の仲間だ。


 それにしても、物資というのは何が来るのだろうかと、少しばかり不安が湧いてくる。

 カナメ自身は細身で力にもあまり自信がない。荷物が重くないことを願うばかりだ。


「……よし、頑張ろ」


 カナメは「よろしくお願いします!」と明るく声を上げ、その集団の中に混ざっていった。

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