マサヒロの最後
俺と沙希はグランツ王国の街中に転移した。人目のない路地裏に着地し、早速冒険者ギルドを探す。
「なあ沙希。前なら人に道聞くなんて出来なかったよな、成長したもんだなと思ってさ」
「…うんうん。確かに成長したな、お前」
沙希がニヤリと笑って俺の背中をバンと叩いた。痛いけど、悪くない。
人に聞きながらギルドを探すこと数分。やっと見つけた。看板が出ている。
「ここか」
「みたいだな。入ろう」
ギルドの中に入り、受付に近づく。
「すみません。グレッグはいますか?」
「グレッグさんですね? もうすぐ来ると思います。少々お待ちください」
「ありがとうございます」
俺と沙希は壁際のベンチに座って待った。数分後、ドアが開いて見慣れた顔が入ってきた。グレッグだ。後ろにガルド、セリア、シーマ、リムレもいる。
「あグレッグ!」
俺が手を上げるとグレッグが目を丸くした。
「タクヤ! サキ! よく来てくれたな!」
「久しぶり。元気だったか?」
「お前のおかげでな! あの傷も完治したよ」
グレッグが俺たちのテーブルに来て、パーティの皆も一緒に座った。
「少し話せるか?」
「ああ、いいぞ。何かあったのか?」
「場所変えよう。近くの食堂に行かないか?」
「いいな。案内するよ」
グレッグのパーティと俺と沙希。7人で食堂の大きなテーブルに着いた。
「で、何の用だ?」
グレッグが水を飲みながら聞く。
「戦争の話は聞いてるか?」
「戦争? なんか兵士たちが森の中に入っていったな。あれか?」
「ああ。マサヒロ王がヴァルディス王国と戦争する気なんだ」
「は? ヴァルディスってあの滅んだ王国か?」
「滅んでないよ。俺たちがそこから来たって言っただろ」
「ああ、そうだったな。で、そのヴァルディスと戦争?」
ガルドが腕を組みながら口を挟む。
「冒険者は国家とは関係ないからな。気に入らなかったら街を出ればいいだけだし」
「それはそうだけどさ」
「タクヤ、お前はマサヒロ王の評判を聞きたいんじゃないのか?」
グレッグが鋭いことを言う。さすがだ。
「ああ。マサヒロ王の評判を聞かせてくれ」
「評判か…」
セリアが少し声を落として話し始めた。
「いい噂は聞かないですね」
「どういうこと?」
「10年前くらいに王女と結婚して王になった後、みんなに慕われていた前王を処刑したって言われてます」
「処刑!?」
「はい。しかも国民に愛されていた王女をみんなの前で辱めたとか…」
俺は眉をひそめた。それは酷い。
シーマが続ける。
「国民のゴロツキを集めて兵士にして、街の治安が悪くなったって聞きました」
「ゴロツキを兵士に?」
「はい。まともな兵士はどんどん辞めていくか、消されていくかで…」
リムレが小声で言う。
「昔からいる兵士たちは王女を守るために城にいるけど、マサヒロ王の機嫌一つでいきなり斬られたりするみたいです」
「機嫌一つで斬るって…」
俺は深いため息をついた。
「ありがとう。参考になった」
「いや助かったのはこっちだ。何か力になれることがあったら言ってくれ」
グレッグが真剣な顔で言う。
「ありがとう。また来るよ」
俺たちは食堂を出て、路地裏に戻った。
「沙希どう思う?」
「拓也。お前はまだ知らないだろう」
「何を?」
「人には生まれながらの悪人ってのがいるんだ」
沙希の目が真剣だ。
「人の迷惑になることが大好き。誰かが嫌がることをするのが当たり前って思う奴ら。マサヒロはそのタイプだ」
「でも無理矢理こっちに連れてこられて必死に生きてきただけかもしれないし…」
「拓也」
沙希が俺の手を握った。
「お前はそのままでいてくれ。私が悪意から守るから」
「沙希…」
「お前の優しいところ好きだけど、悪人を悪人じゃないって思い込むのは危険だぞ」
「…わかったよ。でもまずは話してみる。それがダメなら考える」
「それでいい。私がついてる」
俺は沙希の手を握り返した。
「よし。森を進軍中のマサヒロを探すぞ」
俺は転移を発動させた。木の上を転移しながら広範囲を索敵する。森の中に大量の反応がある。兵士たちだろう。
「見つけた。転移で近くまで飛ぶぞ」
俺は沙希を抱きしめて転移を発動した。
森の中に現れた。目の前にはマサヒロの軍勢が進軍している。先頭に馬に乗ったマサヒロがいる。目の前に現れた俺たちを見て兵士たちが驚きの声を上げた。
「マサヒロさん、話がある」
