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魔蝕のレゾンデートル  作者: 古里古
第一章
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第4話 理の向こう側


 ジンはしばらく口を閉ざしていたが、やがて重く言った。

 

「……魔物の狙いは、俺たちを殺し合わせることらしい」


「……なにそれ、どういうこと?」

 

 カナメは思わず声を裏返らせる。


「信じられねぇよな。俺だって馬鹿げてると思う。でも、ニュースで前に騒ぎになってたろ、“頭で声が聞こえる”っていう大規模な集団幻聴と、各地での不審死の連続。それが魔物の仕業だったって訳だ」


「……そんな、全国規模で?」


 確かにそんな感じのニュースは見たことがある。ただ、現実味の無さに遠い世界の話だと思って全く関心を持たなかった。

 

 ジンは頷いて続ける。

 

「世界中だってよ。…魔物が取り憑いた人間同士が戦って、勝った奴だけが生き残る……そんな戦いなんだと」


 空気がひやりと揺れた気がした。

 

 普通ならこんな話なんて信じていない。

 しかしもう、"普通"では説明のつかない声を、実際に聞いてしまっている。

 その事実が重くのしかかり、常識を支えていた足場が一瞬で崩れていくのを、カナメは感じていた。


「その通りなら……俺とジンは……?」


「奴らの言う通りなら……俺とお前は殺し合う、ってことになる」


 そこまで言うとジンは呆れ顔を浮かべ、鼻で笑い飛ばす。


「……って言われても、はいそうですかって納得できますかって話だ。律儀に従うのも馬鹿らしいしな。安心しろ、俺がカナメに刃向けるなんて、あるわけねぇから」


 その言葉にカナメは胸を撫で下ろす。  

 まだ何も分からないという不安は居座っているものの、少なくともジンの言葉は信用しようと思えた。


「…それにしてもよ、なんでカナメの魔物の声はずっと聞こえなかったんだろうな?」


「確かに……俺こんなこと、微塵も知らなかった。どうして、何も言ってくれなかったの……?」


 恐る恐る自分の中の声に問いかけてみる。


《……確かに、戦って勝つことが俺たち魔物の存在意義だが、全員が血気盛んな訳では無い。俺は生き残るために潜伏を選んでいた。それだけだ》


「うわっ!……本当に返事が返ってきた……ちゃんと会話できるんだ……」


《……何を驚く。話しかけたのはお前だろう》


 目をぱちくりさせるカナメにジンは声をかける。


「…で、なんて言ってたんだ?魔物の声って自分にしか届かないから、俺には聞こえないんだよ」


「あっ、ごめん、そうなんだ。…えっとね…、生き残るために隠れてた…とか…」


「…何だそれ。でも戦わずにそんなことする魔物もいるんだな。カナメの魔物がそういう奴でよかったぜ」


 するとようやく不安で曇っていたジンの顔に光が灯り、よく知ってる笑顔に戻った。


「実はさ、俺の魔物がよ、お前を見たときからずーっと言ってたんだよ。"こいつは能力者だ、油断させて攻撃してくる"ってな。俺としてはそんなわけねぇって思ってたけど……気にしないわけにもいかなくて。……疑って悪かったな」


 その言葉に、胸の奥の氷が少しだけ解けた気がした。嘘の見えないジンの顔にカナメはほんの一瞬だけ安堵する。


 *

 

 ──ジンはカナメに笑顔を向けていたが、心の奥底では別の不穏な声を聞いていた。


《……甘いな。生き延びる事が目的の魔物なんているはずがない。見え透いた嘘だ。いずれ殺し合うことになるぞ》


 ジンは奥歯を噛み締め、言葉にせずとも確かな意志を胸に刻んだ。


 ……そんな日が来るもんかよ。




 

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