男装事件、貴族院編
貴族院、入学から、二ヶ月後。
私は、貴族院の、規則の、ストレスに、限界を、感じていた。
「シャルロット、私、街に、行きたい」
「街?」
「うん。貴族院の、結界の、外。下町。グスタフのおじさん、コレットのお墓、オーレリアンに、会いたい」
シャルロットは、目を、丸くした。
「リリア、それ、規則違反よ。発覚したら、停学」
「うん、知ってる」
私は、にやり、と、笑った。
「だから、男装する」
「な——」
その夜、私は、寮の、女子生徒の、片隅に、こっそり置いてあった、男装の、衣装を、纏った。
ぶかぶかの、男物の上着。
頭には、貴族院の、男子制服の、帽子。
顔には、軽く、髭の、化粧。
「うわあ、リリア、本当に、男に、見える」
シャルロットが、目を、丸くした。
「これ、私の、特技。十一歳まで、街頭ライブで、男装してた」
「街頭ライブ……」
シャルロットは、もう、声も、出なかった。
「シャルロット、内緒、ね」
「うん、絶対、内緒」
私は、寮の、窓から、こっそり、抜け出して、貴族院の、外壁の、隅の、結界の、弱い箇所から、外に、出た。
——よし、自由。
私は、夜の街道を、走った。
向かったのは、グスタフの工房。
「グスタフのおじさん!」
「お、リリアか。久しぶり、だな」
グスタフは、油まみれの、作業着で、私を、迎えた。
「貴族院、抜け出してきた」
「お前、相変わらず、無茶、するな」
「うちの、推し、不足症で、限界、だった」
「不死鳥の、推し、か」
グスタフは、笑った。
「あいつなら、奥に、いるぞ」
——え?
——オーレリアン、今日、ここに?
私が、工房の奥に、駆け込むと——
オーレリアンが、いた。
新作の、衣装の、デザインを、グスタフの、画工と、相談していた。
「オーレリアン!」
「リリア——え?」
オーレリアンは、私の、男装姿を、見て、目を、丸くした。
「お前、また、男装、してる」
「うん。貴族院、抜け出してきた」
オーレリアンは、ため息を、ついた。
そして——
私を、ぎゅっと、抱きしめた。
「……無茶、するな」
「うん、ごめん」
「だが、来てくれて、嬉しい」
——!
——!
——!
私は、心の中で、絶叫した。
——尊い……っ!
——もう、毎日、これ、と、生きていたい。
——絶対、卒業まで、頑張って、卒業したら、ずっと、一緒に、いる。
——絶対。
その夜、私は、グスタフの工房で、オーレリアンと、二時間、過ごして——
こっそり、貴族院に、戻った。
シャルロットは、寮室で、心配そうに、待っていた。
「無事?」
「うん」
「楽しかった?」
「うん。最高」
——よし。
——次から、月一は、こっそり、抜け出す。
——でも、絶対、バレないように、気を、つける。
私は、新たな、ルーティンを、作った。
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