第3話 冷静になると、2人部屋にしたのはマズかったかもですね。寝顔とか見られちゃいますし、一瞬たりとも油断でないじゃないですか!困りました……byわたし
僕たちは今、キノコの村の入り口付近に到着しました。夕暮れ前になんとか着けた……。僕、帰宅部だから疲れた……。
アニメなんかで見るような立派な城壁みたいなものは無い。まあ、村だしね。でも、1.5〜2人分位の高さのレンガの壁で囲われてる。さっき遭遇した黒いオオカミ(ブラックウルフというらしい)みたいなのが襲ってきたら大変だもんね。それでも村なんだから、僕のイメージだと、せいぜい腰くらいの高さの木で作った柵があるくらいだと思ってたよ。それを思えばこれだけでも立派に見える。
そして、入口には武器を持った門番さんが2人立っていた。
ロンさんたち兄妹は知り合いなのか、親しげに話しかけている。
「よう、久しぶりだな。また来てやったぜ!」
「来てやったよ!」
「あ、お久しぶりです、ロンさん、チイさん。ところで、そちらのお2人さんは?」
「ああ、途中で会って、目的地がここだっていうから一緒に来たんだ。すごいんだぜ!ブラックウルフを周りの木ごと薙ぎ払っちまったんだ!いやぁマジですごかったな!」
「うんうん、私も思わずうわ~って無意識に言ちゃったよ!」
「!そんなにすごかったんですか?」
「そりゃお前、あの俊敏で、毛皮も丈夫なブラックウルフが避けられないほどの範囲と威力だったからな!周りの木も何本もへし折れててよ!危うく俺も、1発くらうところだったぜ!」
「え、マジですか……」
「いや兄さんがくらいそうになったのは自業自得だけど……」
僕の横で、その魔法を使った姫璃さんが恥ずかしそうに俯いてプルプルしてる。ちょっとかわいい。
「あ、長々話してそちらのお2人を待たせても悪いので、そろそろ始めましょうか?」
と言って門番さんの1人が水晶玉のようなものを出してきた。当然初めて見るものだったが、僕たちには天使様からもらったこの世界の常識が分かる本が頭の中にある。
その水晶は、魔力を込めると光り、その光りを浴びたものに掛かっている幻術を強制的に解除するものだ。
なぜそんな事をするかというと、指名手配している人を見つけるためとか、怪しいものを持ち込もうとしているのを止めるためとかの理由もあるが、もう1つ理由がある。それはダークエルフを町(ここでは村だが)に入れないようにするためらしい。そしてそれは、この地域にある町が同じようにやっているらしい。
で、ダークエルフがなにをやらかしてしまったかと言うと、
今から10年ほど前、このキノコの村から1週間ほど歩いた場所にダークエルフたちが暮らす町?というか集落?があるみたいなんだけど、そこで新たな長が決まりました。元凶がこいつね。
その長は歴代の中でもとても強かったらしくてだんだん独裁者みたいになって、長になって2年目くらいから周りにある町や村を武力で脅してお金や食べ物なんかを貢がせるようになったそうな。いくつかの町は当然断るんだけど、本当に強かったので全く敵いません。そして、ダークエルフの集落でもやりたい放題です。でも、みんな手も足も出ないので言うことを聞くしか無い、という状況が続きました。
それでも、歴史を見れば分かる通り、独裁者はいつか倒されるもので、今から4年前に、現在のダークエルフの長に倒されましたとさ。暗殺されたんだって。悪いことはできないね!めでたしめでたし。……で普通、悪者が退治されると物語は終わるとことだけど、実際は当然そうじゃない。
その暴君が死んでも、その被害を受けた町はダークエルフを許せず、町に入ることはできるけど、入るのに結構お金がかかるみたい。あ、ダークエルフ以外は無料だよ。
ちなみに、その魔王が死んだ後は、比較的ダークエルフの皆さんは大人しくしてるんだって。といっても信用できないというか、町に入れたらまた悪さをするんじゃないかと警戒されてるわけだね。
そんなの理由で、町や村に入るときは門番さんが種族も調べるようになったらしい。
水晶玉が白く光ったけど、僕たちはなにも変わらない。
「はい、結構ですよ。ありがとうございます。どうぞ、お通り下さい」
「良い滞在を!」
と言って通してくれた。
「ところで、お前たちは今日の宿は決まってないんだろ?よければいつも俺達が使ってる宿へ案内してやろうか?特別いい宿ってこた無いが、悪くもないぜ?」
「兄さん、そんなこと言っていいの?おじさんとおばさんに言いつけちゃうよ?」
「おいおい、それはやめてくれよ!またバカみたいに怒られたらどうするんだ!」
「いや別に、私が怒られるわけじゃないからいいよ〜。ま、兄さんのことは置いといて、どうする?親子でやってる宿なんだけど、結構居心地がよくて私は好きなんだけどね。兄さんと違って」
「いや、俺だって好きだぞ!だから変なことは言うなよチイ!頼むぞ!本当に!」
姫璃さんを見ると、頷かれたので、お礼を言って案内してもらうことにした。
村に入る。すると、そこにいたのは僕たちと同じ人間であるヒューマンも当然いるが、エルフも何人かいることが分かる。でも、他の種族はいないな……と思っていたら、頭の中にある本が、この世界はエルフ、ダークエルフ、ドワーフ、そして僕たちヒューマンしかいないと教えてくれる。え、そうなの?もっと色々な種族がいると思ってたのに……。
そして、しばらく歩くと、2階建ての宿が見えてきた。ロンさんとチイさんがドアを開けて中へ入っていく。その後に続いて僕たちも入る。
「よう!悪いがまた泊まらせてもらうぜ〜!」
「泊まらせてもらいま〜す!」
「あぁ、ロンたちか。ようこそ」
「それからこいつらも泊めてやれるか?」
「おお、新しいお客様を連れてきてくれたのか。でかしたぞ、ロン、チイ!ようこそおいでくださいました。ウッドといいます」
僕たちも自己紹介をして、部屋を借りることにする。
「部屋は1人部屋だと6千円、2人部屋は8千円です。朝昼夜と食堂で注文してもらえればお出ししますが、別料金になります。どうしますが?」
「あーそれでは1人部屋を──」
