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第二十話 ベルロワ子爵の協力者化

# 第二十話 ベルロワ子爵の協力者化


副司令官との、契約から、二週間後。


ベルロワ子爵家の、執事が、再び、私を、迎えに来た。


「リル、と、いう少年を、お探しだとか」


「はい、私です」


「閣下が、お会いに、なりたいと」


——きた。


私は、頷いた。


「分かりました。ただし、条件があります」


「条件?」


「会う場所は、子爵邸ではなく、グスタフの工房で。私には、信頼できる、後ろ盾の、職人さんが、必要です」


執事は、しばらく、考えてから——


「閣下に、お伝えします」


頷いた。


そして、その翌日の夜——


ベルロワ子爵その人が、なんと、自ら、グスタフの、油まみれの工房を、訪れた。


四十歳くらい。

痩せた、知的な顔立ち。

深い緑の、フロックコート。

落ち着いた、銀髪。

そして、好奇心に、満ちた、灰色の目。


「ベルロワ子爵、ジョルジュ・ド・ベルロワ。お会いできて、光栄だ、リル」


「リルです。こちらこそ」


私は、深々と、頭を下げた。


子爵は、工房の、油まみれの椅子に、躊躇なく、座った。


「実は、王立第三軍団、副司令官、モンタージュ閣下から、君の話を、聞いた。『発明者の権利』を、提案した、面白い少年だ、と」


「はい」


「私は、君の、その案に、賛成だ。商売の未来を、変える、革命的な、案だ」


「ありがとうございます」


「で、私に、何をしてほしいのだ?」


——直球。


私は、少し、間を、置いてから、答えた。


「閣下に、私の、最初の、後ろ盾に、なって、いただきたいです」


「後ろ盾?」


「はい。私は、これから、たくさんの、発明と、商売を、します。でも、私は、所詮、貧民街の、子供です。私の発明を、貴族や、王宮に、持ち込む、ルートが、ありません。閣下に、その、ルートに、なって、いただきたい」


「……」


「閣下には、見返りに、私の、発明事業の、利益の、十分の一を、お支払いします」


子爵は、長く、考えた。


そして——


「リル」


「はい」


「君は、本当に、子供か」


「はい」


「まあ、いい。君が、何者か、私は、深く、追わない。だが、ひとつ、聞きたい。なぜ、私を、選んだ」


私は、にっこり、笑った。


「閣下が、商売の、目利きだから、です。それと——」


「それと?」


「閣下が、新興の、貴族家、だから、です。古い貴族家は、私の発明を、『庶民のもの』と、見下す。でも、閣下は、見下さない。閣下は、利益を、まっすぐに、見る人」


子爵の、灰色の目が、光った。


「君、頭が、いいな」


「ありがとうございます」


「分かった。後ろ盾に、なろう。ただし、君と、定期的に、面会する。週に、一度は、子爵邸に、来てほしい」


「分かりました」


子爵は、立ち上がって、私に、握手を、求めた。


私は、その大きな手を、握った。


——よし。

——ベルロワ子爵、協力者、確定。


——あとは。

——彼が、いつか、私を、養女に、迎えるように、誘導するだけ。


——その時こそ、私は、この、奴隷的、奉公人の身分を、捨てる。


——その時こそ、私は、オーレリアンを、自由に、する。


私は、心の中で、深く、笑った。


握手は、長く、続いた。


そして、その夜、エトワール王国の、商業史と、知的財産史が、密かに、書き換わり始めた。


(第二十話・了/第一部中盤・終了)


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