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魔蝕のレゾンデートル  作者: 古里古
第二章
53/92

第53話 意識と無意識の狭間の予感


「ご馳走様!」


「美味かったー!」


 カナメとジンは同時に声を上げた。

 二人の前には、綺麗に平げられた鉄のプレートとコーンスープの器、サラダバーの皿が並んでいる。

 

 カナメたち三人は、ステーキハウスに来ている。贅沢にもサラダバー付きだ。

 お金は流石にカナメとジンが二人で出すことにした。


 それぞれ頼んだ料理は、カナメが普通のステーキ、ジンはステーキとハンバーグのコンボプレート、マリアは一番小さいハンバーグだ。

 ジンの料理は物凄い量だったにも関わらず、信じられないほどの勢いで肉をかきこみ、カナメとほぼ同時に食べ終わっていた。

 

 それに比べてマリアは、まだ小さいハンバーグをゆっくりと食べている。

 そういえば今日の昼食も、最後まで食べていた気がする。じっくり味わう派なのかもしれない。


「俺ちょっと追加してくるわ」


 ジンはお皿を持って、サラダバーに一人向かっていった。胃袋無限じゃない?

 

 結局、食べ終わったのはカナメだけらしい。


「なんかいいよね、こういうの。みんなでご飯食べられて嬉しいよ」


 ジンの背中を遠目に眺めながら、カナメはポツリと呟いた。本心だ。

 

 大変な戦いの後だし、一緒に食べることで仲間の距離も縮まる気がした。


 けれどカナメの気持ちに対してマリアから返ってきたのは、鋭い一言だけだった。


「本気でそう思っているのか?」


「え、どういうこと……?」


 やっぱり、今日機嫌悪かったのかな。

 誘ったの、迷惑だったかな。

 

 そんなことを考えながらフリーズしてると、ジンがてんこ盛りのサラダと、デザートのゼリーを携えて帰ってきた。


「いや流石に多くない……?」


「死ぬほど走ったんだから許してくれよ。今は体が栄養欲してんの」


 ジンは腰をかけるなり、大口で野菜を吸い込んでいく。本当に野菜の量が信じられない。山じゃん。


 カナメは膨れたお腹を撫でながら、ほんの少しだけマリアの様子を伺ってみた。無表情で咀嚼している。

 怒ってはいないようだが、楽しくもなさそうだ。


「マリアって、結構のんびり食うんだな。一瞬で済ましそうなイメージあったから意外だったわ」


 ふと、ジンは咀嚼中のマリアに話しかける。

 ちょうど同じことを思っていたところだ。


「お前たちほど空腹じゃない」


 マリアはそれだけ答え、小さく切り分けたハンバーグを口に運んだ。対するジンは、今ゼリーを喉に流し終わっていた。


「あーー、めっちゃ食った!」


「ほんとだよ……相当疲れてたんだね」


「そりゃ疲れるだろ。今日の俺、どれだけ働いたって」


 まぁ、それもそうか。一番働いたのは誰かって言われたら間違いなくジンだろう。 

 ジンは両手を合わせ、満足気な顔をしている。

 

 しばらくジンと談笑していると、マリアの声が意識を引き戻した。


「待たせた。帰るぞ」


 いつの間にかマリアも食べ終えていた。

 その後特に居座ることもなく、普通に会計を終え、三人は店を後にした。


 *

 

 建物の外に踏み出すと、空はすっかり暗くなり、涼しい夜風が吹いていた。 

 記憶を頼りに数分歩くと、もうホテルが見えてきた。

 思ったより近くて安心した。そのまま歩を進めていく。


 ──すると、不意に後ろから肩を掴まれた。


「うわっ! びっくりした!」


「……少し、こいつと話したいことがある。先に部屋に戻っててくれ」


 マリアはカナメの肩を掴むと、ジンの顔を見た。ジンは一瞬怪訝そうな顔をしたが、頭を搔いて首を縦に振る。


「……分かった。じゃあ帰って、先にシャワーでも浴びとくわ」


 ジンはすんなりと踵を返し、そのままホテルへ向かって行った。


「は、話って……何?」


 改めて二人きりで話となると、少し身構えてしまう。理不尽に怒る人ではないのはわかっているが、今日のマリアはどこか機嫌が悪そうだ。

 

 マリアはジンの背中が見えなくなったのを確認すると、カナメを道の端っこまで連れ出し、ようやく口を開いた。


「いいか。今からする話にはすべて、一切誤魔化さず、本心で答えろ」


「……え?」

 

 重く、強い言い方だった。

 周りの空気が、一瞬にして冷えた気がする。久しぶりに感じた、マリアの冷たい空気だ。


「内容は三つ」

 

 マリアは三つ指を立て、一つずつ折りながら話す。


「ジンの足が、一時的とは言え魔物になったこと。お前の嫌がっていた“相手の足を潰す”という行為を、ジンが実行したこと。お前の抵抗が、私たちを危機に晒しうるということ」


 ──え。急に何……それ……何の話……?


「お前には今すぐ、これらに向き合ってもらわなければならない。お前の考え如何では、全員の命に関わる。逃げ腰は許さない」


「ちょ、ちょっと待ってよ! そんな話、急にされても……」


「命に関わると言っている」


 ぴしゃりと、マリアの圧が言葉を遮った。 

 マリアの目が、蛇のように射抜いてくる。

 

 まるで、心の底を──それも、自分自身ですら知らないところの奥底まで、見透かされているようだ。

 鋭く冷たいその視線に、断ることは許されていないのだと、理解した。 


 息の詰まりそうな圧に、喉仏が動く。


「……わ、わかった……ちゃんと答えられるか……わからないけど……」


 今から一体何を言われるのか、想像できない。

 いや、したくなかったんだと思う。

 

 けれど、想像なんかしなくたって、胸の中では嫌な予感が、ひたすらに暴れ回っていた。

 

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