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魔蝕のレゾンデートル  作者: 古里古
第二章
59/94

第59話 おかえり友達、おはよう朝ごはん


「あ、よかった……! おかえり!」


 カナメは声を張り上げてしまった。

 いつの間にか居なくなっていたジンが部屋に帰ってきた。日はとっくに昇りきっているというのに、なかなか帰ってこなくて心配していた。


「もう、どこ行ってたの? というか、いつからいなかったの?」


「悪い。昨日の夜から、ちょっと散歩してて……」


 ジンは申し訳なさそうに頭を掻く。

 すると、ふと何かに気づいたように、急にキョロキョロと部屋を見渡し始めた。


「あれ、マリアは?」


「ジンが帰ってこないから、先に朝ご飯食べに行っちゃったよ」


  マリアは朝起きて、不在のジンを全然気にする様子はなく──むしろなかなか帰ってこないと判断するなり、サッと身支度を済ませて出て行ってしまった。

 一方カナメは、あたふたしながらずっと部屋で待っていた。


「え、マジ? ごめん。俺たちも、どっか飯食いに行く?」


 ジンから誘ってくれたことに、カナメはつい嬉しくなってしまった。

 

 実を言うとジンが帰ってくるまでは、「まだ落ち込んでいたら、どうしたらいいんだろう」なんて不安が胸に張り付いていた。

 

 けれど今、思ったよりもジンの表情は明るい。元気そうかと言われたらまだ違うのだろうが、少なくとも、昨日纏っていたような重苦しさは感じなかった。


「うん、行こう! 多分まだ、どのお店もモーニングメニュー間に合うよ!」


「え、マジじゃん! 値段全然違うもんな、急ごうぜ」


 カナメとジンは駆け足で部屋を出る。

 残り時間はあまりない。急がなければ。


*

   

 何を食べたいかなんて希望は頭から放り投げて、二人はとにかくすぐ近くの、何処にでもあるようなチェーン店に駆け込んだ。

 そしてメニューを開いたと同時に、直感で食事を選んだ。

 

 時計を見ると、タイムアップまであと数分。

 カナメとジンは、顔を見合せた。


「うわ、結構ギリギリだったわ」

 

「ほんとだね、危なかったぁ」


 しばらく待っていると、すぐに料理がきた。

 他愛のない話をしながら、二人は各々食べ物を口に運ぶ。

 起きてからずっと心配していた反動からだろうか、胃は次々に栄養を欲していた。

 

 そして気づけばいつの間にか、目の前のお皿から、目玉焼きも、ベーコンも、ソーセージも、パンも何もかも無くなっていた。

 

 ホテルに帰ったら、いよいよ三人で話し合いか。そんなことを思いながら、カナメは最後のコーンスープを飲み干す。

 

 ジンは、もうこちらの食事が終わるのを待っていた。帰る雰囲気になる前に、カナメはふと気になったことを尋ねてみる。

 

「そういえば、夜のお散歩ってどこまで行ってたの?」


「えっ……あー……」

 

 ジンは恥ずかしそうに少し顔を伏せる。

 そして小さく唇を動かした後、一拍置いてボソッと呟いた。


「……後でも言うけど……俺も、色々考えようと思って」


「色々って、何を?」


 ジンは伏せた顔をさらに逸らす。

 尖った唇が何度も声を出そうとしては無音だけを吐き出し、一度喉で唸ったあと、やっともう一言答えた。


「……お前たちが、俺の事、考えてくれるって言ったから……」


 ジンの答えに一瞬戸惑い、そして「あははっ」と笑いが漏れてしまった。


「お前聞いといて笑うなよ!」


「えっ!? 違う違う!」


 カナメは慌てて両手をバタバタと振る。


「俺、今までずっと何もしてこなかったから、一緒に何か頑張れるんだって思ったら、嬉しくて」


「別に、そんなことねえと思うけど……」


 ジンは誤魔化すようにレシートを手に取ると、カナメと目線を合わせない為か、数字だけを眺め始めた。

 分かりきっている値段を何往復も確認しながら、ポツリと口を開く。


「今日は多分、世話んなるわ。……帰ろうぜ」


「世話するのは俺じゃなくて、マリアだと思うよ」


 二人は、ゆっくりと立ち上がり、席を後にした。

 

 何か、少し緊張してきた。

 でも、不思議と思ったより不安は大きくない。


 ジンもマリアもとても頼もしい二人だから、その二人が本気になれば、大抵の事はどうにかなっちゃう気がする。


 もちろん、自分だって頑張る。

 本当に力になれるかは、あまり自信がないんだけども。

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