「ふ、2人部屋でお願いします」
『うわ~姫璃ったら、だ・い・た・ん〜!』
「ち、違いますよ!これからなにがあるか分からないので、お金を節約しようと思っただけです。それに、悠一君のことは、信じてますからね!」
「あ、うん、その、ありがとう……」
「あ、いえ、こちらこそ……」
「なんだか微笑ましいですね。かしこまりました。何泊されますか?」
「(えっと、どうしよう?)」
「(とりあえず3日くらい泊まって、その間にどうするか考えましょうか?)」
「(そうだね、そうしよう。)」
というわけで、取り合えす3日、もしかしたら伸びるかもしれないと伝え、そうなっても大丈夫だと言ってもらえた。
「?そういえば、おばさんとジャスミンはどうしたんですか?いつもは私たちが来ると出てきてくれるけど……」
「そういやそうだな。買い物か?」
「あーいや、ちょっとな。2人には後でそのことについて話があるんだ。いいかな?」
「?ああ、いいけどよ……」
「なにかあったの?」
「……まあな。ああ、すみませんねお客さん。部屋は2階の1番左の奥の部屋です。鍵はこれになります。どうぞごゆっくり」
「そうだ2人とも、ここの壁は薄いから気をつけろよ!」
「「あ、はい。ありがとうございます……」」
なんだか宿屋のおじさんがロンさんたちと話したそうにしてたから、僕たち3人は少し急いで部屋へ向かった。
部屋にはベッドが2つあり、その間の枕元に引き出しが付いた小さな棚……というか台?……でもこれ机ではないと思うけど……ほら、日本のホテルとかにもあるようなやつだよ。あれあれ。あれがあるだけというシンプルな部屋だった。でも、鍵が掛けられるのか……。こういう異世界って、鍵はないと思ってたよ。ほら、かんぬきっていうの?そういうものしかないと思ってた。
そして僕と姫璃さんはそれぞれのベッドに腰掛けた。
「はぁ〜〜〜やっと着いた〜。なんだか今日という日がめちゃくちゃ長い……」
「そうですね。事故にあって天使にあって、悠一君が波美を呼び出して、今まであったことを説明して、自己紹介の後に村を目指して少し歩いた後にお昼ご飯を食べて、そしたらあの⋯…ブラックウルフ?というのに追いかけられましたからね。また死んじゃうかと思いました……」
『ね〜ほんとだよね〜。でもやっと3人だけになったし、あたしも遠慮せずに会話できるよ。チイたちがいるときにあたしが話しかけて悠たちが返事しちゃったら、誰と話してるの?ってなるもんね〜』
「でも先ほどは私のことを大胆だって言ってましたよね?」
「ああ、言ってた言ってた!まあ波美さんだもんね?しゃべるの我慢するっていうのは僕たちでいうと、きっと1日中水飲まずに食事も取らないくらいに辛いことなんだろうね……」
「え?そうなんですか?それは辛かったですね波美……。ではもう我慢する必要は無いのでおしゃべりしましょうか?」
『……う〜ん、おしゃべりは賛成だけど、あたし別にそこまで辛いってことはないからね?せいぜい……そうだな〜…………ごめん、なんかいい例え思いつかないや!めっちゃいい例え言おうと思ったけど。あはははっ!ところで、さっきここの料金は1万円だって言ってたけど、これって日本だと安いの?高いの?』
「さあ?僕も親と旅行言ったときにホテルに泊まったことあるけど、当然お金は親が払ってくれたからね。分かんないよ。スマホがあれば分かるけど……」
「ああスマホ!なんだか久しぶりに聞いた気がしますね……。そうですよね、なにかアクシデントがあって離れ離れになったときなんかは、連絡どうしましょうか?」
「『あ、確かに!』」
「この村の中ならとりあえず、今いる宿に集合、ということでいいと思いますけど……。先ほどの森の中だと地図はあっても迷ったら合流は困りますよね?」
『まああたしは悠から離れたくても離れられないから、最悪1人になることはないね!どう?姫璃?羨ましい?羨ましいでしょ〜?へへへ〜ん!』
「いやでも僕たち戦闘能力0だから、また魔獣が出たら今度こそ終わりでは?」
『そうじゃん!姫璃〜さっきはごめんね〜?あたしたち3人はずっと一緒にいようね?ね?お願いしますなんだからよ?』
「ええそれはまあ、わたしも何も知らない世界で1人にはなりたくないのでそうしたいですけど、もしも離ればなれになったらどうするかを話しているのでは?」
『うん、鋭い指摘だね!』
「別に鋭いってほどではないんじゃない?波美さんが余計なこというから悪いんだよ」
『だってだって!マジメに話しててもおもろくないじゃん!!』
「いえ、真面目に話さないといけないときは真面目に話さないと、後が大変ですよ?」
「いや、あたしも分かってるんだよ?でもさ〜実際どうするの?どうしようもなくない?ねぇ悠?」
「この状況で僕に振るのやめてくれない?」
「悠一君はどう思いますか?」
「えぇ~?う〜んと……あ!頭の中にある本によると、テレパシーっていう便利な……いや、これダメだ。ある程度距離が近くないと使えないみたい。密談用なんだって……」
『てかさ、あたし思ってたんだけど、その「頭の中にある本」っての、なんか言い難いというか、長くない?もっと言いやすい呼び方考えようよ〜?』
「「え?離ればなれになったときのことは(?)」どうするんですか?」
『いやまあ、とりあえずはしばらくここにいるわけでしょ?あ、でもせっかく異世界来たんだし、冒険する?』
「お金はあるから、2人がいいなら、僕はもう少しここにいたいけど……。今後のことも考えないといけないし。でもそうか、そうなると、お金の心配もしないといけないよね……」
「そうですよね……。ですが、ここにしばらく滞在するというのは、わたしもいいと思いますよ?」
『じゃーとりあえず、離れちゃったらここ集合でいいじゃん?そのうちいい考えが浮かぶかもだし?あ、もしかしたら、誰かがスマホ作ってくれるかもじゃん!』
「「いや、それはさすがに……」」
『とにかく!考えてもしょうがないならあきらめる!それが波美ちゃん流の生き方だから!テストのときもそんな感じだったしね!あははっ』
