マサヒロ王との謁見
「よし、発電機もセットしたし、これで家電が使えるぞ」
屋敷の中庭に置いた発電機を起動すると、ボロロロロロという低い音が響き始めた。異世界の静かな夜に、機械音が響くのは何だかシュールだ。
「結構うるさいな。何かで防音しないとな」
「でもこれでドライヤーが使えるんですね?」リーリアが目を輝かせている。
「ああ、ほら、これがドライヤーだ。ボタンを押すと温かい風が出る」
俺はドライヤーを取り出してリーリアに渡した。彼女はスイッチを入れて、熱風が出てくると驚いたように目を丸くした。
「すごい!この風で髪が乾くんですか?魔法みたいですね」
「便利だろ? これで沙希が言ってた髪のお手入れができるようになるぞ」
メリッサとマリーナも交代でドライヤーを使い始めた。サラサラの髪が温かい風に当たってさらに艶やかになっていく。俺はその様子を、思わず鼻の下を伸ばしてチラチラと見ていた。
「このムッツリ!」
ドガッ! 沙希の拳が俺の脇腹にめり込んだ。
「いってえ! 何するんだよ!」
「お前がニヤニヤしてるからだろ! 変態!」
「見てただけだよ! 髪がキレイになったなと思って!」
「嘘つけ。お前の目は明らかに胸を見てたぞ」
「…いや、それは気のせいだ」
「言い訳すんな」
翌日、俺と沙希は王城に向かった。アルベル王から親書を渡されている。
「拓也殿、頼んだぞ。この親書をグランツ王国のマサヒロ王に届けてほしい」
「はい。わかりました」
「マサヒロがどういうつもりで動いているのか、見てきてくれ。話が通じるならいいがな…」
「大丈夫です。親書を渡して返事をもらってきますよ」
「拓也殿…気をつけるんだぞ。あやつは剣術LV4だ。もしお前たちに敵意を持っていれば…」
「その時はスキルを奪ってやりますよ」
王は少し驚いた顔をしてから、苦笑いした。「そうだったな。拓也殿にはそれがあるんだった」
俺と沙希は転移で森の入り口まで飛んだ。そこからは歩きだ。
「いよいよマサヒロ王と対面だな」
「ああ。どんな奴なんだろうな」
「日本人なら話が通じるだろうけどさ」
「それと、力を持って逃げた奴だろ。それがこっちじゃ王様だもんな」
「逃げた事は仕方ないと思うけど、性格曲がってなきゃいいけどな」
「イヤな予感がするんだよな」
「お前ネガティブすぎるだろ」
俺たちは森を抜けて、グランツ王国の城壁が見える場所まで来た。城門には数人の衛兵が立っている。
「通してくれ。俺たちはヴァルディス王国から来た。マサヒロ王への親書を預かっている」
衛兵は俺の顔を見て、沙希の顔を見て、そして笑い出した。
「ヴァルディス王国? あの滅んだ国か?」
「滅んでないよ、まだあるんだ!」
「ははは! いい度胸だな。不審な奴らだ、中に来い」
「は? 俺たちは使者だぞ」
「知るか。俺の判断で中に入ってもらう」
衛兵に背中を押され、俺たちは兵舎の中に連れて行かれた。中には数人の兵士がたむろしていた。酒を飲んでいる奴もいる。
「おい、見ろよ。女連れだぞ」
「へえ、どこのド田舎から来たんだ?」
「ヴァルディス王国だってさ」
「あははは! まだそんな嘘ついてる奴がいたのか?」
「身体検査しなくちゃな!」
一人の兵士が沙希に手を伸ばした。
「俺たちが他国の使者だと言っているのに、こういう扱いをするのか?」
「ヴァルディス王国なんてもう無いんだよ!」
兵士たちがまた笑い出す。俺の怒りがジワジワと湧き上がってきた。沙希が俺の袖を引く。彼女の手が微かに震えているのが分かった。怒りだ。俺の分かる範囲で、沙希が一番嫌いなタイプの人間だ。
「おい。俺たちの名前は、タクヤとサキだ。マサヒロ王に伝えろ」
「はあ? マサヒロ王にお前たちみたいな奴が会えるわけないだろ」
「それすらしないなら、お前たちどうなっても知らないぞ」
兵士たちが一瞬だけ黙った。俺の目が本気だと悟ったようだ。一人が相談してから立ち上がった。
「…俺が帰ってくるまで脱がすの待っててくれよ」
「本気で沙希を脱がすつもりかコイツら…」
「チッ。拓也、もう我慢できないんだが」
「待て沙希。もう少しだけ待て」
兵士が走っていった。沙希は剣の柄に手をかけている。その目が冷たい。このまま全員の首を飛ばしかねない雰囲気だ。
「沙希、殺しちゃダメだ。あくまで使者だからな」
「…わかってるよ」
「マサヒロと話ができるなら、話す方がいい。俺たちの目的は親書を渡すことだ
しばらくして、走っていった兵士が息を切らして戻ってきた。
「マサヒロ王が、至急連れて来いとおっしゃっている!」
「やっと通じたか」
「おい、お前たち、失礼があったら斬るぞ」
「お前らがしておいて何を言ってるんだ」
兵士たちに囲まれて城へ向かった。城門を抜け、長い石の廊下を歩いていく。随分と立派な城だ。アルベル王の城よりも大きいかもしれない。
「拓也、どうする? もしマサヒロもコイツらと同類だったら」
「その時はスキルを全部奪ってやるよ。でも日本人なら、話が通じることを信じたい」
「甘いな」
玉座の間の扉が開いた、広い空間の奥に玉座がある、そこに一人の男が座っていた。
黒髪の短髪、鋭い目つき。日本人的な顔立ちだ、年は20代半ばくらいだろうか。
体型はかなり腹が出ている、これで剣が振れるのか心配になるくらいだ。




