17.黄昏の天秤、魔眼の罠
【登場人物紹介】
シルヴァラ
・285歳。
・165cm、50kg。
・S級冒険者で、天恵は【精霊術士】。
・ハイエルフのため自尊心が高く、非常に強い魔力を持つ。
・『緋の三聖』の一人。光属性魔法を得意とする。
・神話級の魔道杖<レクティ・ヴィア>を愛用。
※【登場人物紹介】は、ネタが切れるまで続ける予定です(^_^;
ディアナの奇妙な動揺に怪訝な視線を送ったベアトリクスだったが、ひとまずはその不審を頭の隅へと追いやって元の冷徹な表情を取り戻した。
壁面全体に広がる硝子窓の向こうでは、夜の帳が『交易都市フェルゼン』をゆっくりと包み始めていた。
領館の最上階にある『金天秤の間』では、想定を遥かに超えるアードラーの武威を知って、ジギスムント側が言葉を失っていた。
その張り詰めた緊張感を、ディアナの羞恥による醜態が、図らずも薄める結果となったのである。
ベアトリクスは卓上の紅茶を一口だけ含み、その氷緑色の双眸で再びアードラーの幹部たちを冷然と見据えた。
「アードラーが<アドリア海域>でレウルキア海軍を撃破し、我が領の北方防衛予算を実質的に削減してくれたことは認めましょう。……それでは、等価交換といきますか。今度は我々から、アードラーの皆様がこれから向かう未開の魔境――オーディンヴァルト大森林の現状についての情報を提示いたしましょう。キリアン、詳細を……」
右半分が漆黒、左半分が白髪という特徴的な長髪を揺らして、ベアトリクスが口元をわずかに綻ばせて告げた。二十一歳のディアナには真似できない、大人の女性が放つ艶やかな微笑みだった。
「かしこまりました、ベアトリクス様」
ベアトリクスの言葉に応じて、秘書官キリアンが静かに席を立って一礼する。その黒縁メガネの奥にある黒瞳には、感情の起伏が一切見て取れなかった。
彼の有する天恵――【完全記憶】は、領内の予算や資金の流れ、兵站の運用と保管、その他の帳簿すべてを、文字通り完全に記憶する能力である。
その記憶の引き出しから魔導偵察による大森林の最新情報を取り出し、キリアンが手際よく展開し始めた。
「現在、オーディンヴァルト大森林の東部一帯には、魔人国の女王アスタロトが三千の精鋭を展開して不可解な包囲陣を敷いています。奴らが布陣しているのは、大森林東部にある遺跡の周辺です。その遺跡についての詳細は不明ですが、『生きて戻った者はいない禁忌の魔境である』という説もあります」
キリアンは淡々と、絶望的な事実を並べ立てた。その言葉を引き継ぐように、ベアトリクスが冷徹な声音で重大な情報を重ねる。
「最大の問題は、女王アスタロト本人の動向です。彼女は大森林の東部に堅固な砦を築こうとしています。その真の狙いはおそらく――我が皇国にいる『緋の三聖』の一人、ブリュンヒルデが持つ神話級の神剣<クラウ・ソラス>の強奪にあると、私は考えています」
「神話級の神剣<クラウ・ソラス>ですか――」
それは、世界に七本しかないと言われる七大神器のひとつだった。
魔人国女王がそんなものを狙っているなど、ディアナは想像さえしていなかった。
「ええ……。<クラウ・ソラス>は、かつて勇者が魔王を討ち果たしたと伝えられる『破魔の神剣』です。魔人族にとっては、まさに天敵と言えるでしょう。アスタロトは<クラウ・ソラス>を奪うために、ユピテル皇国に潜入する計画を立てているようです。東部の砦は、そのための足がかりでしょう」
(さすがオーディンヴァルト大森林と国境を接しているだけあるわ。神国では手に入りにくい魔人族の動きを、これほど掴んでいるなんて……)
