第十話 肩代わりが、増える
リリアが、モンフォール侯爵家に、来てから、ちょうど、半年が、経った日。
私は、いつものように、本邸のお茶の間に、呼び出された。
ただし、その日は、いつもの三姉妹だけ、ではなかった。
応接間には、四人目の、女性が、座っていた。
——奥様!
モンフォール侯爵夫人。
四十代後半。
かつての美貌の名残を、留める、貴婦人。
病弱で、ほとんど、私室から出てこない、と、噂の人。
「ご機嫌よう、リリア」
奥様は、私に、微笑みかけた。
長女エレオノールほどの冷たさは、なかった。
でも、明らかに、私を、「人」とは、見ていない、目だった。
「あなたの、お働きを、聞きました。私の魔力税も、肩代わりしてもらえる、と、聞いて」
——え。
——四人目?
私の心臓が、跳ねた。
リリアの記憶では、奥様の魔力税は、規定の、五倍。
病弱な貴婦人ほど、納める量が多いのは、エトワール王国の不思議な制度の歪みだった。
つまり——
四人目、しかも、五倍。
実質、これまでの、二倍の、肩代わり。
「もちろん、報酬は、増やします。月の銀貨を、一枚から、二枚に。お肉も、週に一度は、出すように、しましょう」
——ふざけんな。
私は、心の中で、絶叫した。
——お肉、週一?
——銀貨二枚?
——どこの、ブラック企業ですか?
でも、私は、にっこり、笑って、頭を下げた。
「ご期待に、添えるよう、努めさせていただきます」
——いいよ。
——やってあげる。
——だって。
——奥様の魔力税まで、肩代わりしたら、私の魔力の器は、もっと、爆発的に、大きくなる。
——それは、私の、最終的な、武器に、なる。
——使え、使え、私を、もっと、使え。
——その代わり——
——いつか、あんたたち全員に、土下座させる、その日、まで、私は、絶対、生き延びる。
私は、奥様の魔石にも、両手を添えた。
そして、目を、閉じた。
身体の中央から、温かい液体が、両手を通して、流れ出ていく。
——五倍。
リリアの身体は、ふらつかなかった。
不思議だった。
これまでの三姉妹分の、二倍以上の、魔力を、注いでいるはずなのに——
まるで、井戸に、水を、汲みに行ったら、底なしの、泉だった、ような、感覚。
私の魔力の器は、半年で、明らかに、巨大化していた。
——よし。
私は、目を、閉じたまま、心の中で、呟いた。
——準備、整いつつ、ある。
——もう、半年。
——いや、もう、三ヶ月、もすれば——
——私、この屋敷、出る。
——オーレリアンを、連れて、出る。
——その時に、必要なものは、もう、揃いつつある。
——拡声魔石、グスタフ、ベルロワ子爵、そして、エルネスティーヌ。
——次は——
——次は、私の、最初の、本物の、弟子を、見つける。
私は、奥様の魔石を、淡い金色に、染め上げて、両手を、離した。
「終わりました」
奥様は、青みがかった魔石を、見て、目を、丸くした。
「あら、もう?」
「はい」
「随分と、早いのね」
「お役に、立てたなら、何よりです」
私は、深々と、頭を下げた。
——立てて、ないよ、奥様。
——あんたの寿命を、縮めて、あげてるのは、私の方だけど。
——いや。
——あんたの寿命、なんて、知らない。
——私は、私の、目的のために、肩代わりしてるだけ。
私は、応接間を、退出した。
廊下を歩きながら、心の中で、リストを、確認した。
「事務所 設立まで あと、二年」
「初代タレント オーレリアン 差し入れ継続中」
「拡張 第二号タレント発掘 ★次の課題」
「資金 月、銀貨二十〜三十枚(街頭ライブ)」
「協力者 グスタフ(職人)/ベルロワ子爵(種まき済)/エルネスティーヌ(観察中)」
——よし。
——順調。
——次は、第二号タレント。
私の、本格的な、芸能事務所、第一歩は、すぐそこ、だった。