「笑い事じゃない気がするけど……まあ、答えが出ないわけだし、しょうがないのかな?」
「……そうしましょうか?ですが、お金のことは──」
『じゃ、「頭の中にある本」に変わるスタイリッシュでクールかつ、ウィットとユーモアに富んだ素晴らしい名前を決めちゃおう!!いえ〜い!!』
「あの、波美?お金──」
『じゃ、「頭の中にある本」に変わるスタイリッシュでクールかつ、ウィットとユーモアに富んだ素晴らしい名前を決めちゃおう!!!いえ〜い!!!ね?姫璃?悠?』
「「同じこと繰り替えさなくても……」(どうしましょうか、悠一君?)」
「(よくはないけど、波美さんさっきまでしゃべるの我慢してたから、その反動がきて楽しい会話がしたいんじゃない?今までもこうやって僕の話を聞いてくれないことってあったからさ、こういうときは、波美さんじゃないけど諦めたほうが楽かも)」
「(あーそうですか。悠一君も大変でしたね……)」
「(いや、別に会話自体は楽しいからいいんだけどね。本当に真面目にやらないといけないってときは意外とって言ったらあれだけど、結構真面目にやるからね)」
「(では、今回は楽しい会話をしましょうか?ですが呼び方を考えるのって楽しい会話なんですかね?)」
「(あー、でも、波美さん楽しそうだし、いいんじゃないかな?)」
「(それもそうですね)」
『ちょっと、なんで2人だけで話してるの!?あたしも混ぜてよ〜!一緒には〜な〜そ〜よ〜!』
「うんうん、そうしよう」
「ええ、そうしましょう」
『お、2人もやっとやる気になったね!で、どんな名前にする?とりあえずあたしが考えたのはね〜「脳内の本」!』
「あまり変わってないんじゃない?」
「ですよね?」
『いや、あたしもそう思ったけど、言い出したのはあたしだから、最初になにか案を出さないとって……』
「波美って悠一君が言った通り、結構真面目なんですね?」
「でしょ?見た目はあんなのなのにね?」
『あんなのって何さ?ん?悠く〜ん?』
「いや、でもやっぱり僕としては、リアルな金髪って陽キャというか、僕たちみたいにゲームが好きとか、漫画はともかくラノベが好きとか言うとからかわれそうで怖かったんだよね。それに、正直なところ、不真面目っていうか、下手したら不良みたいな感じで悪いことするイメージだからさ……。漫画とかアニメならいいんだけど」
『不良って……。少なくともあたしたちがいた学校にはいないんじゃない?悪いって言っても、制服着崩したり、ピアス着けたりするくらいでしょ?……そうだよね?』
「さあ?どうかな……。ところで、姫璃さんって波美さんのこと最初に見たときどう思ったの?ヤバそうなやつだって思わなかった?ちなみに僕は思ったよ?それがまさか、仲良くなって、その上異世界にまで来るとはね。人生って本当に分からないよね……」
「……聞いてませんでしたが、わたしが波美と会ったのは、その、本当は中学2年の時なんですが、覚えてますか?といっても、ほんの一瞬だけ顔を見た、くらいの時間でしたけど……」
『?うん、ちゃんと覚えてるよ?あの時あたし、帰るところだったんだけど、悠をカフェに連れ込んで、今の可愛い子誰?もしかして悠の彼女なの〜?ね〜え〜?って1時間くらい質問攻めにしたんだよね〜。いやー懐かしいね〜』
「あ、そうだったんですね」
「そうだったんだよ。めちゃくちゃ絡まれてね……。波美さん、テンションMAXって感じで……。とても疲れた記憶があるよ……」
「……それはその、先ほども言いましたが、大変でしたね、悠一君……」
このあたりのエピソード『姫璃と波美のファーストコンタクト〜姫璃が勇気を持ち、そして挫折した日〜』はいずれそのうちに公開予定なので、乞うご期待☆ということで!いつやるかは未定だけど……。
「それで、波美の最初の印象ですよね?今まで同学年で金髪の人は初めて見たので、驚きはしましたが、悠一君の知り合いみたいだったので、まあ悪い人ではないのでは?とは思いましたよ?」
『わ〜さすがは姫璃!初めて会った人にそう思われるのって、もしかしたら何気に初めてかも……。なんか姫璃が女神に見えてきた……』
「え!本当に?もしかして視力になにか問題が……?」
『だから悠!どういう意味だっての!』
「まあ、もしかしたら、悠一君がなにか弱みでも握られてるのでは?と少しだけ考えましたが……」
「あ、だよね。よかった。姫璃さんの視力、異常なし!」
『も〜悠!?怒るよ?いいの?波美ちゃんプンプンモードになっちゃうよ?OK?』
「ですがすぐに、2人とも、今みたいな笑顔で仲も良さそうだったので、大丈夫だろうと思いましたよ?本当に弱みなんて握られていたらあんな顔しないでしょうし……」
「……なんだか、そんなふうに言われると、照れくさいね」
『そだね。ちょっとムズムズするね。悪い気はしないけどさ』
「うんそうだね。悪い気はしないよね。なんならちょっと嬉しいくらいだよ」
『だよねだよね!いや〜姫璃は見る目があるよ!』
「いえ、そんなことは……ところで、何の話でしたっけ?」
『?あたしと悠が仲良しって話でしょ?どうしたの?』
「それより前の話ですよ!どうしたのはこっちのセリフです!」
「えっと……?あ!あれだよ、日本のホテルとこの宿は値段が高いか安いかってやつ!なんか毎回話が脱線するから、戻ってくるのも大変だよね……」
「そうですね……なんで脱線しちゃうんでしょう?」
『ほんどだよ!まったく!どっちが脱線させたの?正直に言えば許してあげるよ?ほら、言ってごらん?』
「僕も誰だったかは覚えてないんけど、なんで波美さんが叱る側なの?あれー?なんだかんだで結構波美さんが怪しいと思うんだけど!姫璃さんは覚えてる?」
「いえ、さすがに最初から全てというのは……」
「だよね。まあそんなものだよね」
「ただ、わたしも波美が怪しいと思います」
『ちょっと!2対1は卑怯じゃない?ズルだよズル!ちょっと前も2人してキノコをバカにするしさ〜。どうなってるの?イジメなの?』
「いやキノコをバカにしてなんて無いでしょ?というか、その話蒸し返さなくてもいいじゃない?また負けるんだし」