蒼灰色の瞳に緊張を浮かべながら、ディアナはベアトリクスの話に聞き入った。
「アスタロトにとって最悪の状況は、ユピテル皇国に潜入している最中に、その背後をセリカ神国に衝かれることです。だからこそ、その危険を回避するために貴女方を利用して、神国に内乱を起こさせようとしているのです。もし、アードラーが遠征に失敗すれば、その最終責任は軍務尚書であるユリウス=シルベスター第二皇子に帰します。つまり、レオンハルト第一皇子派にとっては、邪魔な第二皇子派を攻撃する口実になるのです」
(この女――ベアトリクス=フォン=ジギスムント伯爵って、かなりの切れ者だわ。魔人国の情報だけでなく、神国宮廷の内情にまで詳しいなんて……)
ディアナも一軍の将として、情報の重要性は理解しているつもりだ。それだけに、ベアトリクスの情報収集能力には目をみはるばかりだった。
「お言葉を返すようですが、神皇アルカディオス陛下がご健在の間は、内乱など起こりません。また、両殿下のどちらが皇太子となられるかは、神皇陛下がお決めになります。それに、万が一アードラーが軍令を違えた場合でも、軍務尚書は責任を取られないでしょう。おそらく、軍務次官である我が父に責任転嫁なさるはずです」
だからこそ、何をおいてもアードラーは軍令を完遂しなければならないのだ。
ディアナは、自分に課せられた責任の重大さを改めて噛み締めた。
「そう簡単に考えていると、足元を掬われますよ、ヴァーテル騎士団長。アスタロトの天恵は、【色慾】です。これは一言で言えば、『精神汚染の檻』です。対象の精神を甘美な狂気の中に封印し、快楽の奴隷へと変え果てるものです。まともに戦えば、アードラーと言えども全滅の憂き目に遭う可能性が非常に高いと思われます――」
そこでベアトリクスは一旦言葉を切った。そして、氷緑色の双眸で真っ直ぐにディアナを見つめて訊ねた。
「貴女方にこの【色慾】の甘き檻を打ち破る算段はおありですか?」
ベアトリクスの【威風裁定】の覇気が、遮音された会議室内に重苦しく張り詰める。
それは、アードラー一千の命を預かるディアナに対する、等価交換の形を借りた『生き残る資格』への問いかけであった。
その時、マホガニーの長机の端で、太った身体を椅子の奥深くへと沈めていた保守派の巨頭――ハルトマンが、フンッと不快げに鼻を鳴らした。
焦げ茶色の髪を残しつつも頭頂部が完全に禿げあがったその男は、濃灰色の眼でアードラーの首脳陣を忌々しげに睨みつけた。
彼の全身からは他者の変革や干渉を一切拒絶する魔力――天恵【因習の盾】が滲み出ていた。
「ベアトリクス様、些かアードラーの『負け犬ども』を買い被り、我が領の最高機密を漏らしすぎではございませんか? 宮廷から見放され、上級魔力回復薬の交付すら差し止められたような厄介者に、これ以上の援助など言語道断。大森林へ突っ込んで自滅するなら勝手にさせればよろしい。我が領の貴重な備蓄を彼らに分け与えるなど、フェルゼンの古き伝統を汚す暴挙でございます! このような余計な遠征に巻き込まれれば、領民の経済活動にも多大な損失が出ることは火を見るより明らかですぞ!」
ハルトマンはディアナたちアードラーの幹部に侮蔑の眼差しを向けながら、憚ることなく持論をまくし立てた。
「静かにしなさい、ハルトマン。これは辺境伯からの要請に沿った正当な軍事実務交渉です。あなたの個人的な妄執や因習への固執で、この大局的な実務を妨げることは許しません。我が領の北方防衛予算を削減してくれた彼らに対し、相応の兵站を融通するのは等価交換の鉄則です」
ベアトリクスが氷緑色の瞳を険しく光らせ、天恵による圧倒的な知性の覇気でハルトマンの言葉を真っ向から圧殺する。
