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閑話④ モンフォール侯爵家、三女エルネスティーヌ

(語り:エルネスティーヌ・モンフォール、十歳)


わたしは、お姉さま方が、嫌い。


——ううん、嫌い、というのは、違う、かも。


ただ、どうでも、いい。


長女のエレオノールお姉さまは、いつも、家の名誉、家の名誉、家の名誉。

次女のマリエルお姉さまは、貴族院、貴族院、貴族院。


ふたりとも、つまらない。


そして、お父さまは、お仕事、お仕事、お仕事。

お母さまは、社交、社交、社交。


家の中で、わたしと、ちゃんと、お話してくれる人は、誰も、いない。


だから、わたしは、いつも、ひとりで、菓子を、頬張っていた。


——でも。


——あの子が、来てから。



リリア、と、いう、奉公人の女の子が、来てから。


家の中の、空気が、変わった。


リリアは、いつも、にっこり、笑っていた。


エレオノールお姉さまに、罵倒されても、にっこり。

マリエルお姉さまに、無視されても、にっこり。

わたしが、お菓子を、すすめても、「いただいて、よろしいのですか?」と、にっこり、断った。


——なんだろう、あの子。


最初、わたしは、リリアを、ただの、変な子、だと、思った。


でも、毎日、観察しているうちに——


気づいた。


リリアは、笑っているけれど、目の中の、奥の、奥に、燃えている、何かが、ある。


それは、お姉さま方には、ない、もの、だった。


——たぶん、「夢」、ってやつ。


わたしは、リリアが、毎朝、わたしたちに、魔力を、注ぐ瞬間の、目を、見ていた。


最初の三回は、ふらふら、しながら、絨毯に、崩れた。


でも、十回目には、立っていた。

二十回目には、汗ひとつ、かかなかった。

三十回目には——


なんだか、リリアの、身体の方が、お姉さま方より、力強く、見えるように、なった。


そして、ある夜——


わたしは、トイレに行こうとして、廊下で、奉公人棟の方から、ひとりの少年が、塀を、よじ登るのを、見た。


汚れたシャツに、汚れた帽子。


——ん?


少年は、わたしに、気づかなかった。


でも、わたしは、月明かりに、照らされた、その横顔を、見た。


——あれ、リリア?


え。

あれ。

リリア、って、女の子じゃ、なかったっけ?


わたしは、目を、こすった。


少年は、塀の向こうに、消えた。


——え、え、え?


わたしは、一晩、眠れなかった。


そして、翌朝、リリアが、いつものように、わたしたちに、魔力を、注いだ時——


わたしは、リリアの、目を、まっすぐに、見た。


リリアも、わたしを、見た。


そして、にっこり、笑った。


——気づいてるんでしょ?

——という、目だった。


——うん、気づいた。

——という、目で、わたしも、応えた。


リリアは、ほんの、小さく、頷いた。


——内緒、ね。

——という、合図だった。


わたしは、頷き、返した。


——うん。

——内緒。


その日から——


わたしは、リリアの、たぶん、二人目の、味方に、なった。


ひとり目は、誰なのか、まだ、知らない。


でも、いつか、知る、気が、する。


そして、いつか、わたしも——

リリアの「夢」の、隅っこに、入れて、もらえる、気が、する。


そう、思って——

わたしは、生まれて初めて、毎日が、楽しみで、仕方なく、なった。


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