『負けてないから!いつ!キノコが!タケノコに!負けたのよ!たまたまあのときはその場にキノコ派があたし1人だっただけで、日本……いや、世界で統計取れば、キノコ派が勝つんだからね!』
「あのお菓子って日本以外でも販売してたんですね。わたしはてっきり日本でしか売ってないのかと思ってましたよ」
『あ、いや、ごめん。あたしもそこまではちょっと分からないというか、ノリで言っちゃったというか……でも、元はといえば、2人があたしを悪者にしようとしたのが悪いんだからね!うん、あたしは、悪く、ない!』
「?そもそもなんでこんな話になったんだっけ?」
「……?えっと……なんだかまた話が脱線……あ!そうですよ、なんで毎回脱線するのかという話をしだしたら、波美がわたしたちが脱線させているんだ、みたいなことをいい出したんですよ。ということは、やっぱり原因は波美なのでは?」
「!そうだよ!やっぱり波美さんが原因だったんだ!」
『……いや確かに!確かにね!?今回は、あたしだったかもだけどさ、それでも全部が全部あたしのせいってことは無いでしょ?無いよね?てか、この話もうやめない?もっと楽しい話しようよ!ね?』
「自分で初めておいてすごいこというよね。いつものことだけど……」
『分かったってば!今回は大変ご迷惑をおかけしました!すみませんでした!心入れ替えて頑張ります!これでいいでしょ?』
「まったく心がこもってないな〜」
「もういいんじゃないですが?わたしも少しだけ波美が可哀想になってきました……」
『うわ~ありがとう姫璃!どこかの悠とは心の広さが違うね!……さて、なんだかこれ以上やってると、なんだかあたしがめっちゃ嫌なやつになりそうだから、やめよっか?』
「もう手遅れなのでは?」
『もぅごめんてば悠〜!だ、大丈夫だよね?悠も心めっちゃ広いもん!あたし知ってるから!ねぇ〜お願い!ゆるして〜』
「……なんて言うんでしたっけ?……ぞ?……ざ?……あ!あざとい!あざといというやつですよね?」
『いや違うから!ていうか、姫璃はちょっと黙ってて!今あたしと悠の友情に些細とはいえ、目に見えない程度とはいえ、傷が付いたからちょっとピンチなの!』
「そこまで小さな傷なら気にしなくても……」
『小さな傷そのままにしたら、後々大きな傷になるんだから、小さいうちになんとかするの!だってあたし、悠と離れたくないし……』
「「え!?」」
『あ!今のナシ……にはしなくていいから……その、許してくれる?』
「……別に、もともと怒ってたわけじゃ無いけどね……。じゃあ話戻そうか?」
『あ、うん!戻そう戻そう!……えっと、この宿の値段の話だったよね?』
「あ、先ほど思い出したんですが、頭の中にある本の名前も考えるっていってませんでしたか?」
「!ついに脱線しまくって2つの話題が犠牲になったか……。今までは1つだけだったのに……」
『ま、まぁ?そういうこともあるって!人間だもの!』
「ではまず、順番で値段の話ですかね?」
『あ、ごめん。聞いといてあれだけど、もうあんまり興味ないかなって』
「「自分で聞いてきたのに!?」」
『や、あれはほら、「今日はいい天気ですね」みたいな感じで、話の導入というかさ。そこから話を膨らませよう!みたいなものじゃん?』
「じゃん!って言われても……。確かに話は膨らんだ結果、盛大に脱線したわけだけどね」
「では、頭の中にある本の名前を考える、ということでいいですか?」
『よし!そうしよう!』
「もうさっき波美さんが言ってたやつでよくない?なんて言ってたっけ?」
『ちょっと、忘れちゃってるじゃん!ほら、あれだよ、あれ。…………姫璃、覚えてる?』
「自分も忘れたんですか?えっと、脳内の本、とかだったのでは?」
『ああ、ああ、そんな感じだったかも!』
「よく覚えてたね、姫璃さん。じゃ、それで決定ってことで」
『な〜ん〜で〜よ〜。それ、自分で言うのもなんだけど、1秒で考えた適当な名前なんだけど……』
「でも、短いし、わかりやすいからいいんじゃない?あ、それなら更に短くして、脳内本で!」
「確かに短いですし、分かりやすくはありますね」
『え、ほんとに?この話もう終わっちゃうの?さっきの値段の話も含めて、脱線してたときより短くない?ほんとにいいの?』
「それはいつものことだし……」
「ですよね……」
『うわ~マジか……』
というわけで、今後は頭の中にある本から、脳内本に変更になりまーす。
「ところでまだ聞いてなかったんだけど、姫璃さんが使った魔法ってなんだったの?というか、姫璃さんは天使様からどんな能力をもらったの?」
『そういえば、チイたちがいたから聞けなかったね。でも、風魔法でしょ?もらった能力って。ってか、それだったら、リアル魔法少女じゃん!!魔法少女姫璃、爆・誕!!!って感じじゃん!!!ウケる!』
「波美、そういう事言うのやめてもらえますか?それと、ウケるってことは、バカにしてると思っていいんでしょうか?」
「まあ、そういうことになるよね」
『いや別に、バカにするわけじゃないけどさ、今姫璃って、高校生なわけででしょ?だったらまだ、少女でいけるじゃん?あたし的には、大学生はアウトだけど、高校生はセーフかなって』
「それは、わたしも思いますけど、ですが、よくは知りませんが魔法少女って小学生から中学生くらいなのでは?」
『まあ大体中学生くらいかな?でもさ、怖くない?ある日、悪の怪人的なのを倒してくれ〜っていわれてさー、なんか、敵を爆発四散させる力をもらうわけじゃん?もしもよ?友だちとケンカしたとか、親とケンカしたとかでさー、理性がプッツンしちゃって魔法少女に変☆身して、その友だちとか親とか攻撃しだしたらどうすんだって話じゃん?ヤバくない?』
「いや、そんなこと考えちゃう波美さんがヤバいだけだから。普通はしないでしょ?」
『中学生くらいになれば、そうかもだけど、小学生はほら、よくかんしゃく起こすって言うじゃん?頭に血が上っちゃってわーってなるじゃん?変☆身じゃん?』