「タクヤじゃねえか! どうしたんだ? 今のはお前のスキルか?」
マサヒロが目を丸くして叫んでくる。
「俺のスキル、転移です。マサヒロさん、戦争なんかやめて下さい。大勢が死ぬことになるんですよ」
俺は必死に訴えた。同郷の日本人として、話が通じると信じたかった。
しかしマサヒロは鼻で笑った。
「そのスキルで不意打ちするのがお前の得意技だな。俺はヴァルディスの王に恨みを晴らさないといけないんだ。タクヤ、邪魔するな」
「王が1人でマサヒロさんに会うって言っている。どうにかそれで収めてくれませんか?」
俺はアルベル王の覚悟を伝えた。王が責任を取るつもりであることを。
だがマサヒロは首を横に振った。
「ダメだ。これは俺の暇つぶしだからな。兵士どうしが戦って死んでいくのを見るのが楽しいんだ」
その言葉に、俺の背筋が凍った。
「暇つぶしで、人を殺し合わせるって言うのか?」
俺の声が震える。
マサヒロはまるでゲームの話でもするかのように軽く言った。
「そうだ。お前もゲームとかしてただろ? NPCなんか何したっていいんだよ! コイツらはNPCなんだ!」
「違う!」俺は叫んだ。「この人たちだって生きているんだ。何したっていいなんて、あるわけないだろ!」
マサヒロの顔が歪んだ。
「お前、手下にしてやろうと思ってたけど、もういい! 死ね!」
マサヒロが剣を抜いて襲ってきた。速い。さすが剣術LV4だ。
だが、沙希が動いた。俺の前に立ち、マサヒロの剣を難なく受け止める。
金属がぶつかり合う激しい音が森に響き渡った。
「まさか、お前もLV4か!」
マサヒロが驚愕の声を上げながら沙希に襲いかかる。沙希は冷静に全ての攻撃を弾き返している。
俺は一瞬だけ悩んだ。スキルを奪うことは簡単だ。でもそれは、彼から全てを奪うことを意味する。
でも、このままでは誰かが死ぬ。沙希が危険だ。
俺は決断した。
「ギフトテイカー!」
俺はマサヒロに手をかざした。剣術LV4、索敵LV3。全てのスキルを強制的に引き剥がす。
ズルリという感覚と共に、マサヒロの力が俺の中に流れ込んできた。
「沙希、もういいよ。コイツのスキルは奪った。帰ろう」
沙希が剣を収め、俺の横に戻ってくる。
俺は膝から崩れ落ちそうになったマサヒロを見下ろした。
「マサヒロさん、最後に一つ聞くよ。日本に連れて帰れるけど、どうする?」
マサヒロはハァハァと荒い息を吐きながら、狂気じみた笑みを浮かべた。
「俺は王だ! 日本に帰って俺の力で日本を支配するのもいいな!」
まだ気づいていない。自分がただの人間になったことに。
俺は周りの兵士たちに向かって言った。
「 コイツはもうスキルを失っている。ただの人間だ。もう命令を聞かなくてもいいぞ」
兵士たちの目が変わった。恐怖から、憎悪へ。今まで抑えつけられていた怒りが一気に吹き出す。
兵士たちがマサヒロを取り囲んでいく。マサヒロは剣を振り回すが、以前のようなキレはない。ただの暴力だ。
俺は沙希を抱きしめてヴァルディスに帰った。後は彼らの問題だ
俺は沙希の腰を抱き、屋敷のエントランスをイメージして転移を発動した。
一瞬にして、静かな屋敷に戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさいませ旦那様奥方様」
メリッサが駆け寄ってくる。
「どうでしたか?」
「戦争は止まったよ。たぶんね」
俺はすぐにアルベル王に報告しなければならない。再び転移で城へ飛んだ。
「アルベル王! 報告に来ました」
玉座の間に現れた俺たちを見て、アルベル王が立ち上がった。
「拓也殿! どうだった?」
「マサヒロのスキルを奪いました。彼はもうただの人間です。戦争は中止されるでしょう」
「スキルを奪ったと? それは……」
「はい。彼は暇つぶしに戦争をしようとしていただけでした、話し合いは成立しませんでした」
アルベル王は深く息を吐き、玉座に座り直した。
「そうか…。それが最善だったのだな。ご苦労だった拓也殿」
俺は城を後にした。
屋敷に戻ると、沙希がソファでくつろいでいた。
「終わったな」
「ああ。終わったよ」
俺は沙希の隣に座り、肩を抱いた。
「沙希、守ってくれてありがとう」
「当たり前だろ。夫婦なんだから」
「これからもよろしくな」
「おうよ」
俺は沙希の髪を撫でながら、窓の外を見た。平和な屋敷の風景。これからはここで沙希と静かに暮らしていきたい。




