第十九話 軍人と特許の必要
# 第十九話 軍人と特許の必要
「坊主、少しいいか」
歌い終わって、空き缶を片付けていた私に、軍人らしい紳士が、近づいてきた。
近くで見ると、もっと、鋭い目だった。
五十代くらい。
胸元には、王立軍の、紋章。
——え、王立軍?
「お前が、あの『光る石』を、作ったのか」
「私と、そこの職人さんとで、作りました」
私は、後ろの人垣の外に立つ、グスタフを、指さした。
「ふむ」
紳士は、グスタフを、ちらりと、見て、私に、視線を、戻した。
「私は、王立第三軍団、副司令官、ヴァレリー・ド・モンタージュ。あの石、いくつ、作れる」
——王立軍団、副司令官!
——魚が、釣れた!
私は、心の中で、ガッツポーズした。
「現在、月に、五個。職人を増やせば、月に、二十個、いけます」
「全部、買おう」
紳士——モンタージュ副司令官は、即答した。
「一個、金貨二枚で」
——金貨、二枚?
私の、頭の中で、計算が、走った。
金貨二枚=銀貨二百枚。
月二十個なら、金貨四十枚=銀貨四千枚。
——うっそでしょ。
「軍は、夜間行軍と、野営地の照明に、使う。蝋燭は、雨で消える。松明は、煙が出て、敵に発見される。お前のあの石は、軍の、革命だ」
——うん、それは、私も、思った。
「条件は、ひとつ。製造方法を、軍に、開示すること。軍が、独自に量産できるように」
私は、首を、振った。
「それは、お断りします」
「……は?」
副司令官の、灰色の眉が、ぴくり、と、上がった。
「金貨二枚と、独占供給。それで、十分だ。製造方法は、私と、職人の、財産です」
「お前、軍に、楯突くのか」
「楯突いてません。商売の、話です」
私は、にっこり、笑った。
「副司令官閣下。私には、提案が、あります」
「提案?」
「はい。エトワール王国に、『発明者の権利』を、登録する制度を、作っていただきたい」
「……何、だと?」
「製造方法を、王国に、登録する。その引き換えに、その発明品の、販売利益の、一定割合を、永続的に、発明者に、支払うことを、保証する。発明者は、製造方法を、安心して、開示できる。王国は、新しい技術を、独占できる」
副司令官は、私を、まじまじと、見つめた。
「お前……それは、誰の、案だ」
「私の、案です」
「五歳の、ガキの?」
——あ、もしかして、声が、少し、女声に、戻ってた、かも。
私は、慌てて、声色を、低くした。
「私は、八歳です。それに、これは、商売の、未来の、話です。年齢は、関係ない」
副司令官は、長く、長く、私を、見ていた。
そして——
「……面白い」
ぽつりと、呟いた。
「お前のような、少年が、こんな提案を、するとは。本当に、お前は、ただの、貧民街のガキ、なのか」
「貧民街のガキで、十分です」
「ふむ」
副司令官は、顎を、撫でた。
「その『発明者の権利』、王宮に、持ち帰って、議論しよう。だが、それは、長くて、半年は、かかる。その間、軍に、最低でも、月十個、独占で、納めると、約束しろ。一個、金貨二枚で、買う」
「お約束、します」
私は、深々と、頭を下げた。
「それと、ひとつ、お願いが、あります」
「何だ」
「この、『発明者の権利』制度を、議論する場に、ベルロワ子爵閣下を、呼んでください」
副司令官の、目が、見開かれた。
「ベルロワ子爵? なぜ」
「閣下は、商売の、目利きです。この制度の、価値が、一番、お分かりに、なる、と、思います」
——本当のところは、ベルロワ子爵に、私の、後ろ盾になって、もらいたいから。
——でも、それは、副司令官には、言わない。
副司令官は、しばらく、考えてから——
「分かった。検討しよう」
頷いた。
「では、月末に、また、ここに、来る。最初の十個を、納めろ」
「はい」
副司令官は、踵を、返した。
そして、最後に、振り返って、こう、言った。
「お前、名前を、聞いていなかったな」
「リル」
私は、即興で、答えた。
「下町の、リル、と、覚えておいてください」
——リル。
——リリアの、男装名。
——前世のオタクが、即興で、考えた、よくある男の子名。
副司令官は、頷いて、夜の人垣の中に、消えた。
私は、グスタフの方を、振り返った。
グスタフは、口を、開けたまま、固まっていた。
「グスタフのおじさん、聞いてた?」
「……月、金貨二十枚」
「うん」
「お前、王国を、ひっくり返す、つもりか」
「うん」
私は、にやり、と、笑った。
「ただの、ひっくり返し、じゃ、ない。ちゃんと、私たちが、儲かる、形で、ひっくり返す」
——よし。
——次は、ベルロワ子爵を、巻き込む。
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