第31話 土手に輝く先導者
カナメ、ジン、マリアの三人は、行く宛てもなく、ただ道なりに歩いていた。
町を出てからもうだいぶ歩いているというのに、遠くに見える工業地帯の尾根が多少変わるぐらいで、周りの景色は全然変わらない。
穏やかな風が吹き、夕暮れが近いことを肌で知る。
「かー、この辺はほんとに郊外なんだなあ。日も暮れそうなのに全然先が見えねえや」
「しばらく何も無いぞ。少なくとも歩きでは街には着かないな」
「うげ……。今日こそ野宿かよ」
ジンのボヤきに、マリアは当たり前のように答える。
逃避行を始めて数日、奇跡的に野宿をかわしていたカナメとジンだったが、やはり奇跡は続かない。ついに初めての野宿だ。
ジンはゲンナリと肩を竦めたまま愚痴を漏らす。
「はあ。こんなことなら、もっとちゃんと旅支度すりゃよかったぜ……」
「おい」
その声にマリアが冷たく反応する。相変わらず抑揚のない声だが、様子を深く伺うまでもなく、呆れの色が滲んでいた。
「まさか旅に出ておいて、野宿の支度もしてないのか?」
「あー、いや……」
間髪入れずにカナメは割り込んだ。
横目でジンを見ると、身構えてるのか、ただ答えるのが面倒臭いだけなのか、目も口も細めている。
「俺たち実は……旅支度してる途中で能力者に追われちゃって、慌てて逃げ出してきたんだよね」
カナメは、半分は本当で、半分はジンの為に削ぎ落とした言い訳を並べた。
正直に言うとジンに関しては、「旅支度を終わらせた」と言っていたのだが、それはなかったことにした。
本当に単なる準備不足以外の何者でもなかったが、マリアも「ならば仕方ないか」と納得してくれたので、良しとする。
カナメのフォローにジンは、ごめんとばかりに小さく片手を上げた。そしてすぐに唇を尖らせ、マリアの方に向き直素。
「そう言うマリアはどこまで準備してんだ? 一瞬で準備終わってたけど」
マリアは目を向けることなく淡々と答える。
「雨だけ凌げれば困らない程度には。寝袋や調理器具……最低限の旅に必要そうな物は、大体ある」
「え……凄い……」
どおりでこちらの装備に突っかかる訳だ、とカナメは感嘆の声を上げた。対するジンは少し後ずさり、見るからに機能的な彼女のリュックを指差す。
「えっ、もしかしてガチ装備? なんでそんなん持ってんの?」
「元々備えていたんだ。初めて襲撃された時から、いつかは地元を離れることになるとは思っていた」
「……あー……」
冷たい風が吹きつけた。
マリアの住んでいた家は、「家族諸とも“知り合いの能力者”に襲われた」という。流石にその話題に触れることは出来ず、ジンは気まずさに口を閉じてしまった。
マリアは気にする素振りを見せないが、かと言って何か言葉を続けるでもない。
嫌な沈黙に飲み込まれかけ、カナメは慌てて声を上げた。
「そ、そうだ! 次の街ってホームセンターとかあるかな? 今日は上着でも掛けて寝るとして、やっぱり寝袋ぐらい欲しいなって思って!」
カナメの発言にジンは一瞬頷きかけたが、すぐに自分のリュックを睨みつけ、低く唸る。
「まぁ確かに欲しいけどさ……寝袋っていい値段しそうだし、そもそも俺たちはマリアみたいなトラベルリュックじゃないから、サイズ的にも入らねえと思うんだよなぁ」
その至って普通なリュックを見せびらかしながら、ジンは肩を竦めた。カナメのリュックもそうだが、実際お世辞にも、旅に向いてるとは言い難い。
マリアは、そんな二人のリュックを指差しながらため息をつく。
「やむを得なかったとは言え、目に余る準備不足ようだな。願わくばリュックから買い揃えろと言いたいところだ」
……それは本当にその通りだと思います。
耳が痛いなあ、と呟きながら、カナメは横に首を振った。
「そうしたいのは山々なんだけど、そんな余裕はないかも……俺たちそんなお金無くて」
「余程衝動的に飛び出してきたと見える。先が思いやられるな……」
マリアは一度だけ肩で息をして、歩みを止めた。カナメとジンもそれに習い、進むのをやめる。
「日が暮れる前に寝れる場所探すぞ。進むのは一旦終わりだ」
そんな急がなくても、と言いかけ空を見る。
気づけば太陽が赤みを帯び、体を撫でる空気が一段と冷えていた。
澄んだ空気が、夜の訪れを予感させる。
マリアの背中が導きの灯火のように輝いて見える。サバイバルどころかキャンプ経験もないカナメとジンは、その頼もしさに、ただ平伏すしかなかった。