ハルトマンは苦虫を噛み潰したような顔ででっぷりとした身体を揺らし、不承不承といった様子で口を噤んだ。しかし、その濃灰色の眼には、若き女伯爵の統治に対する不満と、アードラーの進駐に対する烈しい憎悪が、どす黒く滾り続けていた。
(……ほう、なるほど。ジギスムント領の内部も、決して一枚岩ではないというわけか)
アードラー側の左翼に座る監軍総官ヴァイス=アシュラッド伯爵は、その狐のような怜悧な笑みを浮かべたまま、長机の対面で繰り広げられた醜悪な内紛の光景を一片の見落としもなく観察していた。
胸元に輝く『五本』の金のチェーンを細い指先で弄ぶ彼の脳内では、アシュレイ公爵の利益を最大化するための謀略の歯車が、急速に噛み合い始めていく。
(若き女伯爵ベアトリクスと、その忠実な飼い犬である秘書官キリアン。それに対して、古き因習にしがみつき、新参の遠征軍に激しい嫌悪を隠そうともしない秘書官長ハルトマン。両者の間に横たわる、埋めがたい決裂の溝……。あの肥満体の俗物の憎悪は、アードラーを一網打尽にするための実によい『駒』になる。泳がせて、こちらの兵站寸断の工作に利用してやるか……)
ヴァイスは指先に絡めた金鎖をチャリッと鈍く鳴らし、丸眼鏡の奥で冷ややかに光る参謀長バルハルトの視線を巧みに躱した。そして、ジギスムント側の確執を己の策略の道具として冷徹に見定めた。
ハルトマンを黙らせたベアトリクスが、再びディアナへと視線を戻す。だが、ディアナはその問いに即答することができなかった。
【色慾】の甘き檻――それを打ち破る算段など、今のアードラーにはまだ何ひとつ無かったのである。
「……正直に申し上げます。現時点で、【色慾】そのものを打ち破る確たる策はありません」
わずかな沈黙の後、ディアナは蒼灰色の瞳を逸らすことなく、真っ直ぐにベアトリクスを見つめ返した。
「ですが、ヴェルグランツ辺境伯にもお伝えしたとおり、我々の目的は、人族に仇なす魔人族の脅威を討つことにあります。【色慾】の届く女王の正面に、無策のまま全軍を晒すつもりはありません。戦う場所と時は、こちらで選びます」
「――補足させていただきますと、三千の敵が籠もる砦を一千で攻めるのは、兵法の常道から見ても無謀です」
卓上の『龍刻の長煙管』を指先で軽く叩きながら、バルハルトが淡々と言葉を継いだ。
「ですが、先ほどのお話では、砦はまだ築城の途中。しかも三千の兵は、遺跡を包囲するために散開しているはずです。ならば砦が完成する前に、分散した敵を野戦に引きずり出し、各個に叩く――それが、我々の取り得る最善の策でしょう」
ベアトリクスは氷緑色の双眸をわずかに細め、値踏みするような視線をアードラーの二人に注いだ。
「……なるほど。女王の首級でも狙うかと思えば、城攻めの無謀を認めたうえで、戦場そのものを選びにくるとは……。砦が完成しなければ、アスタロトは皇国への足がかりを失う。アードラーが生きて軍令を果たせば、神国も揺らがない――我が皇国にとっても、悪くない答えです」
そこでベアトリクスは一拍置くと、冷ややかに付け加えた。
「ですが、貴女方の侵攻に対して、アスタロトが黙っているとは思えませんよ。女王自らが出てきた時の備えも、大森林へ入る前に整えておくことです」
「肝に銘じます」
ディアナの短い答えに、ベアトリクスは満足げに小さく頷いた。
やがて、大森林の偵察データの共有を終えた実務交渉は、保管倉庫の割り当てに関する詳細な事務処理を翌日へ持ち越す形で、一時的に中断された。
