↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔蝕のレゾンデートル  作者: 古里古
第二章
42/92

第42話 一歩先、変わった景色


 ようやくカナメの全身に力が戻り、鉛のようだった手足が軽くなった。

  

 もうだいぶ、ジンとマリアを待たせてしまったらしい。空を見上げると、既に太陽は真上から西に傾いている。

 マリアの攻撃に濡れてしまった服も、温かい日差しに長く晒されて、気づけば草花の香りを纏うほど乾いていた。 

 

 今は三人とも土手に腰かけ、街で購入した昼食を食べている。疲れた身体にカツサンドが染み渡り、カナメは胃から喜びの声を上げた。


「あーー、うまーーー!」


 体が肉を欲しているのがわかる。今なら焼肉の食べ放題だって無限に食べられそうだ。

 

 そんなカナメを見て、ジンは焼きそばパンを片手に呟いた。


「なんだ、もうすっかり元気そうだな。一時はどうなることかと」


「だから心配かけてごめんねって」


 カナメが体起こすまでの間、ジンはずっと落ち着きをなくしていた。

 彼自身も昨日、マリアの攻撃に当たっている。身体強化の能力を使って防いでもなおダメージがあったことを考えると、気が気でなかったようだ。

 それどころか、今もなお険しい表情をしている。


「もう、そんな心配そうな顔しないで?」

 

「心配はするだろ。いや、お前のやる気を信じてないとかじゃねえけどさ」


 ジンは「はぁ……」とため息を漏らす。

 そして少し離れたマリアに聞こえないよう、小さく耳打ちしてきた。


「あんまりこの話題、出さない方がいいんだろうけどさ……あん時のトラウマ、まだ残ってんだろ」

  

 思わず、カツサンドを持った手がぴくりと止まってしまった。


「……やっぱり、バレちゃってた、よね……」


「何となくだけどさ」


 ジンは、バツが悪そうに続ける。


「前から、たまに腕さすってんなとは思ってたんだよ。昨日、カナメが盾使った後顔色悪くなったの見て、盾使うの本気で嫌なんだなって思ってさ」


「……そっか」


 ジンが初めて戦った日のことを思い出した。

 そういえば、盾出した後に腕をさすっていたら、隠し事があるなら溜め込むなって言われたんだった。

 結構見られてたんだな、と思う。

 

「情けないよね、俺……」


「むしろ仕方ねえよなって思ってるよ。だから別に、無理してまで戦わなくなって……」


 つい、ジンの横顔に目を向ける。

 そう思ってくれることが、素直に嬉しかった。

 このジンの優しさに、何度救われたことか。


「ほんと優しいよね、ジンって」


「よせって。そんなんじゃねえよ」


 ジンは焼きそばパンを胃に入れ終えると、手元からカナメに視線を戻した。


「……まぁ、カナメが大丈夫ならいいけどさ。毎回しんどそうにされたら、気にはなるな」 

 

「それもそうだよね……」


 ジンが以前、右腕の隠し事を聞き出す為に「等価交換だ」って言って、自分の弱みを教えてくれた時のことを思い出した。

 

 結局あの時は、ただ言葉にするのが怖くて、そのまま、ジンに言わずじまいだった。


 けれど、そもそもジンに隠すようなことではないし、何ならほぼバレていることもわかってしまった。


 だからだろうか、今なら不思議と、落ち着いて話せそうな気がした。

 ジンにだけ聞こえるように、カナメは小さく呟いた。

 

「盾、使うとさ……あの時のこと思い出しちゃうんだ。それが、ずっと怖くてさ……」


 ジンは顔色一つ変えずに聞いてくれた。

 カナメは、自分の腕をチラリと見ながら、言葉を続ける。


「盾に何かぶつかると、そんなはずないのに、あの時と同じ感覚が右腕に出てきちゃうんだ……だから、それを誤魔化したくて、すぐ腕を触っちゃう」


「……まぁ、そんな感じかな、とは思ってたよ」


 ジンは安心したように頭を搔いた。


「そんな感じとは思ってたけど、前は教えてくれなかったから、なんか重大なこと隠してたらどうしようかなとも考えてた。言ってくれてよかったよ」


 相当心配してくれていたようだ。

 さすがに申し訳なくなってしまう。

 でも、少しだけ心のモヤモヤが晴れた。


「ごめんね。でも、俺も言えてスッキリした。聞いてくれてありがとう」


 喋ったからって何か変わるわけではないだろうけど、誰にも言わないよりは、気持ちが楽になった気がする。

 そのうち、苦しまずに盾を使えるようになれたらいいな、と思った。

   

 しばらくの間、心地よい風に当てられてのんびりしていると、最後に昼食を食べ終えたマリアが「さて」と立ち上がった。

 

「昨日今日と、派手に力を使ってしまったからな。ずっとここに留まっていたら、下手に気配を嗅ぎ付けられるかもしれない。移動しよう」


 ジンはハッとしたように続けて立ち上がり、カナメに手を差し伸べる。

 

「言われてみればそうだわ。カナメ、歩けるか?」


「うん、もう大丈夫だよ」


 三人は、朝来た方向へと歩き始める。

 ほどなくして、先程まで滞在していた街に到着した。

 

 しかし、同じ街に泊まるのは危険だろうということで、急ぎ足で街を抜けようということになった。

 

 賑やかな街を歩いていると、殺し合いが嘘みたいに思えてくる。周囲には、ごく普通の日常が流れていた。


 だが、ジンは時折背後に視線を走らせていた。「……どうしたの?」と聞こうとした瞬間、ジンの足が止まる。


「……見つかってる」


 ジンは背後を見つめる。その先は建物ばかりで、何も見えない。しかし、ジンの顔はみるみるうちに険しくなっていった。


「能力者がこっちに向かってきてる……! こんな街中で襲われたら、たまったもんじゃないぞ……」


 ……えっ。

  

 カナメは唾を飲んだ。

 魔物に詳しくなくたって、それがマズイことぐらいすぐに分かった。

 

 逃避行の中でたびたび見かけた、瓦礫と化した街並みを思い出し、恐怖が込み上げた。


 マリアが瞬時にジンへ声をかける。


「おい、二人同時に担いで移動できるか? せめて人気のない場所へ逃げたい」


「やってやるよ。けど多分、河川敷までは戻れない。着く前に街中でぶつかりそうだ。とりあえず前に走って、逃げられればよし、無理ならどこか見つける。それでいいよな?」


「問題ない。頼んだ」


 ジンは二人同時に持ち上げようとした。

 けれど、すぐに手を離す。


「悪い、カナメ背中で。両手に一人ずつは無理だ」


「わかった!」


 能力者の襲撃なんて久しぶりだ。

 こんなに急に訪れるということをすっかり忘れていた。


 ──怖がっている場合じゃない。戦いになったら、ちゃんと盾を使わなければ。

 そのために訓練したんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。