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魔蝕のレゾンデートル  作者: 古里古
第二章
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第40話 臆病者の足跡


 朝だ。


 カーテンの隙間から差し込む白い光が、部屋中の空気を暖めていた。


「お、やっと起きたか」


 ジンの声に頭を小突かれ、目を開く。

 頭が痛い。夜中に色々と考えすぎてしまったからだろうか。まだ脳の回路が熱を持っているようだ。


 カナメは体を起こす。

 夜更かししてしまったせいで、また寝不足だ。


 ジンとマリアはとっくに身支度を終えているようで、ベッドの上でゆったりと座っている。

 本当に寝坊助をかましてしまったみたいだ。

 チェックアウトの時間まではまだ余裕があるが、カナメも急いで支度を始めた。


 昨夜の話が、頭から離れない。

 顔を洗いながら、歯を磨きながら、カナメはまだ考えていた。


 戦う意味だとか、無駄な憑依だとか、そういう難しい話じゃない。それよりも、もっと単純で、大事なことがある。

 

 ──やはり盾だけは、ちゃんと使えるようになるべきなんじゃないだろうか。


 正直、昨日も盾に攻撃をくらった時、右腕が嫌な記憶を思い出してしまった。

 前にも同じ感覚があったのに、それでも怖くて手を引っ込めてしまう。


 けれど、昨夜ジンが、一緒に生きようと言ってくれて、「今のままじゃ良くないな」と思った。

 盾を出すことしか出来ないのに、それすらもやらずに守ってもらうばかりだなんて、一方的すぎる。

 

 ジンに、死んで欲しくないって思った。

 だから、ジンのことも、ちゃんと守れるようにならなきゃ。


 ──今の俺には、これしか出来ないんだから。


 着替えも終わった。あとはのんびり時間を待つだけだ。


 二人と同じようにベッドに腰掛け、息を吸う。

 

 

「二人とも、聞いて欲しいことがあるんだ」

 

 声に出した瞬間、指先がスーッと冷たくなった気がした。恐怖が「本当にやるつもりなのか?」と煽ってくる。

 

 ……でも、やる。


「ん? どうした?」


 ジンは返事とともに向き直り、マリアは姿勢を崩さないまま、一瞬だけ視線をこちらに向けた。耳は傾けてくれるみたいだ。


「……俺、本当は盾使うの、怖くて仕方ないんだけど……やっぱり、しっかり使えるようになりたいんだ」


「そりゃ、なんでまた急に?」


 ジンは、不思議そうに返してきた。

 それもそうだと思う。

 だって昨日の朝、情けないところを見せてしまったばっかりなんだから。


「……盾しか使えないのに、それすらしないなんて、不公平だなって思って……」


 だからこそ、今ちゃんと、言葉にしたい。


「昨日、俺だけ訓練出来なかったから……もし良ければ、もう一度やらせて欲しい」 


「そうか。なら」


 マリアが静かに声を挟んだ。


「先に、力に抵抗がある理由を聞かせてもらおう。それを克服する前に練習だけしたところで、実戦で扱えるとは思えん」


 息が、止まった。


 抵抗がある理由なんて決まっている。

 だが、“それをマリアに言うのか”……?


「マリア、待ってくれ。その理由について、俺は心当たりがある。……あまり、聞かないでやって欲しい」


 言葉を失ったカナメに代わり、ジンが答える。

 それを聞くなり、マリアは興味を失ったように目を閉じた。


「……そんな状態で実戦を迎えられても困るな。盾を使うつもりで出しゃばったとして、結局何も出来なければ、その場で死ぬのは私たちだ。その程度なら、引っ込んでもらった方がマシだな」


「おい、そんな言い方……!」


 ……いや。

 確かに、マリアの言う通りだ。

 ぐうの音も出ない。


 力を使いたくない理由は──。


 それを、口にしようとした瞬間。

 あの時の光景が脳に張り付いた。

 声が出なくなる。喉が締まって、音のない悲鳴がせり上がった。


「……マリア、勘弁してやってくれ。あんまり軽々しく話せることじゃなくて」


 駆け寄ったジンが、背中をさすってくれた。


 ……初めて力を使った時も、ジンにこうしてもらったっけ……。


「……まぁいいだろう。訓練してみて、実際に力を使えるようになるんなら、それはそれでいい。チェックアウトしたら、付き合ってやる」


 その言葉に、内心ほっとしてしまった。


 体から力が抜け、喉につっかかっていた空気が、外と肺の行き来を始めた。


 やはり、あの時のことを思い出すのは怖い。

 

 だけど、マリアの言葉が耳の残って離れなかった。

 

 “そんな状態で実戦を迎えられても困るな。”

 “その程度なら、引っ込んでもらった方がマシだな。”


 ……そうは、なりたくない。

 訓練はして貰える。そこで、自分も戦えるんだって、自信を持ちたい。

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