第59話 おかえり友達、おはよう朝ごはん
「あ、よかった……! おかえり!」
カナメは声を張り上げてしまった。
いつの間にか居なくなっていたジンが部屋に帰ってきた。日はとっくに昇りきっているというのに、なかなか帰ってこなくて心配していた。
「もう、どこ行ってたの? というか、いつからいなかったの?」
「悪い。昨日の夜から、ちょっと散歩してて……」
ジンは申し訳なさそうに頭を掻く。
すると、ふと何かに気づいたように、急にキョロキョロと部屋を見渡し始めた。
「あれ、マリアは?」
「ジンが帰ってこないから、先に朝ご飯食べに行っちゃったよ」
マリアは朝起きて、不在のジンを全然気にする様子はなく──むしろなかなか帰ってこないと判断するなり、サッと身支度を済ませて出て行ってしまった。
一方カナメは、あたふたしながらずっと部屋で待っていた。
「え、マジ? ごめん。俺たちも、どっか飯食いに行く?」
ジンから誘ってくれたことに、カナメはつい嬉しくなってしまった。
実を言うとジンが帰ってくるまでは、「まだ落ち込んでいたら、どうしたらいいんだろう」なんて不安が胸に張り付いていた。
けれど今、思ったよりもジンの表情は明るい。元気そうかと言われたらまだ違うのだろうが、少なくとも、昨日纏っていたような重苦しさは感じなかった。
「うん、行こう! 多分まだ、どのお店もモーニングメニュー間に合うよ!」
「え、マジじゃん! 値段全然違うもんな、急ごうぜ」
カナメとジンは駆け足で部屋を出る。
残り時間はあまりない。急がなければ。
*
何を食べたいかなんて希望は頭から放り投げて、二人はとにかくすぐ近くの、何処にでもあるようなチェーン店に駆け込んだ。
そしてメニューを開いたと同時に、直感で食事を選んだ。
時計を見ると、タイムアップまであと数分。
カナメとジンは、顔を見合せた。
「うわ、結構ギリギリだったわ」
「ほんとだね、危なかったぁ」
しばらく待っていると、すぐに料理がきた。
他愛のない話をしながら、二人は各々食べ物を口に運ぶ。
起きてからずっと心配していた反動からだろうか、胃は次々に栄養を欲していた。
そして気づけばいつの間にか、目の前のお皿から、目玉焼きも、ベーコンも、ソーセージも、パンも何もかも無くなっていた。
ホテルに帰ったら、いよいよ三人で話し合いか。そんなことを思いながら、カナメは最後のコーンスープを飲み干す。
ジンは、もうこちらの食事が終わるのを待っていた。帰る雰囲気になる前に、カナメはふと気になったことを尋ねてみる。
「そういえば、夜のお散歩ってどこまで行ってたの?」
「えっ……あー……」
ジンは恥ずかしそうに少し顔を伏せる。
そして小さく唇を動かした後、一拍置いてボソッと呟いた。
「……後でも言うけど……俺も、色々考えようと思って」
「色々って、何を?」
ジンは伏せた顔をさらに逸らす。
尖った唇が何度も声を出そうとしては無音だけを吐き出し、一度喉で唸ったあと、やっともう一言答えた。
「……お前たちが、俺の事、考えてくれるって言ったから……」
ジンの答えに一瞬戸惑い、そして「あははっ」と笑いが漏れてしまった。
「お前聞いといて笑うなよ!」
「えっ!? 違う違う!」
カナメは慌てて両手をバタバタと振る。
「俺、今までずっと何もしてこなかったから、一緒に何か頑張れるんだって思ったら、嬉しくて」
「別に、そんなことねえと思うけど……」
ジンは誤魔化すようにレシートを手に取ると、カナメと目線を合わせない為か、数字だけを眺め始めた。
分かりきっている値段を何往復も確認しながら、ポツリと口を開く。
「今日は多分、世話んなるわ。……帰ろうぜ」
「世話するのは俺じゃなくて、マリアだと思うよ」
二人は、ゆっくりと立ち上がり、席を後にした。
何か、少し緊張してきた。
でも、不思議と思ったより不安は大きくない。
ジンもマリアもとても頼もしい二人だから、その二人が本気になれば、大抵の事はどうにかなっちゃう気がする。
もちろん、自分だって頑張る。
本当に力になれるかは、あまり自信がないんだけども。