「そのじゃん?ってのやめてくれる?なんだかイラッとする。でもそこはほら、何?あの使い魔?みたいなのが、その人の性格とかを調べてさ、この子なら問題ないってなったら魔法少女に採用!って感じじゃないかな?」
「……魔法少女って、採用不採用があるんですね……。ところで、わたしはよく知らないのですが、魔法少女って、女の子が観るものだと思ってましたけど、悠一君も観てたんですか?」
「え!?えーと……ほら、この令和の時代に男も女も関係ないって!面白いものを純粋に面白いと思える!とても素晴らしいことだと思わない?」
「あ、ええ。そう思います……」
『なんか、勢いで押し切った感があるけどね。それに、異世界で令和って関係無くない?』
「そもそも僕、毎回観てたわけじゃないんだよ?たまたまテレビ点けたらやってて、そのまま何回か観てただけだから!勘違いしないでよね!……とりあえず、それは置いといて、魔法少女の採用不採用はまあ、世界征服を企む悪の組織を倒さないといけないわけだからね。人事の人は責任重大だよ」
『というか、あれって別に使い魔ってわけじゃなくって精霊か妖精じゃなかったっけ?』
「そうなの?じゃあ妖精で」
「根本的に、そもそもなんですが、その妖精さんは、なぜある程度成人している人を選ばないんでしょうか?そういう人のほうが、波美が言っていた問題は解決されるのでは?」
『え〜?……いやほら、大人だと、理性がある代わりにその力を悪用するかもだしさ』
「それは、悠一君が言ったように、性格を調べればいいのでは?」
『うぅぅぅ。悠〜助けて〜!』
「え?う〜んと、あ、大人って仕事してるからさ、忙しいんだよ!だから、ヒマなっていうとあれだけど、子どもなら時間に融通がきくでしょ?」
『そうだよ悠!頭いい!』
「それでしたら、フリーターや、ニートの人に頼めばいいじゃないですか。そうすれば、妖精さんは戦ってくれる人が見つかりますし、フリーターやニートの人は仕事が見つかってうれしいのでは?」
「『仕事?』」
「?待って下さい!そもそもあれって、給料というか、報酬的なものって出るん……ですよね?まさか、無給なんですか?」
「ごめん、僕そこまで詳しくないや。でも、最後まで戦ったらどんな願いでも叶うとかあった気がする。波美さんはなにか知ってる?」
『あたしも詳しいわけじゃないけど、ただ、報酬が出ないものも……あるよね、うん』
「なるほど、そういうことですか!では、その妖精さんが、小中学生しか選ばない理由は明らかですね。報酬が、出ないからです!」
「『うわ~そっか〜。だったらしょうがないね!』」
「とはいえ、それは少し、子どもをナメ過ぎでは?さすがに可愛そうですよ……。どんな願いでも叶うのは素晴らしいですが、それも、子どもが願うことですから、そこまで難しくはないような……」
『でも、得るものがまったくないってわけじゃないんだよ?ほら、年齢的にまだ未熟だからさ、戦いの中で、いろんなことを学んで成長していくわけじゃん?そういうのが、これ以上ないほどの報酬っていうかさ。姫璃もそう思わない?思うでしょ?』
「それはそうかも知れませんが……。しかしですよ?もう1度よく考えて下さい。彼女たちは戦ってるんですよ?ルールがある、プロレスみたいな競技とかではなく、生死をかけて。そこまでしてくれる相手への報酬が『あなたの心の成長です』で本当にいいんですか?というか、成長する前に死んでしまう可能性もあるんですよ?」
「『いや、そうだけど!』」
「町中で無関係な人にもお構いなしに攻撃したりする、とても危ない人たちなんです。どんな卑怯な手を使うかもわかりません。それなのに、次の戦いでも生きて帰れるなんて、どうして思えるでしょうか?」
『なに?もしかして、姫璃って実はほんとに魔法少女やってたの?生きるか死ぬかの戦いしたの?』
「波美曰く、わたしは魔法少女らしいですし、数時間前に経験しましたけど?生きるか死ぬかの戦いを」
『でもあれは、追いかけられたけど、攻撃したのは姫璃だけなんじゃ……』
「それは……そうですけど……。とにかく、妖精さんは、命をかけて戦わせるわけなんですから、ちゃんと報酬を払うべきです!そうすれば、心身ともに成長した大人を雇うこともできますしね!」
「そうだよね!じゃあ悪いのは妖精ってことでいいのかな?」
「ええ、そうですね。やはり、正当な報酬は出されるべきです!」
『(ねぇ悠?姫璃ってなんでこんなにヒートアップしてるの?)』
「(う〜ん、小さいときは、あんなふうではなかったと思うんだけどな……。でも、姫璃さんって、頭いいからさ、きちんと説明できないこととか、されてないことって、嫌なのかもね。理屈っぽいって言うのかな?悪い意味じゃないけど。僕も何となく分かるし)」
『(それは何?悠も頭がいいって言いたいの?あたしだって分かるし!でもさ、それだと、悠、困るんじゃない?)』
「(何が?)」
『(ほら、悠が知ってるマンガやアニメのことを、姫璃に教えてあげるって約束してたじゃん?でも、そういう話とは、なんか相性悪そうだよね?)』
「(……言われてみると、そうかも知れないけど……。それでも、前に姫璃さん言ってたでしょ?僕が好きなものを知りたいって。だから、可能な限りは説明しようと思うんだ。そういうわけだから、波美さんも手伝ってね?)」
『(そりゃまあ?あたしも楽しいからいいけど、どこまで力になれるか分かんないよ?さっきも姫璃、結構鋭いこと言ってくるしさ〜)』
「(でもそこを考えるのも楽しくない?)」
『(うんまあ、そうだけどね?OKOK。あたしもがんばるよ!)』
「(ありがとう!)」
「ところで、何でこんな話になったんでしたっけ?先ほどはあの様に言いましたけど、物語が多少は矛盾するのはしょうがないとは思ってるんですよ?」
『あ、そうなの?ちょっと安心したよ。そもそもの話は……姫璃が魔法少女で……そうだ、姫璃がもらった魔法の話だ!』
「魔法少女ではないですからね!それで、わたし、こういうのって何を選んだらいいかわからなかったので、天使の人に聞いたんですよ。そしたら、せっかく魔法が使える世界に行くんだし、日常生活にも戦闘にも役に立つと言われて、『4属性魔法セット』というものをもらいました」
