60.
拘束され、牢に入れられた後、どのくらいの時間が経ったかわからなかった。
長かったようであり、短かったようでもあった。
ある日突然牢から出されたかと思うと婚約は私有責での破棄となり、貴族籍剥奪の上、国外追放処分とされた。
護送の任に就いた騎士達は、かなりのスピードで国境まで連れて行き、身一つで私を放り出すとそそくさと帰って行った。
彼等の慌て振りに呆れる一方で、途方に暮れ当て所なく彷徨い、隣国の国境近くの村にやっとの思いで辿り着き、そこで初めてここが大陸の南西に位置するルフトツーク大公国だとわかった。
その上、村人達の会話からエルフ・ハイエルフ族の軍勢がドラッヘ王国の王都オストへと侵攻を開始したと知ったのだった。
それを聞いていても立っても居られなかった。
確かに家族からは疎まれ嫌われてはいたが、死んで欲しいとも不幸になって欲しいとも思っていなかったのだ。
それに、そんな私事はそこで暮らす領民達には全く関係の無い話だ。
私は、村長や村人達に世話になった礼を言い、急いで国境へと向かった。
国境に近づくにつれ人が増え、それが戦火を逃れて避難してきた人達と大公国の軍勢だとわかった。
国外追放の身としては目立つ事は避けたい。だから人が少ない場所から国境を越えようと移動したが、国境に辿り着いた私の目の前には一個大隊の軍勢が立ち塞がった。
一際大きな葦毛の軍馬に跨がった指揮官と思しき男が馬上から誰何してきた。
「関所を通らず越境しようとするとは何者だ!間者か?間者であるならば斬って捨てる。」
低く腹の底から響くような声に一瞬たじろぐが、ここで誤魔化したところですぐに身元がバレると思い仕方なく名乗った。
「…マグノリアと言います。」
貴族籍を剥奪されている為、家名は名乗らなかった。
恐らく名前に聞き覚えがあるのだろう。相手の眉がピクリと動いたのがわかった。
やはり、と思った。
国外追放されたのだ、王国から大公国に通達されていてもおかしくはない。
それが証拠に、馬上の人物を護るように周囲の兵士や騎士達が動く。
しかし、丸腰の私は魔法を使うしか手がない。
呪文の詠唱に入ろうとしたところで馬上の男が言った。
「行って良し。その前にこれを。」
そう言ってこちらに剣帯と小振りの剣を二本差し出してきた。
何故これが?
そう思ったが私の剣なのでありがたく受け取る事にした。
相手に近づき、それらを両手で押し頂いた。
「急がれよ。くれぐれも詠唱は最終手段とされるように。」
やはり身元はバレていた。
魔法の事だけではなく、私が双剣使いである事まで知っていた。
何より私の剣をこの場に持ってきていたのだ。
恐らく初めから私に渡すつもりだったのだろう。
「あと、これも必要だろう。」
そう言って馬から下りると手綱を渡してきた。
自分の愛馬の手綱を渡してきた事に驚き、息を詰めて顔を上げた。
それを受けて大公が力強く頷く。
「乗り捨ててくれて構わない。こいつは賢いから自分で戻って来れる。」
目の前の人物は、ルフトツーク大公御本人だろう。
その心遣いに胸が熱くなり涙が出そうになる。
「ありがとうございます。このご恩は必ず…いずれまた…。」
「うむ。」
剣帯に双剣を差し、馬に跨がると王都オストへと直走る。
そして、王都オストに向かう道すがら情報を集めた。
エルフ・ハイエルフ族の軍勢が王都近辺まで侵攻して初めて元老院はパーシヴァルの拘束を解いたらしいと聞いた。
何故そんな事になっているのかわからなかった。
だが、そんな事などお構い無しに王都までの間に何度か戦闘に巻き込まれながらも私は突き進んだ。
が…。
一足違いで王城は落ち、王都オストは陥落したのだった。
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