静香と電話
しばらくは平和な日々が続いた。
異世界での生活も落ち着いてきて、俺はふと日本の娯楽が恋しくなった。まずはゲームだ。モニターとゲーム機を日本から持ってきていたから、屋敷で起動してみた。しかし、ネットがつながっていないからオンライン対戦はできない。オフラインのRPGをやってみたが、いざ自分が最強の力を持ってしまうと、ゲーム内のレベル上げが作業にしか感じられず、すぐに飽きてしまった。
「なんだよ、現実で無双できるのに、画面の中でチマチマ敵を倒しても面白くないな」
俺はゲームのコントローラーを放り出した。
そこで次の作戦だ。沙希をアニメ沼にはめてやろうと思い立った。日本に帰った際、DVDボックスを買ってきて屋敷のリビングで流してみたのだ。
選んだのは、ゲームから抜け出せなくなった某二刀流のハーレム野郎のアニメだ。この世界に順応して戦いに慣れてしまった沙希に1番マッチしたアニメだ、実際このアニメからハマる人も多いし、これが大正解だった。
「なあ拓也、これ何だ? 」
沙希が目を丸くしてモニターに釘付けになっている。
「アニメだよ。騙されたと思って見てみてよ」
「 あいつ二刀流で戦ってるぞ! かっけえな!」
沙希は食い入るように画面を見つめている。メリッサたちも仕事の手を休めて、後ろから覗き込んでいた。
「旦那様、あの黒い服の男の人、強いですね」
「でもあの栗色の髪の女の子も負けてないですよ!」
「二人とも仲良さそうですね…」
ゲームっていう概念がない彼女たちにも、アニメの面白さは伝わったようだ。沙希はすっかりアニメにハマってしまい、毎日DVDを見るのが日課になってしまった。
「沙希、あんまり見すぎると目が悪くなるぞ」
「あと1話だけ見る」
そう言って結局3話くらい見続けている。あの調子だと、沙希が二刀流をやり出すのも時間の問題かもしれない。実際、昼休みに沙希が木の枝を二本拾って、振り回しているのを見かけた時は肝を冷やした。
「おい沙希、何してるんだ?」
「ん? ちょっと剣の練習。あのアニメの影響だけど、二刀流ってのも悪くねえな」
「二刀流はいいけど、全身黒づくめはやめてくれよ」
からかいながらも、沙希の笑顔が増えたのは嬉しい。次は同じゲーム繋がりで、某ガイコツの魔法使いのアニメを見せてみようかな。魔法使いへの憧れが強い静香にも見せたかったが、彼女は今日本にいる。
日本と異世界を行き来する充実した生活。俺たちは異世界で冒険者をしつつ、日本では普通の生活を送っている。もちろん、俺たちが行方不明になっていることは日本では大きな騒ぎになっているらしい。
ある日、母さんに頼んで静香の電話番号を調べてもらった。そして夜、静香に電話をかけてみた。
『もしもし?』
「あ、静香? 俺だ、拓也」
『拓也くん!? 本当に拓也くん? どうして番号を?』
「母さんに調べてもらったんだ。元気にしてたか?」
『うん! 元気だよ。拓也くんこそ、あっちで元気だった?』
「ああ、俺も沙希も元気だよ。向こうでの生活にも慣れてきたしな」
静香の声を聞くと、なんだかホッとする。彼女も俺と同じ世界を見てきた人間だ。
『ねえ、みんな日本に帰ってきてから大変だったんだよ。行方不明になって、記憶喪失になって帰ってきた事件って全国ニュースになったらしいよ』
「マジか? 記憶喪失か…。まあ、そういうことにしておくのが一番なんだろうな」
『うん。でもね、たまに記憶が戻る人がいるみたい、夢の話として話すこともあるんだって』
「へえ、そうなんだ。静香は記憶喪失のフリだろ」
『…うん。私はきつかったよ、覚えてるのに知らないフリをして。けど拓也くんとのことは、夢じゃないから』
その言葉に、俺の胸が熱くなった。
「静香…」
『ふふ、大丈夫だよ。私は日本でちゃんと生きてるから。でもね、たまにすごく会いたくなるの。拓也くんと、沙希さんに』
「俺たちもだよ。静香に会いたいって思ってた。だから電話したんだ」
『ありがとう。嬉しい…。ねえ、また会える?』
「ああ。転移があるからいつでも行けるよ。今度異世界に来るか?」
『行きたい! でも、ゆっくりしたいから、夏休みとかかな』
「そうだな、それまで頑張れよ。夏休みになったら連絡くれ。迎えに行くから」
『うん! 約束だよ!』
「誰と話してたんだ?」
沙希がリビングに入ってきた。手にはお菓子の入った皿を持っている。
「静香だよ。元気にしてた」
「ああ、静香か」
「夏休みになったら異世界に来るってさ」
「そうか。そしたらまた賑やかになりそうだな」
沙希が俺の隣に座り、お菓子を口にする。
俺は沙希の肩を抱き寄せた。温かい。この居場所が俺たちの家だ。
二人で笑い合う。異世界と日本、二つの世界を行き来する生活。それは決して普通ではないけれど、俺たちにはこれが日常だ。沙希がいて、仲間がいて、家族がいる。それだけで十分だ。
「さて、そろそろ寝るか」
「そうだな。明日も早いしな」
「明日はどこ行く?」
「森の探索の続きかな。それとグランツ王国の様子も見てこようか」
「楽しみだな」
マサヒロさんはどうなっただろうか、あの人は恨みを買いすぎた、力を持ったからと言ってやりすぎたんだ
俺はあの人みたいにはならない




