第六話 拡声魔石、誕生
それから、五十二夜。
私は、毎晩、男装して、塀を越え、下町の広場で、歌い続けた。
最初の十夜は、毎夜、銅貨数枚。
二十夜目には、銅貨二十枚を超える日も出てきた。
三十夜目には、「あの歌う少年、また来てるぜ」と、常連客が、できた。
四十夜目には、噂を聞きつけた、別の広場の連中まで、見に来るようになった。
五十夜目には——
空き缶に、銀貨五枚分の銅貨が、貯まった。
しかも、その合間に、グスタフの工房に、何度も、通った。
設計図を、一緒に、引いた。
青晶石の選び方を、教わった。
反響核を、削る練習も、させてもらった。
そして、五十二夜目の朝。
「できた」
グスタフが、私に、ひとつの、青く淡く光る石を、差し出した。
直径、三センチほど。
私の小さな掌に、ちょうど、収まる。
表面には、グスタフの細工で、繊細な紋様が刻まれている。
「拡声魔石・小型試作一号」
「うわあ……っ」
私は、その石を、両手で、受け取った。
頬擦りした。
オタク特有の、推しグッズ受領時の儀式だった。
「綺麗、綺麗、ほんとに綺麗。グスタフのおじさん、天才」
「……気持ち悪いな、お前」
「ほめ言葉として受け取る!」
グスタフは、げっそりした顔をしたが、口元は、ちょっと、笑っていた。
「使い方を、教えるぞ。首から下げて、自分の口元に、近づける。歌うときは、石に、息を吹きかけながら歌う。出力は、声の五倍まで。連続使用は、三時間まで」
「分かった、分かった」
「説明、聞いてんのか」
「聞いてる、聞いてる。で、おじさん、約束、覚えてる?」
「ああ、覚えてる。お前の歌、もう一度、聞かせろ」
グスタフは、椅子から立ち上がった。
「今夜の広場、行くからな」
——うん。
——いい客が、ひとり、増えた。
◆
その夜。
下町の広場。
私が、いつもの場所に立った時、すでに、五十人以上の人垣が、できていた。
「来た来た、歌う少年だ」
「今夜は、何を歌うんだ?」
——よし。
私は、グスタフから受け取った、拡声魔石を、首から下げた。
紐は、グスタフが、革紐で、編んでくれた。
そして、深く、息を、吸い込んだ。
魔石に、口を、近づけた。
「♪ ——」
歌い始めた。
最初の一音で、観客が、ざわめいた。
「な、な、なんだ?」
「声、デカくねえか?」
「いや、けど、潰れてない、綺麗な声のままだ」
私は、にやり、と笑いながら、サビへ、突入した。
『——ぼくを、見つけて、ぼくを、見つけて、ありがとう』
声は、広場の端まで、響いた。
建物の壁に、反響して、戻ってきた。
通りの遠くを歩いていた人まで、足を止めて、振り返った。
人垣が、一気に、二倍になった。
歌い終わった時。
地響きのような、拍手が、起こった。
そして、空き缶に——
銅貨ではなく、銀貨が、ジャラ、と、投げ込まれた。
一枚。
二枚。
三枚。
その夜、私の空き缶には、銀貨七枚と、銅貨多数が、入った。
これは、貴族令嬢の、月の小遣いに、相当した。
「うっそでしょ……」
私は、空き缶を、震える手で、抱きしめた。
人垣の後ろから、グスタフが、片手を上げて、にやりと、笑っていた。
「ほら見ろ、坊主。世界が、変わったぜ」
——うん。
——変わった。
——変わったよ、グスタフのおじさん。
——これが、私の、最初の、革命の、第一歩。
——待っててね、オーレリアン。
——今夜、いっぱい、ご飯、買って、行くから。
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