「『セット?』ああ、でも脳内本にも、魔法って普通は4つの属性を1度に覚えることはないらしいよ?魔法を覚えるには……おお、この世界にもゲームみたいにスクロールってのがあるんだって!」
「あの、すみません。すくろーるってなんですか?」
「えっと、簡単に言えば、巻物だよ。魔法が覚えられる巻物。うん」
「?えっと……それは、使い方を読んで覚える、ということなんでしょうか?あ、違いますね。手に持って覚えようと集中すれば、覚えられるんですか……。覚えるまでの時間は個人差があるようですが。1つの巻物につき1回限りみたいなので、1つでたくさんの人が覚えられるわけではないみたいです」
『なんで分かるの?』
「脳内本があるので……」
『……前から思ってたけど、やっぱりそれズルくない?それか便利すぎだよ!これがゲームなら、それのせいで難易度イージーになってるじゃん!』
「そうなんだよ!便利には違いないし、困ることはないけど、本当に異世界に来てるって気がしないんだよ!さっきの門番さんが持ってた水晶玉もそうだったけど!」
『それもあった!あの門番が「じゃ〜やるよ〜」とか言って、何やるの?って思ったら、ピカって光って「通っていいよ〜」はぁ?どういうこと?って感じ。悠たちも何も聞かないし……』
「ごめん説明してなかった!」
というわけで、波美さんにあの水晶玉のことを説明しました。
『へえ〜そんな事があったんだ〜。なんか無責任なこと言ってもあれだけど、ダークエルフって大変なんだね〜。だって悪いのってその暴君だけで、他のダークエルフ悪くないんでしょ?どっちかって言うと、同じ被害者みたいなもんじゃんね?』
「それはそうですが、今もし、多くの人間が同じように、ダークエルフに悪いことをしたらきっと人間全体が悪者だと思われるでしょうからね。それと同じじゃないでしょうか?」
「『なるほど!』それと、ついでに報告しておくと、この世界ってエルフとダークエルフとドワーフと、僕たちヒューマンしかいないらしいよ?」
『ガーン!!!ウソでしょ……あたし何気に猫耳生えた獣人撫で回すつもりでいたのに……どうしてくれるの?』
「そりゃ僕だって本当に残念だと思ったけど、いないものはいないんだから、しょうがないでしょ?」
「というか波美って幽霊なんですから、そもそも触れないじゃないですか」
『それはそれ、これはこれだよ姫璃!もしも、そこにいれば、なんかすごい能力に目覚めて触れるようになるかもだけど!いないんじゃどうしようもないじゃん!うわ~楽しみにしてたのに〜!!』
「ああ、この世界で能力を覚える方法だけど、スクロール以外に波美さんが言った通り、いきなり目覚めることもあるらしいよ?」
『え?うっそ?マジで!?』
「うん、マジで。なんかね、戦ってて、『もうダメだ、でも、自分はともかく、仲間だけは助けないと……』みたいな展開になったら、目覚めることがあるらしいよ?確率はめちゃくちゃ低いらしいけどね。でも、目覚めると、ちゃんとその場で役に立つ能力が手に入るんだって。マンガやアニメみたいだよね〜」
『へ〜すっごー!なんかテンション上がる〜!でもそれって、戦ってる時だけなの?危機的状況でしかダメなの?』
「いや、とても強い願いや思いがあれば、状況は関係ないみたいだよ。さっきのは例えで言っただけで……それと、なんでもない日に突然、能力に目覚めることもあるんだってさ。その能力は、大半がショボいみたいだから、あまり期待できないけど」
『なら、あたしも物に触りたいってめっちゃ思ってれば触れる能力を覚えられるってことだね!』
「あの、言いにくいんですが、幽霊だと恐らく無理じゃないかと……」
『はぁぁあ???なんで?差別?幽霊だからって差別されるの?意味わかんないんだけど?ねぇ?どういうことなの?ちょっとぉ〜?』
「ですが、幽霊は能力を持てないみたいですよ?あ、魔獣は自身の身に危険が迫ると魔法を使ってくるようなんですが……」
「なにそれ?あたしは魔獣以下ってこと?」
「いえ、魔獣はそれぞれ生まれたときからそれぞれの種類で同じ魔法を持ってるみたいですね。たまに突然変異か何かで、別の魔法を持っている個体もいるみたいですが」
『同じじゃない?魔獣は魔法使える。あたし使えない。あたし、魔獣以下』
「でも波美さんって空中に浮けるし、物をすり抜けることができるんだから、魔法みたいなものでしょ?」
『なるほど!そうかも!』
「まあ、どっちにしても、能力に目覚めるのは本当に一握りの人だけみたいだからね。そうそうないよ」
『あれ?でも、そうなると、この世界の人ってスクロール買って魔法覚えるの?』
「もちろん、それだけじゃなくって、使い方知ってる人から教えてもらうこともできるんだって。ただこれも、人によって相性があったり、どれだけ本気で覚えたいと思ってるのかによって覚えられたり、覚えられなかったりするみたいだよ。それに、姫璃さんが使ったようなすごい魔法は簡単には覚えられないみたいだね。やっぱり」
『あ~だよね!それだったら、悠も姫璃に教えてもらえば、あれ使えるってことになっちゃうもんね。じゃあ、やっぱりマンガみたいに威力が弱いやつから覚えるしかないの?』
「うん、そうなるね。覚えてちゃんと使えるようになるのは、簡単なやつでも結構な努力と時間がいるみたいだし……」
『でも、それじゃあ、色んな人に聞いて回ればいろんな能力を覚えられるってことじゃん!ね?』
「この世界の常識だと、そういうのは家族だけに教えるんだって。親しい友だちにも、そういうことはしないみたい。だから、そういうの目当てで政略結婚もあるみたい」
『能力目当ての政略結婚か……。あたし、そういうなんか、ドロドロしたのって苦手なんだよね〜』
「わたしは、悠一君になら、教えてもいいですよ?」
「本当に?ありがとう!僕もせっかく異世界に来たんだから、魔法使ってみたかったんだ!」
『でも、スクロールあるんだし、それ使えばよくない?
