リアナ、迎えに
ある夜。
私は、男装で、貴族院を、抜け出して、ベルナール男爵家に、向かった。
馬車で、半日。
朝、ベルナール男爵家の、門の前に、到着した。
「私、リリア・ド・モンペリエ。ベルナール家の、リアナの、姉です」
門番が、目を、丸くした。
「リリア様!? いえ、これは、もしや——」
噂は、ベルナール男爵家にも、届いていたらしい。
私は、応接間に、案内された。
そこには——
ベルナール男爵(父)、母上アグネス、そして——
ジュリアン。
——お兄様。
ジュリアンは、もう、十九歳。
背が、伸びて、整った青年に、なっていた。
「リリア」
ジュリアンの、声が、震えていた。
「お前——」
「お久しぶりです、お兄様」
私は、にっこり、笑って、頭を、下げた。
「リアナを、迎えに、来ました」
応接間に、緊張が、走った。
「リアナを? ……お前が?」
母上アグネスが、青ざめた。
「はい。私は、モンペリエ伯爵令嬢です。我が、養家の、お父様の、お許しを、頂いて、来ました。リアナを、私の、家族として、迎えます」
「だ、ダメだ。リアナは、ベルナール家の、子だ」
父上が、しどろもどろに、言った。
「お父様」
私は、深く、頭を、下げた。
「リアナを、私が、引き取れば、ベルナール家には、毎月、銀貨百枚を、お支払いします。それで、家計を、立て直してください」
「銀貨、百枚——」
ベルナール男爵家の、年収を、軽く、超える、金額。
父上の、目が、揺れた。
「リリア」
ジュリアンが、立ち上がった。
「お前、本当に、大物に、なったな」
「お兄様、私、約束、覚えていますか? 『お兄様より、長生きする』」
「……覚えている」
「私、生きています。そして、リアナも、生きています。それで、十分です」
ジュリアンは、長く、長く、私を、見つめていた。
そして——
「……リアナを、連れて、いってやってくれ」
「お兄様」
「俺は——もう、お前たちの、兄である、資格、ない。ただの、他人として、見送る」
「お兄様」
「だが」
ジュリアンの、青い目に、初めて、涙が、滲んだ。
「リアナを、幸せに、してやってくれ」
「もちろんです」
私は、深く、頭を、下げた。
——お兄様。
——あなたが、私を、追い出した、あの日から、十年。
——あなたも、苦しんでいた、ね。
——いつか、また、お会い、できれば、いい、です。
リアナの、部屋に、向かった。
ノックして、扉を、開けた。
「リアナ」
そこに——
九歳の、少女が、いた。
赤茶色の、巻き毛。
私と、同じ、瞳。
痩せていたが、頬には、ちゃんと、血色が、あった。
「姉さま!」
リアナは、ベッドから、立ち上がって、私の胸に、駆け寄った。
「姉さま、姉さま、本当に、来てくれた!」
「うん。遅くなって、ごめん」
私は、リアナを、強く、強く、抱きしめた。
——リアナ。
——十年。
——本当に、ごめん。
——でも、私、ちゃんと、迎えに、来た。
——もう、二度と、離さない。
「リアナ、これから、私と、一緒に、暮らそう」
「うん!」
リアナは、にっこり、笑った。
——その、笑顔。
——亡き、母さまに、そっくり、だった。
その日、私は、リアナを、馬車に、乗せて、モンペリエ伯爵家に、連れ帰った。
私の、最後の、家族が、戻ってきた。
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