第二十三話 神殿改革派の、神官マルセル
# 第二十三話 神殿改革派の、神官マルセル
翌日。
私は、ひとりで、神殿の、大きな門を、くぐった。
エトワール大神殿。
王国第一の、宗教施設。
白い大理石の、巨大な、円柱。
金の装飾の、天井。
中央に、星のシンボルの、巨大な祭壇。
私は、案内されて、奥の、小さな審問室に、入った。
そこには、五人の、神官が、座っていた。
中央の、ひとりは、白髪の、老神官。
たぶん、神殿のトップ、神殿長。
「リル。お前は、神殿の聖歌隊を追放されたレオン、と、共に、街頭で、神聖な歌を、娯楽として、使った。これは、神への、冒涜である」
老神官の、声は、しわがれていた。
「弁明、あるか」
「弁明、あります」
私は、五歳児の身体で、まっすぐに、立った。
「歌は、神への、祈り、です。それと、同時に、人の、心を、癒やす、力でもある、と、私は、信じています」
「冒涜だ!」
別の神官が、叫んだ。
「歌は、神聖なものだ! 庶民の、娯楽では、ない!」
「いいえ」
私は、首を、振った。
「神は、すべての、人間を、お造りに、なりました。庶民も、貴族も、奴隷も、神の、お子です。神聖な歌が、神の、お子全員の、心を、癒やすのが、何が、悪いのですか?」
審問室が、しん、と、静まった。
老神官の、目が、私を、見た。
「お前、歳は」
「八歳です」
「……八歳の少年が、こんな弁明を、するか」
「私、本を、読んでます。聖典も、読んでいます。聖典には、『神は、すべての人を、愛する』と、書いてあります」
「聖典を、お前のような、貧民の少年が、引用するな」
別の神官が、激高した。
「いいえ、引用、します」
私は、続けた。
「聖典、第七章、第三節。『神は、貴賤を、分けず、すべての、魂を、愛する』。これは、私が、勝手に、作った言葉では、ありません。聖典の、お言葉です」
審問室が、また、静まった。
その時——
部屋の隅に、座っていた、若い、神官が、立ち上がった。
三十代くらい。
黒髪。
緑の目。
温和な顔立ち。
だが、目だけは、強い、知性が、宿っていた。
「神殿長」
若い神官が、発言した。
「この少年の、言うことは、聖典に、忠実です。私は、彼を、罰すべきでは、ない、と、考えます」
老神官の、目が、若い神官を、睨んだ。
「マルセル、お前、また、改革派の、戯言を」
——マルセル。
——彼が、改革派の、リーダー。
私は、心の中で、ガッツポーズした。
——よし。
——会いたかった、人に、会えた。
「神殿長、私は、改革を、唱えているのでは、ありません。聖典に、忠実で、ありたい、と、願っているだけ、です」
マルセルは、続けた。
「神は、貴族のものでは、ない。神は、庶民のものでも、ある。歌が、庶民の心を、癒やすのは、神の、思し召しに、適う、ことです」
老神官は、眉を、ひそめた。
「……まあ、いい。今日は、警告だけで、釈放する。だが、二度と、神殿の歌を、街頭で、使うな」
「ありがとうございます」
私は、深々と、頭を下げた。
審問室を出た私を、若い神官マルセルが、追ってきた。
「リル」
「はい」
「君と、もう少し、話したい。場所を、変えよう」
——よし、確実に、来た。
私は、にっこり、笑った。
「喜んで」
その日、神殿の、奥の、図書室で、私と、マルセル神官の、長い、長い、対話が、始まった。
そして、その対話は——
エトワール王国の、宗教改革の、最初の、ひと火を、灯した、対話だった。
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