表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスごと異世界召喚されたボッチのオタクとヤンキー女子、パーティ編成でクラスメイトにハブられて2人だけで異世界を生き残る  作者: ミコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/28

元クラスメイトとの再会

宿に戻ると、女将さんが「おや、おかえり。お湯と手拭い持っていきな」と声をかけてくれた。冒険者仕様の宿屋らしく、風呂はないが体を拭くくらいの気遣いはあるらしい。俺は「あ、ありがとうございます」と吃りながら、湯気の立つバケツを二つ受け取った。熱い湯の重みが、泥だらけの一日を少しだけ癒やしてくれるようだった。


部屋に入ると、俺はもう我慢できなかった。「やった! 体拭けるだけで気持ちいいよね!」ラノベの異世界なら銭湯か温泉イベントがありそうなものだが、現実はバケツのお湯だ。それでも十分だ。俺は早速、革の胸当てを外し、シャツを脱ごうとした。


「待てコラ!」


怒声と共に、俺の手が止まった。振り返ると、市橋さんが仁王立ちで俺を睨んでいた。


「お前は後だ! 私が先に拭くから出て行け!」


「ええー! お湯冷めちゃうよ! 交互に入ればいいじゃん!」


「うるさい! 男女同室でどう拭く気だ! 出て行けと言ったら出て行け!」


物騒な光を放つ彼女の瞳に、俺は一瞬で屈した。「す、すみません…」俺はしぶしぶ廊下に退避した。ドアの向こうから、ジャボジャボとお湯の音が聞こえる。想像してしまう。濡れた手拭いで肌を拭く白い肌。湯気に包まれた同級生の肢体。鼻の下を伸ばしてニヤついていると、ドアが勢いよく開いた。


「もういいぞ」


入ってみると、市橋さんは既に着替えていて、粗末な木の椅子に座っていた。桶のお湯は少しだけ濁り、温度も少し下がっていた。内心「残念」と呟きつつ、俺は冷めかけたお湯で体を拭いた。それでも、泥と汗が落ちていく感覚は天国だった。


さあ、寝ようか。俺は迷わずベッドに潛り込んだ。


「おい、オタク。お前床な」


市橋さんが冷たく告げた。


「嫌だ!」俺は初めて彼女に反逆した。「もうネズミがいる床で寝るのは嫌だ! 今日はベッドで寝る!」


「はぁ? お前な、私に抱きついてきたの忘れたわけじゃないだろうな!」


彼女はベッドの縁を掴み、威嚇するように身を乗り出した。昨日の朝の惨劇(おっぱい密着からのビンタ)を思い出し、俺は一瞬たじろいだ。だが、引くわけにはいかない。命がかかっているのだ。


「だったら市橋さんが床でネズミと寝てよ! 俺は絶対ベッドだ!」


俺たちの視線が空中で激突した。数秒の沈黙。彼女は「チッ」と大きく舌打ちをした。


「…半分だ。こっち側に来たら殴るからな」


「分かった! 絶対越境しない!」


こうして、俺は戦線突破ならぬ、ベッド半分の居住権を勝ち取った。俺たちは背中合わせに丸まるようにして横たわった。布越しに伝わる彼女の体温と、微かな香り。ドキドキしたが、極度の疲労がすぐに意識を泥の底へと引きずり込んだ。


次の朝の記憶は、いつも衝撃から始まる。


ドガッ!


「はよ、起きろ変態」


頬に走る鈍痛と共に、俺は目を覚ました。意識がハッキリする前に、感触があった。柔らかい。温かい。そして弾力がある。俺の顔は、市橋さんの胸に埋まっていた。寝ている間に越境し、しかも完璧なポジションで抱きついていたらしい。


「あっ、柔らかい…」


「は、や、く、は、な、れ、ろ!」


彼女の声が震えている。俺は本能的な危険を感じ、慌てて身体を離した。飛んでくる平手打ちをギリギリで受け止めることはできず、俺の頬は再び赤く腫れ上がった。暴力で起こされる朝。これが定着しそうだ。


俺たちはギルドには寄らず、城壁へ向かった。早朝から行動するのが、生き残るための鉄則だ。だが、城壁に着くと、そこには見覚えのある集団がいた。三十人ほどの集団。元クラスメイトたちだ。


一目で分かった。彼らの装備は、俺たちの革の胸当てとは別格だった。鎖帷子に金属の小手、見事な装飾の入った剣。間違いなく、城から支給されたものだ。


「お? オタクじゃないか。生きてたんだな」


声をかけてきたのは、クラスの中心人物だった男だ。俺がアビリティサイトを起動すると、『剣術LV3』の文字が見えた。俺たちより強い。彼はニヤニヤしながら近寄ってきた。


「俺たち期待されてるからな。こんないい装備貰ったぜ。すげーだろ?」


自慢話が始まった。俺は下を向いたまま、心の中で毒づいた。『どうせお前も使い捨てのコマだよ』。これだけの召喚者がいて、生き残ったという話を聞かない。LV3くらいじゃ、この世界の魔物の前では蟻みたいなものだ。彼らは自分が家畜ではなく、寵愛されていると勘違いしている。


男は俺の反応がないのを見ると、興味を失ったように視線を市橋さんに移した。


「お前、顔はキレイだよな。俺好みの性格になるって言うなら、俺が飼ってやるぞ。その方が生き残れるだろ?」


下卑た笑いが周囲から漏れた。市橋さんのこめかみがピクリと痙攣した。今にも剣の柄に手をかねばならない勢いだ。


「誰が! お前なんかに!」


彼女が爆発する前に、俺は動いた。俺は市橋さんの手を掴み、その場から引っ張った。


「行こう」


俺たちはクラスメイトたちの嘲笑を背に、城壁の門をくぐった。三十人でスライムを狩ったところで、魔石の分配なんて雀の涙だ。城から貰った金が尽きれば、あいつらは終わりだ。群れれば安心という幻想にしがみつく平和ボケした連中とは、早く縁を切るのが正解だった。


スライムの野原に着いて、俺はふと自分の手を見た。市橋さんの手を握ったままだ。


「あ、お前…そろそろ手を離してくれよ」


市橋さんの声は小さく、顔は真っ赤だった。


「あっ! ご、ごめん!」


俺は感電したみたいに手を離した。ずっと握ったままだった。手のひらに残る汗の感触と、彼女の体温が残念なような、恥ずかしいような。


「さ、さあ! スライムから異空間集めましょう!」


俺は誤魔化すように大声で言い、アビリティサイトを発動させた。


市橋さんは少しだけ黙っていたが、やがてスライムの方へ歩き出した。背中越しに、聞こえるか聞こえないかくらいの声が届いた。


「…ありがとな」


俺は胸がいっぱいになった。デレた。今度こそ、完全にデレた。俺はニヤつくのを必死で堪え、スライムの群れへと走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