第4話 理の向こう側
ジンはしばらく口を閉ざしていたが、やがて重く言った。
「……魔物の狙いは、俺たちを殺し合わせることらしい」
「……なにそれ、どういうこと?」
カナメは思わず声を裏返らせる。
「信じられねぇよな。俺だって馬鹿げてると思う。でも、ニュースで前に騒ぎになってたろ、“頭で声が聞こえる”っていう大規模な集団幻聴と、各地での不審死の連続。それが魔物の仕業だったって訳だ」
「……そんな、全国規模で?」
確かにそんな感じのニュースは見たことがある。ただ、現実味の無さに遠い世界の話だと思って全く関心を持たなかった。
ジンは頷いて続ける。
「世界中だってよ。…魔物が取り憑いた人間同士が戦って、勝った奴だけが生き残る……そんな戦いなんだと」
空気がひやりと揺れた気がした。
普通ならこんな話なんて信じていない。
しかしもう、"普通"では説明のつかない声を、実際に聞いてしまっている。
その事実が重くのしかかり、常識を支えていた足場が一瞬で崩れていくのを、カナメは感じていた。
「その通りなら……俺とジンは……?」
「奴らの言う通りなら……俺とお前は殺し合う、ってことになる」
そこまで言うとジンは呆れ顔を浮かべ、鼻で笑い飛ばす。
「……って言われても、はいそうですかって納得できますかって話だ。律儀に従うのも馬鹿らしいしな。安心しろ、俺がカナメに刃向けるなんて、あるわけねぇから」
その言葉にカナメは胸を撫で下ろす。
まだ何も分からないという不安は居座っているものの、少なくともジンの言葉は信用しようと思えた。
「…それにしてもよ、なんでカナメの魔物の声はずっと聞こえなかったんだろうな?」
「確かに……俺こんなこと、微塵も知らなかった。どうして、何も言ってくれなかったの……?」
恐る恐る自分の中の声に問いかけてみる。
《……確かに、戦って勝つことが俺たち魔物の存在意義だが、全員が血気盛んな訳では無い。俺は生き残るために潜伏を選んでいた。それだけだ》
「うわっ!……本当に返事が返ってきた……ちゃんと会話できるんだ……」
《……何を驚く。話しかけたのはお前だろう》
目をぱちくりさせるカナメにジンは声をかける。
「…で、なんて言ってたんだ?魔物の声って自分にしか届かないから、俺には聞こえないんだよ」
「あっ、ごめん、そうなんだ。…えっとね…、生き残るために隠れてた…とか…」
「…何だそれ。でも戦わずにそんなことする魔物もいるんだな。カナメの魔物がそういう奴でよかったぜ」
するとようやく不安で曇っていたジンの顔に光が灯り、よく知ってる笑顔に戻った。
「実はさ、俺の魔物がよ、お前を見たときからずーっと言ってたんだよ。"こいつは能力者だ、油断させて攻撃してくる"ってな。俺としてはそんなわけねぇって思ってたけど……気にしないわけにもいかなくて。……疑って悪かったな」
その言葉に、胸の奥の氷が少しだけ解けた気がした。嘘の見えないジンの顔にカナメはほんの一瞬だけ安堵する。
*
──ジンはカナメに笑顔を向けていたが、心の奥底では別の不穏な声を聞いていた。
《……甘いな。生き延びる事が目的の魔物なんているはずがない。見え透いた嘘だ。いずれ殺し合うことになるぞ》
ジンは奥歯を噛み締め、言葉にせずとも確かな意志を胸に刻んだ。
……そんな日が来るもんかよ。




