ヴェルニエ侯爵の脅迫
その夜、ヴェルニエ侯爵自身が、ベルロワ子爵邸を、訪ねてきた。
応接間に、私と、ベルロワ子爵が、彼を、迎えた。
ヴェルニエ侯爵は、五十代の、痩せた、老獪な顔立ちの、男だった。
「ベルロワ子爵、私の、コレット嬢への、求婚を、これで、三度目、断られている」
「私の、養女、リリアの、判断です」
「五歳の、ガキの、判断、ですか」
ヴェルニエは、私を、冷たい目で、見た。
「リリア嬢、お聞きしたい。なぜ、コレットを、私に、嫁がせない」
「コレットは、私の、所属タレントです。彼女の、意思を、尊重します」
「コレットの、意思は、私が、聞いた。彼女は、『嫌だ』と、言った」
「では、その通りです」
「だが、私は、諦めない」
ヴェルニエは、にやり、と、笑った。
「私の、望みは、必ず、叶う。それが、エトワール王国の、貴族の、慣習だ」
「いいえ」
私は、首を、振った。
「コレットは、もう、あなたに、断った。それが、答えです」
「リリア嬢、五歳の身分で、私に、楯突くのか」
「身分の、話では、ありません。意思の、話です」
「……」
ヴェルニエの、目が、冷たく、光った。
「いい、ですか、リリア嬢。これは、警告です。私が、欲しい、ものは、必ず、私の、手に、入る。コレットも、そう」
「お引き取り、ください」
ベルロワ子爵が、立ち上がって、ヴェルニエを、応接間から、追い出した。
ヴェルニエは、最後に、私に、向かって、こう、言った。
「リリア嬢、貴方の、目の前で、コレットが、どうなるか、楽しみに、しています」
——!
私の、背筋が、凍った。
——脅迫、だ。
——本気の、脅迫。
その夜、私は、コレットに、警告した。
「コレット、絶対、ひとりで、外に出ないで。必ず、護衛を、つける。グスタフのおじさんに、頼む」
「うん。分かった、リリア」
コレットは、緑の目で、私を、見た。
「リリア。あたし、絶対、あの、おじさんの、妾には、ならないよ」
「うん。分かってる」
「あたし、リリアの、おかげで、ここまで、来た。リリアに、迷惑、かけたくない」
「コレット……」
私は、コレットの、両手を、握った。
——絶対、守る。
——絶対。
——だって、君は、私の、家族、なんだから。
しかし——
私は、知らなかった。
——その、警告が、間に合わなかったことを。
——その、夜から、四日後。
——コレットが、夜道で、襲われることを。
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