↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔蝕のレゾンデートル  作者: 古里古
第一章
12/92

第12話 初陣


 男が両手を地面に叩きつけた瞬間、耳が震えた。

 大地が軋む。低く唸る。

 嫌な予感が全身を駆け巡り、ジンは反射で地を蹴った。


 飛び退いた刹那、残った砂埃目掛け、地中から鋭い岩柱が突き上がる。

 着地と同時にさらに別の地響き。

 体を捻りそれをかわすと、新たな岩柱が空気を切り裂き、鼻先を掠めた。


「な、避けられた……っ!?」


 全ての攻撃をかわされ、男が一瞬狼狽える。

 ジンはその隙を逃さず、獣のように一気に間合いを詰めた。

 顔面めがけ右脚を振り抜いたが、惜しくも両腕に弾かれ距離を取る。


 その瞬間、足元が鳴動した。

 背後へ飛ぶと同時に、殺気を纏う岩柱が目前を貫く。 殺しに躊躇がない。


「な、なんで当たらないんだ……っ!」


 男の声に焦りが混じる。


 ジンは荒く呼吸を吐きながら確信した。

 相手の技は地中で地響きを伴う。音さえ聞こえれば、独壇場だ。


《よく見切ったな。なんだ、できるじゃないか。常日頃音に悩まされた甲斐あったな》


 ──お陰様でな。


 止まっている暇は無い。

 一瞬姿勢を落とし、再度接近を試みる。


 自分の攻撃方法はただ一つ。とにかく殴る、蹴るのみ。

 地中から襲ってくる岩柱を次々にかわし、男を射程圏内に捉えた。


《ジン、避けろ!》


「 !?」


 グルザの声を合図に、本能が体を突き飛ばす。

 地面に転がる一瞬、 二の腕に熱が広がった。何かが掠め肉を抉ったのだ。

 振り返るとそこに地面からの隆起はなく、鋭い岩片が飛び散っていた。


 ──音、聞こえなかったぞ……。


《あれは掌から飛ばされた岩片だ。聴覚だけに頼るな、感覚を研ぎ澄ませろ!》


 構える男の手を凝視する。

 今はたまたま助かったが、もろに食らったら命はない。


「この……クソッたれが……ッ!!」


 男は焦りに吠え散らかし、右手を振り回し始めた。 周囲には次々と岩片が突き刺さっていく。ジンはとにかく掌の向きに集中し、ギリギリでかわし続けた。


「──!!」


 そして見逃さなかった。 男が左手で、地面を叩いていたのを。


 ──岩片の着地と同時に、岩柱が隆起する……!!


 とにかく横に飛び岩柱を避け続ける。

 しかし、回避に必死で一向に距離が縮まらない。 このままでは無駄に体力を消耗するだけだ。


 だが、それは男も同じだったのか一瞬腕が下がり、攻撃が止まった。


 ここしかない!


 ジンは最短距離で男に向かう。


 しばらく動きを止めさえすれば、あとはカナメを担いで逃げればいい。狙うは男の顎。


 足を振りかぶった瞬間──。


 目の前に、掌。


「やべ……っ!」


 研ぎ澄ました視覚が時間を引き伸ばす。

 ゆっくりと岩片が迫ってくるのが見えた。


 もう、終わ……


 ──バキィィィン!


「!!?」


 金属が何かを弾く轟音。


 目の前には、そびえ立つ盾。


「カナメ!? 助かった!」


 最後のチャンスだ。

 勢いそのまま、盾の消失とともに全力の蹴撃で男の顎を撃ち抜く。宙を舞った男は地を滑り、倒れ伏せた。


 振り返ればいつの間に出てきたのか、カナメが震えた足で立ち、こちらを見ていた。

 肩を大きく上下させながら、両手を突き出している。


「危なかった……ありがとな……」


《慢心するな、まだ生きてるぞ! 早く息の根を止めろ!》


 グルザの声を無視し、倒れている男を一瞥する。このまま放置するのも心苦しいが、逃げなければ殺される。


 カナメの元に駆け寄り、おぶろうとした瞬間──背後で砂利を踏みしめる音が鳴った。


「!!」


 歯軋りが響いて聞こえる。振り返ると男はふらつきながらも、もう立ち上がっていた。


《そら見た事か。早く殺してしまうべきだったのだ》


「馬鹿言うな、んなの出来るかよ……」


 正直、体がもう限界だった。

 過度な集中で、頭が締め付けられるように重い。

 それでもジンは、震えるカナメの前に出る。


 しかし、男はこちらを確認すると、急に身を翻した。


「クソッ!! 二人もいたのかよ、畜生!!」


 そう吐き捨てると、男は猛スピードで地平線の向こうに消えていった。


「た……助かったのか……?」


 数秒の静寂が訪れる。

 生を実感した途端力が抜け、ジンはその場に腰を着いてしまった。

 カナメもつられて膝を折り、大きく息を吐いていた。


「……へへ。盾、使っちゃった」


 カナメは目を落とし、右腕をさする。


「ありがとうな。あの盾がなかったら死んでたわ……ん?」


 ジンの緊張の糸が切れた瞬間、右腕の痛みが一気に噴き出した。


「うお、痛え! 俺こんな怪我してたのか!?」


 知らないうちに右の半袖が血に染まっている。途中で受けた傷だ。戦いに夢中ですっかり忘れていた。


「えっ、だ、大丈夫!? 服真っ赤! 痛そうだよ!?」


 カナメは慌てて自分のリュックからタオルを取り出す。腕をきつく縛り止血させたかと思うと、そのまま器用にタオルで傷口を保護した。


 手当を終えると、安心したようにカナメは笑った。よく見知った、いつものカナメだ。

 ジンはほっと胸を撫で下ろす。


 ついに自分を化け物たらしめる力を全力で使い、人間ではあり得ない殺し合いの舞台に、足を踏み入れてしまった。

 

 もう、自分はれっきとした人間なのだと、胸を張れる自信はない。


 ──けれど、隣にカナメさえいれば、もう自分が何者でも、なんとかなる気がした。


「……ありがとな」


「ううん……むしろ俺のせいでこんな怪我させちゃって……」


 悲しそうな顔に少し困り、返事を誤魔化すようにカナメの頭を鷲掴む。


 ……この傷は、親友を守れた勲章だな。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。