表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/120

閑話③ 魔石職人グスタフの独白

(語り:グスタフ・モロー、四十二歳、魔石職人)


俺は、二十年、魔石を、削ってきた。


最初は、王立工廠の見習いだった。

次に、軍の御用達で、号令魔石を作った。

やがて、自分の工房を持って、貴族の注文に応える、いっぱしの職人になった。


——だが。


俺は、いつも、不満だった。


魔石、というものは、本来、もっと、自由に、生活の中で使われるべきものだ。

軍隊の号令だけじゃない。

貴族の魔力税の集金だけじゃない。

もっと、庶民の、暮らしの、隅々で。


そう、思っていた。

だが、注文は、いつも、同じだった。

軍。

貴族。

神殿。


二十年、同じ、注文。


だから、俺は、独立して、下町の隅に工房を構えた。

誰かが、俺に、新しい注文を、持ってきてくれることを、待っていた。


二十年、誰も、来なかった。


——あのガキが、来るまでは。



「歌う声を、大きくする魔石。それも、誰でも持てるくらい、小さい奴」


ガキの口から、その言葉が出た瞬間、俺は、体が、震えた。


それは、俺が、二十年、心の底で、ずっと、欲しがっていた、注文だった。


「庶民の、暮らしのための、魔石」


軍隊用じゃない。

貴族用じゃない。

神殿用じゃない。


ただ、街の片隅で、誰かが、自分の声を、もう少しだけ、遠くに届かせるための、小さな道具。


——なぜ、こんな当たり前のことを、二十年、誰も、注文しなかったのか。


そして——

なぜ、それを、八歳くらいの、痩せこけた、貧民街のガキが、注文してきたのか。


俺は、ガキの顔を、もう一度、見た。


土で汚れた頬。

ぼろぼろの帽子。

継ぎ接ぎだらけのシャツ。


——だが。


目だけが、違った。


その目には、二十年、王立工廠でも、貴族の屋敷でも、神殿でも、見たことのない、光が、宿っていた。


それは、たぶん——

「世界を変える奴の目」、というやつだった。



完成した拡声魔石を、ガキは、首から下げて、広場に、立った。


最初の一音で、俺は、確信した。


このガキは、ただの貧民街のガキじゃない。


第一に、歌が、上手すぎる。

第二に、選曲のセンスが、異常だ。

第三に——


——女、だ。


声を低く作っているが、骨格、首の細さ、頬の柔らかさ。

俺の二十年の職人の目は、ごまかせない。


このガキは、女だ。

たぶん、五歳か、六歳。

そして、ただ者じゃない。


——名前すら、知らねえ。

——「坊主」としか、呼んでねえ。


それでも、俺は、確信していた。


このガキと組めば、何かが、起こる。

俺の二十年の鬱憤を、晴らす、何かが。


歌い終わったガキの、空き缶に、銀貨が、雨のように、降った。


俺は、人垣の後ろから、片手を上げて、笑った。


——坊主、いや、お嬢ちゃん。


——お前の、注文、これからも、待ってるぜ。


——俺の、二十年の、技術の全部、お前に、賭けてやる。


---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