閑話③ 魔石職人グスタフの独白
(語り:グスタフ・モロー、四十二歳、魔石職人)
俺は、二十年、魔石を、削ってきた。
最初は、王立工廠の見習いだった。
次に、軍の御用達で、号令魔石を作った。
やがて、自分の工房を持って、貴族の注文に応える、いっぱしの職人になった。
——だが。
俺は、いつも、不満だった。
魔石、というものは、本来、もっと、自由に、生活の中で使われるべきものだ。
軍隊の号令だけじゃない。
貴族の魔力税の集金だけじゃない。
もっと、庶民の、暮らしの、隅々で。
そう、思っていた。
だが、注文は、いつも、同じだった。
軍。
貴族。
神殿。
二十年、同じ、注文。
だから、俺は、独立して、下町の隅に工房を構えた。
誰かが、俺に、新しい注文を、持ってきてくれることを、待っていた。
二十年、誰も、来なかった。
——あのガキが、来るまでは。
◆
「歌う声を、大きくする魔石。それも、誰でも持てるくらい、小さい奴」
ガキの口から、その言葉が出た瞬間、俺は、体が、震えた。
それは、俺が、二十年、心の底で、ずっと、欲しがっていた、注文だった。
「庶民の、暮らしのための、魔石」
軍隊用じゃない。
貴族用じゃない。
神殿用じゃない。
ただ、街の片隅で、誰かが、自分の声を、もう少しだけ、遠くに届かせるための、小さな道具。
——なぜ、こんな当たり前のことを、二十年、誰も、注文しなかったのか。
そして——
なぜ、それを、八歳くらいの、痩せこけた、貧民街のガキが、注文してきたのか。
俺は、ガキの顔を、もう一度、見た。
土で汚れた頬。
ぼろぼろの帽子。
継ぎ接ぎだらけのシャツ。
——だが。
目だけが、違った。
その目には、二十年、王立工廠でも、貴族の屋敷でも、神殿でも、見たことのない、光が、宿っていた。
それは、たぶん——
「世界を変える奴の目」、というやつだった。
◆
完成した拡声魔石を、ガキは、首から下げて、広場に、立った。
最初の一音で、俺は、確信した。
このガキは、ただの貧民街のガキじゃない。
第一に、歌が、上手すぎる。
第二に、選曲のセンスが、異常だ。
第三に——
——女、だ。
声を低く作っているが、骨格、首の細さ、頬の柔らかさ。
俺の二十年の職人の目は、ごまかせない。
このガキは、女だ。
たぶん、五歳か、六歳。
そして、ただ者じゃない。
——名前すら、知らねえ。
——「坊主」としか、呼んでねえ。
それでも、俺は、確信していた。
このガキと組めば、何かが、起こる。
俺の二十年の鬱憤を、晴らす、何かが。
歌い終わったガキの、空き缶に、銀貨が、雨のように、降った。
俺は、人垣の後ろから、片手を上げて、笑った。
——坊主、いや、お嬢ちゃん。
——お前の、注文、これからも、待ってるぜ。
——俺の、二十年の、技術の全部、お前に、賭けてやる。
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