「ちょっと波美!なんてことを言うんですか!」
『いや、ごめんて。でもその方が楽かなって』
「ですが、そのスクロールにはデメリットがあってですね」
『何?どうなるの?』
「値段が高いんだよ。安くても、1本数百万円だって」
『そっか。じゃ、悠は姫璃に教えてもらうといいよ』
「いつでも言って下さいね?」
「うん。そのうちお願いするよ。それに、あれは本当に簡単なものしか覚えられないみたいだよ?水出したり、ライターくらいの火を出したり、それから、そんな能力本当にいるの?っていうものもあるんだって。でもたまに、すごくレアで使える能力が売ってることもあるんだって!なんだかそう聞くと、夢があるよね?ちなみに、僕の降霊術はレア度が高いんだ〜。いいでしょ?」
「まあ、よく考えれば、亡くなった方と話ができるわけなので、希少な能力なんでしょうね」
『あ~言われてみると確かにそうなるのか……あたしもそれのおかげで一緒にいられるんだしね!』
「そんなわけで、大半の人は、親からなにかしらの能力を教えてもらってるんだよ。ただ、こんな世界だから、親がいなくて能力を何も持ってない人もいるみたい──」
と会話をしていると、コンコンコンと、部屋をノックされた。一体誰だろう?ドアを開けるとそこには──。
──宿屋のおじさん、ウッドの話──
新しいお客さんであるユウイチさんとヒメリさんが去ったあと、ロンとチイを連れて応接間に連れてきた。気が重いが話さないわけにもいかないからな。
「さて、落ち着いて聞いてほしいんだが──」
「おいおい、何だよその入り方は?俺は重たい話は嫌いなんだが?」
「ちょっと兄さん!ごめんなさいおじさん。続けて下さい」
「ああ、ありがとう。実は、10日ほど前のことだ。妻のマーガレットがいつものように、その日に使うキノコを森まで取りに行ったきり戻ってこなくてな」
「え?それって……」
「魔獣にやられたようだ……。しばらく前から魔獣の数が増えてるとか、前よりも凶暴になってるとか言われてたのは知っていたんだ。だが、いつも森の奥まで行くわけでもないのは知っていたから、大丈夫だろうと思っていたよ。しかし、こんなことになるなら、自分が代わりに行けば良かったと、何度も公開している……」
「マジでかよ……。その魔獣は?仕留めたのか?」
「いや、妻の遺体だけが、森の入口を少しいったところで見つかっただけだ。遺体はかなり損傷していたが、それが、妻だと、すぐに、分かったよ。うぅぅぅ。いかん、涙が……」
2人の前で泣くつもりはなかったが、勝手に涙が流れてきてしまう……。
「うわぁ~おじさん!もういいから!事情は分かったからちょっと休も?ね?兄さんもなにか言ってあげてよ!」
「あんたは血も涙もない人間だろ!だから泣くなよ。な?」
「兄さんは黙ってて!」
落ち着いて聞けといっておいて、自分が取り乱すとは、恥ずかしいことをしてしまった。だが、チイのおかげで涙は止まった。とりあえず、後でロンは殴ろう、と心に誓う。
「すまない、2人とも。まあ、そういうことがあったんだ。すぐには受け入れられないだろうが……」
「うん、そうだね……。私たちもたくさんお世話になったもんね……。そっか……もう会えないのか……」
「俺も、もうあの飯が食えないのかと思うとキツイな……。怒らせると怖いけど、それでも優しい人だったな……」
「ところで、おじさんも心配だけど、ジャスミンは?まだ見てないけど、落ち込んでるよね?」
「そうだな。落ち込んでいるよ。できれば、ゆっくりと心の傷を癒してほしいと思っているんだが……今はそれでも、体を動かしていたほうがいいと言って、料理を作ったり掃除をしたりしてくれている。あの子も、心配かけないようにいつも通りに振る舞ってくれるが、夜、すすり泣く声が聞こえるんだ。どうしたものか……」
娘のジャスミンは14歳だ。あんな事があった後もこの宿を手伝ってくれる、とても優しい自慢の娘だが、どう声をかければいいか分からない。これでは親失格だ……。
「俺も、どうすればいいかわからんが……この前みたいに外へ連れ出せば少しはマシになるかもしれん。明日にでも、村を回ってみるか」
「兄さんにしてはいい考えだね!そういえば、ユウイチとヒメリもついでに案内してあげよっか。どこに、どんな店があるか知らないだろうしさ。それに、こういうときは人数が多いほうがいいよね?あ、魔獣の爪をもらった上に、付き合わせちゃうわけだし、昼過ぎから出かけて、あの時のお礼も兼ねて、5人で夜に食事でもしようが?おじさん、いいかな?」
「ふむ……夕飯時になって店が込み始めるまでなら問題ない。よろしく頼むよ2人とも。悪いな?」
「このくらい構わないぜ?じゃあ、ユウイチたちにも話とかないとな!今は部屋にいるよな?」
「そうじゃない?頼みに行く?」
「ああ、それなら、こちらから頼んでおくよ。娘が世話になるわけだしな。気を遣わせるのも悪いし、妻が亡くなったことは伏せて、そうだな、ちょっと娘が元気がないってことにしてお願いしてみるよ」