アードラーの面々には、領館の二階および三階の高級客室がそれぞれ割り当てられ、一行は一旦の休息を取るために退室していった。
時が流れ、夜の六つ鐘を告げる重々しい音色が、『交易都市フェルゼン』の夜の静寂へと響き渡る。
茜色の斜陽は完全に消え去り、地上三階建ての領館は、周囲に広がる庭園の白樺の木々や噴水の飛沫とともに、冷たい月光の底へと沈み込んでいた。
アードラー幹部用に割り当てられた、館の三階の一室――その濃い影が落ちる闇の中で、監軍総官ヴァイスは黒い外套を深く羽織り、音もなく立ち上がった。
彼の目的は、皇都にいる法務尚書ブライアン=アシュレイ公爵への定期報告、および次の兵站妨害工作の進捗確認であった。
(そろそろ時間だな……。館内にはシンディの天恵【暗殺者】による鋭い魔力感知網が張り巡らされている。迂闊に室内から魔導通信を使えば、あの目ざとい黒鴉に一瞬で感知され、バルハルトに通信を傍受されて尻尾を掴まれるな)
アードラーの監視を完璧に欺くため、ヴァイスは館の外で聖サマルリーナ教のゲオルグ=アイゼンハイド司教の伝手を頼る必要があった。
司祭時代にアシュレイ公爵から受けた莫大な寄付金を着服し、その金でユピテル皇国へ渡って司教に成り上がった男――その弱みを握って恐喝し、自身の忠実な手駒に仕立て上げていた。
ヴェルグランツ教会にいるゲオルグの特設魔導通信機を経由すれば、アードラーの網に引っかかることなく、皇都のアシュレイ公爵へと安全に暗号を送信できるからである。
ヴァイスは魔力で己の気配を殺し、重厚な客室の扉を音もなく開けた。
月明かりが差し込む長い回廊を忍び足で渡り、見張りの騎士たちの死角を正確に突きながら、使用人用の裏階段を静かに下りていく。
一階の勝手口から領館の敷地外へと脱出し、教会の息がかかった連絡員と接触する――その完璧な隠密行動に、ヴァイスは自身の勝利を確信していた。
だが、闇に包まれた一階裏廊下の突き当たり、外部へと繋がる勝手口の扉を前にして、ヴァイスの足がぴたりと止まった。
格子窓の影が床に縞模様を落とすその空間に、行く手を塞ぐようにして一枚の巨大な『壁』が立ちはだかっていたからである。
「黒い外套なんぞ羽織って、随分とコソコソした散歩だな、監軍総官殿……」
漆黒の闇の奥から、獣の唸りにも似た低い声音が響いた。
そこにいたのは、傷だらけの「漆黒の金属鎧」を全身に纏った巨漢――アードラー騎士団の筆頭騎士ザックであった。
胸元ではたった『一本』の銀のチェーンが月光を浴びて不気味にきらめき、強靱な右腕には火龍の宝玉を宿した斧槍<フレイム・ハルバード>が重々しく握られている。
鮮烈な蒼い瞳に鋭い殺意の炎を滾らせて、ザックはヴァイスの逃げ道を断っていた。
「これはこれは、筆頭騎士ザック殿。夜分遅くに無骨な鉄塊を携えて、一体何の真似かな? 一介の平民上がりの騎士が、宮廷から正当に遣わされた監軍総官の進路を武器を手に塞ぐなど、それこそ不敬罪で即座に首が飛ぶ暴挙だと思うのだがね」
ヴァイスは狐のような薄笑いを崩さぬまま、両手を軽く広げてみせる。だが、かつてザックの斧刃が放った衝撃波に裂かれた首筋の古傷が、わずかに疼いていた。
「ハッ、知るかよ。あんなタヌキどもの宮廷規則なんざ、この俺には一ゼナールの価値もねえんだよ。あんたがアシュレイの工作員だってことは、ガザリアの時から百も承知だ。昼間の会議の席でも、あの禿げ親父と視線を通わせてやがったな」
ザックが一歩、前へ踏み出し、右手の斧槍の刃をヴァイスの眼前へと突きつけた。百九十六cmの巨躯の質量と、天恵【鬼神】の獰猛な武力が放つ圧倒的な殺気が、裏廊下の空気を一瞬で凍りつかせた。
