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第25話 檻を溶かした紅い薔薇
部屋に戻ってきた時、公園の約束の理由を理解した。
取り乱すほど震えている相方の現状を、目の前のこの男は理解していないのだ。不在を憂いている顔こそしているが、それだけだ。
買ったばかりの紅茶を取ろうと、棚に置いた紙袋に手を入れ…違和感に気づく。
いつも全く同じしまい方をしているのに、掌の触れ方が違った。
「……開けたか?」
「ご、こめん! で、でも何も取ってないから……」
謝られたところで、特に怒ってはいない。
もし勝手に飲まれていたとしても、なんの問題もなかった。
「構わん。中身の位置がズレてたんで、聞いただけだ」
紅茶を淹れ、立ちのぼる甘い香りを、ゆっくりと肺に取り込む。
紅茶自体に、関心がある訳では無い。
だから、選ぶ味もこれしか知らない。
──今日も、生前の母の香りがする。
そして、丁寧にカップで指を温めていく。
……ここまで関わるつもりはなかった。
言ってしまえば成り行きだ。この男の話を聞く義理なんてないし、いくら声をかけられようと、顔を見るつもりもない。
──けれど、いつもはすぐ冷えるはずの指先が、今日に限って熱を手放さない。
今だけは、何故か、温まらなければならない気がした。




