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魔蝕のレゾンデートル  作者: 古里古
第二章
43/93

第43話 嵐を迎える道


 目を瞑りたくなるような日差しの中、爆ぜる音が空気を裂いた。

 焦げた匂いと砂埃が肺に刺さる。

 背後で悲鳴が連鎖し、崩れた建物の粉塵が光を曇らせた。

 

「マジか……全然容赦ねえじゃねえかよ……」


 ジンは、たまに飛んでくる建物の破片と砲撃をかいくぐりながら、背中にカナメ、両腕にマリアを抱え全力で走っていた。

 

 一人ならまだしも、二人も抱えるとなると、どうしても上体にも身体強化の能力を割かなければ支えられない。結果脚力を十分に強化できず、既にジンの脚は、骨が軋みを上げていた。

  

 こんな街のど真ん中で、敵を迎え撃つわけにはいかない。

 だが、迫り来る能力者は巻き添えなど気にせず追いかけてくる。それどころか、電柱をへし折り、屋根に穴を空け、目に映るもの全てを破壊して、直線距離で進む道を作っていた。

 

 一応マリアが、被害の広がらない程度に宙に向かって攻撃し、牽制を試みてくれてはいる。

 だが、周囲の被害をものともしない相手にはあまり届かず、何の脅威にもなっていなかった。

 マリアは腕の中で、遥か背後を睨みつけながら呟いた。

 

「攻撃もしてきている上でこのスピードについてくるとはな。……一人じゃないな?」


「ああ、二人いる。あいつらも俺たちみたいに、スピード担当が攻撃役を抱えて走ってんだ」


 走りながらでも、敵の気配は探れる。

 ただ、集中はできない。今わかるのは、人数と力の大きさ、そして、逃げ切れない程のスピードを持っているということだ。


 気配に気づいてすぐ走り出したというのに、その距離は離れるどころか、じわじわと追い詰められている。


 止むことのない爆発と崩壊の轟音の嵐に、背中でカナメが、細く声を漏らした。

  

「ど、どうしよう……全然見逃してくれないよ……」

 

「返り討ちにしてやるしかない。お前はまだ慣れていないんだ、魔物に戦い方でも訊いておけ」


 マリアがすかさず返した答えに、カナメはハッと口を閉じ静まり返った。魔物と会話を始めたようだ。

 あまり頼りきりになるつもりはないが、正直カナメの覚悟決まった後の襲撃だったのは、不幸中の幸いだったと思う。 


 それにしても、こういう時に限って賑わった街並みが続き、足を止められる場所がない。

 焦りが思考を狂わせそうになる寸前、既に崩壊しきった建物が一瞬だけ視界に飛び込んできた。

 人気がないことを祈り、すかさずそちらへ向きを変える。

 

 すぐに正面から、焦げ臭い匂いが漂い、崩れた街並みが顔を出した。

 

「……心は痛むけど、あそこなら人もいねえよな……!」

 

 ジンは、辛うじて形を保っていた建物の前、瓦礫だらけの地面に着地する。周囲の道路は盛り上がり、目に映る他の建物も軒並み廃墟になっていた。


 敵も当然追いかけてくる。

 ジンは、空から降り注いでくる砲撃を躱しながら後退し、辺りを見渡す。そして、身を隠すのに丁度よさそうな廃ビルを見つけると、咄嗟に駆け込んだ。

 

 入口から見えにくそうな奥の陰に隠れ、ようやくジンは、カナメとマリアを降ろす。同時に、片膝が地に着いてしまった。

 下半身が、自身の身体を嘲笑うかのように震えている。中途半端な強化のせいで、身体が負荷に耐えられていなかった。


「わ、わりぃ……もう走れねえ……」


「十分だ。最後の最後、逃げる時だけもう一度担いでもらう。それまで体を休めておけ」


 そう言うとマリアは、ジンの前に立ち塞がるように躍り出る。


「確認だ。……こんな状態でも、誰一人殺さない。いいんだな?」


 マリアは一切振り返らない。

 だが、その声は今まで聞いたどの言葉よりも真っ直ぐに、こちらを向いていた。


「ああ、頼むわ」「……うん、ありがとう!」


 ジンとカナメは同時に答える。


 敵の気配がする。身を隠しているとはいえ、見つかるのも時間の問題だろう。

 身動きできない悔しさに唇を噛みながら、ジンは早く呼吸を整えようと、大きく息継ぎをした。

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