「俺がこの鎧を着て、『一本』のチェーンだけで団長の後ろに立っているのは、神国のためじゃねえ。……すべては、ディアナを守るためだ。あいつに手を出す奴は、この俺が一匹残らず叩き斬ってやるッ!」
ザックの怒りに呼応するかのように、<フレイム・ハルバード>に宿る火龍の宝玉が紅く明滅し、闇の中に火の粉が爆ぜる。
かつてディアナと二人で死線を潜り抜け、最愛の主君を守る<最強の盾>となることを誓った男の不屈の意志がそこにはあった。
「おやおや、やはり君は底が浅いな。忠誠心が強すぎるあまり、私の姿をその目で凝視したのは――君の人生における、最大の失策だよ」
ヴァイスは鋭い斧槍の刃をものともせず、勝ち誇ったような暗い笑みを端整な貌に浮かべた。
そして、自身の左眼を覆っていた漆黒の革製の眼帯に細い指先をかける。
するりと眼帯が外され、床へと落ちたその刹那――
隠されていたヴァイスの左眼――妖しくドロドロと明滅する、邪悪な『金色の魔眼』が、夜闇を裂くように開眼した。
「なッ……!?」
ザックは咄嗟に視線を逸らそうとした。
だが、それより速く、金色の光が網膜を射抜く。
――すべてが決した。
至近距離から放たれた、天恵【看破】の精神支配――
それがザックの視神経を爆発的な速度で駆け上がり、彼の脳髄の最深部へと突き刺さったのである。
人目のない夜の裏廊下で、不意打ち同然に魔眼の直撃を受けたのだ。
どれほど強靱な肉体と最強の武力を誇る筆頭騎士といえども、脳内を直接侵食され、乗っ取られるこの罠には抗えなかった。
「ぐッ、あぁあ……ッ!!」
ザックは斧槍を床へと突き立てた。無数の針が頭蓋の内側を暴れ回るような激痛に、その巨躯を激しく痙攣させた。
ヴァイスの魔力が禍々しい毒蛇のように意識の奥底へと這い入り、支配の楔を打ち込んでいく。
(ディアナ……、俺は、お前を……ッ!)
抵抗しようとする強固な心の防壁が、兇悪な魔眼の光に呑み込まれ、粉砕されていく――
わずか数秒の間に、ザックの瞳は蒼光を失って真っ赤に血走っていき、己の意志を完全に喪失した。
「ククク……、ハッハハハ! ムズンガルド大陸最強の【雷神】の一撃を食い止めた男が、私の命令一つで動く、憐れな玩具に成り下がるとはね!」
ヴァイスは、血走った瞳を見開いたまま立ち尽くすザックに顔を近づけ、その耳元で残酷な命令を生々しく刷り込んでいった。
「よく聞け、ザック……。今夜朝の一つ鐘に、ひとりで執務室にいるディアナの元へ向かえ。そして、君が心の奥底にずっと隠し持っていた醜悪な欲望――情欲、独占欲、本能のすべてを解放して、あの気高き伯爵令嬢を力ずくで蹂躙してこい。【氷姫】の心を内側から壊すんだ! 愛も信頼も――その絆さえ、君自身の手で、完膚なきまでに引き裂いてやれッ!」
「……がぁッ……、俺……、は……」
術の呪縛によって、内に秘めていたディアナへの至純なる誓愛を狂暴な衝動へと変質させられたザックは、魂の底からの拒絶の声を虚ろな咆哮として漏らすことしかできなかった。
床から拾い上げた眼帯を左眼に当て直し、ヴァイスが満足げに裏廊下の闇へと姿を消した。赤く濁った眼で暗闇を見据え続けて、いったいどれほどの時間が過ぎたのか――
魔眼に支配されたまま、輝きを失った『一本』の銀のチェーンが虚しく揺れる。意思を奪われた最強の騎士は、最愛の主君を穢す獰猛な獣と化して、静かに執務室への階段を上り始めるのだった。
「17.黄昏の天秤、魔眼の罠」をお届けします!
我らがザックがヤバいことになってます(^_^;
これからどうなっちゃうのか、ドキドキはらはら♪
お楽しみにお待ちください!




