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魔蝕のレゾンデートル  作者: 古里古
第二章
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第47話 “化け物”


 ジンは少しだけ胸を撫で下ろした。

 

 もう、カナメたちは建物から出ていった。何も心配することは無い。


 今やるべきは「ユウジの移動手段を壊す」、ただそれだけだ。


 ユウジは攻撃範囲を狭めるためか、壁に背を着けるように宙に浮いている。ユウジに掴まれているゴウは、いつでもこちらを攻撃できるように砲身を構えていた。

 

 ジンは、それらに狙いを定め、思い切り地面を蹴った。

 

「……くそ……っ!」


 ユウジが一言だけ声を荒らげ、更に高度を上げる。同時にゴウが、ジンの向かう先を狙って砲口を放った。


 だが、「たかだか人間が、魔物の力を引き出してるだけ」の速度に、ジンの「本物の魔物の足」が負けるはずもなかった。


 ジンは、宙で身体を回転させて向きを変える。そのまま近くの壁を蹴り、一気にユウジに接近した。


 下では砲弾が、けたたましく音を立てながら壁を崩している。

 しかし、ジンにとってはそんなこと、ほんの些細な雑音でしかなかった。


「く……っ、ゴウさん!」


「うおお、来んじゃねえ!!」


 ゴウが砲身を振り回す。それに合わせてジンも足を振り抜き、下に叩き落とした。

 いや。蹴り落とした勢いのまま、ジンは砲身から足を離さず、一緒に落下した。

 

 ユウジも反応できないほどの速度で、地上に叩きつけられた砲身は地面を粉砕し──獣の力に耐えきれず、ジンの足元で粉々に砕け散った。


「ぎゃあああああああああ!!!」


 ゴウが煩く悲鳴を上げた。肘から先で変形していた砲身は、ごっそり割れて無くなっている。

 せめて爪で引っ掻いて殺さないよう、ゴウを足の裏で蹴り飛ばした。


「ぐはっ! ……ひ、ひ……っ、ヒィィィ……ッ!!」

 

 巨体に似つかわしくない、甲高い声がゴウの口から漏れる。砲撃が使えないなら、力のない人間と何も変わらない。

 

 むしろ、“砲身に変形していた人間の腕は、もう無くなってるはずだ”。ただの人間にも、見劣りするかもしれない。

 

 ユウジはゴウを置いて背後に下がる。だが、その先にあるのは壁だ。ヤツの逃げ場は上だけ。無いのと同然だ。

 

 ユウジの顔は動揺で歪みきっていて、先程までの余裕の面影はない。


「な、何なんだお前……」


 ユウジは声を震わせながらジリジリと宙へ上がっていく。ジンは面倒くささにため息をついた。


「上に逃げるのは止めといた方がいいぞ。俺は今からお前を飛べなくする。空高く飛ぼうものなら、そのまま地面に真っ逆さまだ。……命まで取って食うつもりはないんだ。大人しくやられてくれるよな」


 ジンは、獲物を追い詰めるようににじり寄る。

 宙にいようが関係ない。距離さえ射程圏内なら、どこにいても捉えることが出来る。


「……ダメ元で聞いてみるが、俺の命を取るつもりがないんじゃあ、このまま見逃すって選択肢があってもいいだろ? そうすれば、俺はもうお前らを追いかけるのをやめるさ……ゴウさんも、もう戦えそうにないしさ……」


 ──散々人を殺そうとしたくせに、自分の命は惜しくなったら命乞いか。

 腑抜けた提案に、呆れてものも言えない。


「“お前の機械の足を壊す”って、あいつらに約束したからな。それだけ果たしたら終わる。安心しろ、足だけだ」


 だが、せっかくの警告も虚しく、ユウジの足から強い熱風が吹き出した。全力で上に逃げる気らしい。


 ジンはすぐさま飛ぶ。あっという間にユウジよりも高く。

 そしてユウジの胸ぐらを掴み、一緒に地面に戻ってきた。


「……おい、聞いてなかったのか? 空に逃げるということは、お前は飛ぶ力を失った瞬間、そのまま落ちてお釈迦になるってことだ」


「……ぐ……ぅ……」


「まぁ、そんな警告にはもう、意味なんて無いけどな」


 ジンはユウジの胸ぐらを掴んだまま、その身体を高く持ち上げると──大きな足先の爪で、ユウジの足の裏を貫いた。


「ぐぁぁぁあああ!! あし……っ、足がああッ!!」


「足だけで済んで良かっただろ? 望み通り見逃してやるんだ、贅沢言うな」


 ジンはもう、倒れた二人への興味は失っていた。背を向けて、カナメたちが向かっていった出口まで歩き出す。


 倒れてる二人の有様をカナメが見たら、きっと怒るだろうな。

 ふと、そんな気持ちが頭をよぎった。

 

 長居していたら、カナメが心配して戻ってくるかもしれない。そうなる前に、カナメたちの元へ戻ろう。


 そんなことを考えながら、ジンは散らばる瓦礫を軽々と飛び越え、出口までひとっ飛びした。


 ──カナメの背中を見つけた時には、ジンは自分の足が今どうなっているのか、とっくに忘れてしまっていた。

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