閑話④ モンフォール侯爵家、三女エルネスティーヌ
(語り:エルネスティーヌ・モンフォール、十歳)
わたしは、お姉さま方が、嫌い。
——ううん、嫌い、というのは、違う、かも。
ただ、どうでも、いい。
長女のエレオノールお姉さまは、いつも、家の名誉、家の名誉、家の名誉。
次女のマリエルお姉さまは、貴族院、貴族院、貴族院。
ふたりとも、つまらない。
そして、お父さまは、お仕事、お仕事、お仕事。
お母さまは、社交、社交、社交。
家の中で、わたしと、ちゃんと、お話してくれる人は、誰も、いない。
だから、わたしは、いつも、ひとりで、菓子を、頬張っていた。
——でも。
——あの子が、来てから。
◆
リリア、と、いう、奉公人の女の子が、来てから。
家の中の、空気が、変わった。
リリアは、いつも、にっこり、笑っていた。
エレオノールお姉さまに、罵倒されても、にっこり。
マリエルお姉さまに、無視されても、にっこり。
わたしが、お菓子を、すすめても、「いただいて、よろしいのですか?」と、にっこり、断った。
——なんだろう、あの子。
最初、わたしは、リリアを、ただの、変な子、だと、思った。
でも、毎日、観察しているうちに——
気づいた。
リリアは、笑っているけれど、目の中の、奥の、奥に、燃えている、何かが、ある。
それは、お姉さま方には、ない、もの、だった。
——たぶん、「夢」、ってやつ。
わたしは、リリアが、毎朝、わたしたちに、魔力を、注ぐ瞬間の、目を、見ていた。
最初の三回は、ふらふら、しながら、絨毯に、崩れた。
でも、十回目には、立っていた。
二十回目には、汗ひとつ、かかなかった。
三十回目には——
なんだか、リリアの、身体の方が、お姉さま方より、力強く、見えるように、なった。
そして、ある夜——
わたしは、トイレに行こうとして、廊下で、奉公人棟の方から、ひとりの少年が、塀を、よじ登るのを、見た。
汚れたシャツに、汚れた帽子。
——ん?
少年は、わたしに、気づかなかった。
でも、わたしは、月明かりに、照らされた、その横顔を、見た。
——あれ、リリア?
え。
あれ。
リリア、って、女の子じゃ、なかったっけ?
わたしは、目を、こすった。
少年は、塀の向こうに、消えた。
——え、え、え?
わたしは、一晩、眠れなかった。
そして、翌朝、リリアが、いつものように、わたしたちに、魔力を、注いだ時——
わたしは、リリアの、目を、まっすぐに、見た。
リリアも、わたしを、見た。
そして、にっこり、笑った。
——気づいてるんでしょ?
——という、目だった。
——うん、気づいた。
——という、目で、わたしも、応えた。
リリアは、ほんの、小さく、頷いた。
——内緒、ね。
——という、合図だった。
わたしは、頷き、返した。
——うん。
——内緒。
その日から——
わたしは、リリアの、たぶん、二人目の、味方に、なった。
ひとり目は、誰なのか、まだ、知らない。
でも、いつか、知る、気が、する。
そして、いつか、わたしも——
リリアの「夢」の、隅っこに、入れて、もらえる、気が、する。
そう、思って——
わたしは、生まれて初めて、毎日が、楽しみで、仕方なく、なった。