「うん。そうだね。じゃあ私たちも口裏合わせとくよ。問題は兄さんだね。うっかり喋っちゃいそうで怖いから」
「……もし喋っちまったら、フォローしてくれ」
「了解」
「内緒というわけではないから、話してしまってもいいんだが、できるだけ気をつけてくれよ、ロン」
「わかってるよ。ただ、こういうのは苦手なだけだ」
「ところで、その、こんなことを聞くのもそれこそ悪い気がするが、その2人はどんな人なんだ?大丈夫なのか?娘におかしなことはしないだろうな?」
「おっさんは相変わらずの親バカか?悪い奴らじゃねえって!なあ?」
「そうそう。さっきちらっと言ったけど、魔獣の爪をもらったんだ〜」
「まあ、どんなやつかって聞かれても困るが、2人は幼馴染で、旅をしてると言ってたな」
「うん。それから、ヒメリの方はすごい魔法が使えてね?ブラックウルフを1発で倒しちゃったんだよ!すごいでしょ?」
「ただ、魔獣を解体するのは苦手だっていうから、俺たちでやって、その代わりに爪を半分もらったんだ。いい奴らだろ?」
「それは確かに気前がいいな。それにしても、そうか、ヒメリさんはそんなすごい魔法を……。じゃあ、ユウイチさんはどうなんだ?」
「そういえば聞いてなかったね、兄さん?ヒメリのインパクトがすごくて……」
「でもよ、ヒメリが攻撃したってことは、あいつは特別何も持ってたいんじゃないか?」
「どうだろうね?まあ、簡単な魔法とかは使えるだろうけど、武器も持ってなかったしね?でも、なにか補助的な能力かもよ?バリア張ったり、魔法の力を高めるとか……って、それであんなにヒメリの魔法すごかったんじゃない?」
「ああ、なるほどな!そうかもしれんな!」
「いやでも、それならヒメリが言いそうな気もするんだよね……自分だけの力じゃないって。なんとなく、控えめな性格みたいだし。秘密にしてるだけかもしれないけど、あの子にすごいって言うと、普通に照れてたし……」
「じゃあユウイチは特に何も持って無いから雑務担当で、ヒメリは何かあったときの戦闘担当ってことか。そう思うと、男として少しユウイチに同情しちまうな。女の前でカッコいいところを見せたいだろうに……」
「それには同意する」
「私にはよく分からないけど、まあいいや……」
そんな話をしばらくして、2人は出ていった。久しぶりに酒を飲むらしい。ちなみにうちの宿は、娘が酔っぱらいに絡まれたりしては困るから、酒は出していない。よく、親バカと言われるが、せめてもう少し大きくなってからだな。
台所を覗くと、ジャスミンが料理を作っている。やはり、元気がないように見える。それは当然ではあるが、やはり、親としては辛いものがある。明日の外出で、ほんの少しでも、元気を取り戻してくれるといいんだか……。
そんな事を考えながら、ユウイチさんたちの部屋へと向かう。すると、はっきりとは聞こえないが、話し声が聞こえてくる。うちの宿ではいつもとことだか
「──、僕の降霊術──んだ〜。──」
「──亡くな──話ができるわけなので、希少な能力──」
……?僕の降霊術?ユウイチさんの声のようだが……。まさか、彼は降霊術を使えるのか?ロンとチイは、彼が特別な能力は持っていないのではないかと言っていたが……。本当に?
いや待て。そんなに都合がいいわけないじゃないか。下手に希望を持つべきではないだろう。何かの間違いだったりすれば、希望を持った分だけ辛くなる。
それに、降霊術という能力は聞いたことはあるが、それはあくまで物語で、ということだ。もちろん、見たことはない。それに、他の人が見たと言うことも聞かない。そんな能力があるかも分からない。
しかし、万が一、亡くなった人と話ができるとすれば、ジャスミンを……。
今すぐドアを開けて、問い詰めたい気持ちをなんとか理性で押さえつける。失礼なマネはできない。お客様なのはもちろん、これから願いを叶えてもらうかもしれないからだ。
自分にそう言い聞かせて、ゆっくりとドアを、ノックした。そして、ドアが開かれる。
どちらにしても、明日の今頃は、ジャスミンが笑っていられるように、祈った⋯⋯。
皆さん!ついに、村に到着しました!僕は、やり遂げたんです!
というわけで、村に到着。思ってた以上に時間がかかりました。文字にするって、大変なんですね。作家さんの大変さの片鱗を見ましたよ。世の作家さんたちに、敬礼∠(`・ω・´)
ところで、今回は1つだけ想定外のことがあったんですよ。ほら、最後に宿屋のおじさん視点があったじゃないですか。あれは物語の中の時間で翌日に入れようと思ってたんですよ。本当は。
で、そうなると、前段階で主人公の能力の話をしている→それをおじさんが聞く、という流れにしようと思ってたんですが、雑談してたら出てきちゃったので、書き直すのも、それより前の話の辻褄合わせるのが割と大変だし、面倒だしで、前倒ししました。まあ、こんなこともありますよね?
次回は、ジャスミンママが出てくるところまで……は無理かなぁ?と思っているので、多分出てこないですね。夜にロンたちと外出……まで、行ければいいなぁ……と思っている今日この頃です。それではまた!




