第43話 嵐を迎える道
目を瞑りたくなるような日差しの中、爆ぜる音が空気を裂いた。
焦げた匂いと砂埃が肺に刺さる。
背後で悲鳴が連鎖し、崩れた建物の粉塵が光を曇らせた。
「マジか……全然容赦ねえじゃねえかよ……」
ジンは、たまに飛んでくる建物の破片と砲撃をかいくぐりながら、背中にカナメ、両腕にマリアを抱え全力で走っていた。
一人ならまだしも、二人も抱えるとなると、どうしても上体にも身体強化の能力を割かなければ支えられない。結果脚力を十分に強化できず、既にジンの脚は、骨が軋みを上げていた。
こんな街のど真ん中で、敵を迎え撃つわけにはいかない。
だが、迫り来る能力者は巻き添えなど気にせず追いかけてくる。それどころか、電柱をへし折り、屋根に穴を空け、目に映るもの全てを破壊して、直線距離で進む道を作っていた。
一応マリアが、被害の広がらない程度に宙に向かって攻撃し、牽制を試みてくれてはいる。
だが、周囲の被害をものともしない相手にはあまり届かず、何の脅威にもなっていなかった。
マリアは腕の中で、遥か背後を睨みつけながら呟いた。
「攻撃もしてきている上でこのスピードについてくるとはな。……一人じゃないな?」
「ああ、二人いる。あいつらも俺たちみたいに、スピード担当が攻撃役を抱えて走ってんだ」
走りながらでも、敵の気配は探れる。
ただ、集中はできない。今わかるのは、人数と力の大きさ、そして、逃げ切れない程のスピードを持っているということだ。
気配に気づいてすぐ走り出したというのに、その距離は離れるどころか、じわじわと追い詰められている。
止むことのない爆発と崩壊の轟音の嵐に、背中でカナメが、細く声を漏らした。
「ど、どうしよう……全然見逃してくれないよ……」
「返り討ちにしてやるしかない。お前はまだ慣れていないんだ、魔物に戦い方でも訊いておけ」
マリアがすかさず返した答えに、カナメはハッと口を閉じ静まり返った。魔物と会話を始めたようだ。
あまり頼りきりになるつもりはないが、正直カナメの覚悟決まった後の襲撃だったのは、不幸中の幸いだったと思う。
それにしても、こういう時に限って賑わった街並みが続き、足を止められる場所がない。
焦りが思考を狂わせそうになる寸前、既に崩壊しきった建物が一瞬だけ視界に飛び込んできた。
人気がないことを祈り、すかさずそちらへ向きを変える。
すぐに正面から、焦げ臭い匂いが漂い、崩れた街並みが顔を出した。
「……心は痛むけど、あそこなら人もいねえよな……!」
ジンは、辛うじて形を保っていた建物の前、瓦礫だらけの地面に着地する。周囲の道路は盛り上がり、目に映る他の建物も軒並み廃墟になっていた。
敵も当然追いかけてくる。
ジンは、空から降り注いでくる砲撃を躱しながら後退し、辺りを見渡す。そして、身を隠すのに丁度よさそうな廃ビルを見つけると、咄嗟に駆け込んだ。
入口から見えにくそうな奥の陰に隠れ、ようやくジンは、カナメとマリアを降ろす。同時に、片膝が地に着いてしまった。
下半身が、自身の身体を嘲笑うかのように震えている。中途半端な強化のせいで、身体が負荷に耐えられていなかった。
「わ、わりぃ……もう走れねえ……」
「十分だ。最後の最後、逃げる時だけもう一度担いでもらう。それまで体を休めておけ」
そう言うとマリアは、ジンの前に立ち塞がるように躍り出る。
「確認だ。……こんな状態でも、誰一人殺さない。いいんだな?」
マリアは一切振り返らない。
だが、その声は今まで聞いたどの言葉よりも真っ直ぐに、こちらを向いていた。
「ああ、頼むわ」「……うん、ありがとう!」
ジンとカナメは同時に答える。
敵の気配がする。身を隠しているとはいえ、見つかるのも時間の問題だろう。
身動きできない悔しさに唇を噛みながら、ジンは早く呼吸を整えようと、大きく息継ぎをした。




