17.
聖導王国から出て行こうと考えていた私。
城内は王女の葬儀の準備で皆が慌ただしくしている所為か私の行動を咎める者などいなかった。
ただ、聖王に挨拶だけはしておきたかった。
そして、王女に最後のお別れを言う事も。
けれど、聖王がどこにいるかわからない私は、部屋の外に立っていた護衛に聖王の居場所を聞いた。
「少々お待ちを。」
護衛の騎士にそう言われ、彼が戻るまで部屋で待つ事にした。
暫くして宰相を伴って戻って来たのだが、どこか困惑した表情を浮かべている。
何事かあったのかと思い、尋ねると聖王が王女の傍から離れない為、このままでは葬儀の準備を進める事ができないので説得して欲しいと言われ、王女の遺体が安置されている聖導教会まで行く事になった。
教会に着き、聖堂内に入ると祭壇の上の棺の傍に項垂れて座り込んでいる聖王の姿があった。
「猊下…このままではヒルデガルド様の葬儀ができませぬ。何卒…。」
「黙れ!王女を…ヒルダをあの暗く湿った墓所に押し込めろと言うのか、しかもたった一人で!」
「ですが…。」
「ええい、黙れ!長い年月、祈りの塔に入れられていたのだぞ。それを今度は墓所になど…余にはできぬ、できぬのだ。」
長い年月祈りの塔に入れられていた?
王女の身でありながら?何故?
この国の王族の事情などわからない私は戸惑う。
宰相の顔をちらりと見るが、早く説得してくれと言わんばかりの表情で見られる。
数日しか関わりの無かった私に説得などできる筈がない。
なのに尚も「説得を。」と目で訴えてくる。
「猊下…猊下がそのように悲しまれてばかりでは王女も悲しまれる事になると…。王女の御魂が安らげるようにして差し上げるべきでは?」
ダメだ。
説得できそうにない。
そう思った時だった。
誰かが私の服の裾をつんつんと引っ張る。
足元を見ると目いっぱいに涙を浮かべた幼子が私の服の裾を摘まんでいた。
幼子と目が合った途端、その顔が悲しみで歪む。
「ぴゃあー。ひぃあー。」
涙がぽろぽろ、ぽろぽろとこぼれ落ち私の足にしがみ付いて泣き出した。
何故こんな所に幼子が?
一人の女官が乳母と思しき女性を伴って立っていた。
聖王が不愉快さを隠そうともせず苛ついたように言った。
「何故ここへ分別もつかない幼子を連れて来た。」
女官が一歩前へ出ると、聖王に一通の封書を差し出して言った。
「どのようなお咎めも受けます。ですが、その前にこれをお読み下さいませ。」
「何故、余がそんな物を読まねばならぬ。これ以上余の邪魔をするな。」
聖王が更に不機嫌になり、地を這うような低い声で言う。
聖王の威圧的な態度に顔色悪くして震えながらも女官は言った。
「今読まなければ、猊下は必ず後悔なさるからです。」
聖王は、何とか怒りを押し込めて引ったくるように女官の手から封書を取った。
封書に何の表書きもないのを見てフン!と鼻を鳴らし、がさがさと雑に封書を開いて読んだ。
最初の二、三文字は不機嫌さも顕わに読んでいたが、読み進めるうちに聖王の目から涙が溢れ出し、それは読み終わった後も止まらなかった。
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(*・ω・人・ω・)




