買い物
次の日、俺たちは帽子をかぶり、変装してから家を出た。
俺はみんなと一緒に帰ってきたことにすればいいが、沙希はバレたら連れ戻される。それだけは絶対に避けなければいけない。
沙希にはサングラスとマスクを渡し、髪型も昨日変えたばかりだから、まさか彼女だとは気づかれないだろう。
それにしても、異世界メイド3人の美しさが目立っている。こんな美人が3人も並んで歩いていたら、どうしても視線を集めてしまう。変装の意味があるのか心配になるレベルだ。
タクシー2台に分かれて、郊外の大型ショッピングモールに向かった。
今回の旅行の主目的は発電機だ。でも、それと同じくらいメリッサたちに日本を楽しんでもらいたい。彼女たちはあっちの世界でずっと屋敷で働いてくれていたからな。
「ここがショッピングモールですか…すごく大きい城ですね」マリーナが感動したように呟いた。
モールに入ると、早速服屋に入った。母さんと沙希が、あれこれと服を持ってきてメリッサたちに着せていく。3人とも文句なく美人だから、何を着ても似合う。
「本当に3人とも綺麗だよな。よくヴァンパイアロードに狙われなかったな」
俺がぼんやり考えていると、ふと思い当たった。多分、城で隠されていたんだろう。
そして、その精鋭が俺の元に送られてきた。これはやはり、俺の懐柔か、監視か。でも、今の彼女たちは純粋に俺たちの仲間だ。それでいい。
服を選び終わり、女性陣は下着売り場へ向かった。俺も同行するが、さすがに中にまで入る勇気はない。
「拓也、お前は黒と白、どっちが好みだ?」沙希が耳打ちしてきた。
「は? なんでそんなこと聞くんだよ」
「いいから答えろ」
俺は顔を赤くして答えるしかない。
「し、白…かな」
沙希は満足そうに笑った。
「わかった。楽しみにしてろ」
そう言って、沙希は下着売り場の奥へ消えていった。一体何を楽しみにすればいいのか、俺の心臓はバクバクだった。
俺は母さんに「ホームセンターに行ってくる」と言って、発電機を見に行くことにした。モールの別館に大型のホームセンターがあるのだ。
売り場に着くと、発電機がずらりと並んでいる。俺がほしいのは長時間動かせるタイプだ。なら、ディーゼル発電機がいい。ガソリンより効率がいいし、軽油の管理もしやすい。
「これにしよう」
俺は店員に一番大きな発電機を頼んだ。それから洗剤、充電式の掃除機、電気ケトル、ドライヤー、延長コード。ドライヤーはどれがいいかわからないから一番高いやつでいい。
「お車までお持ちしますか?」
店員が聞いてきたが、俺は丁重に断った。全部一人で担いで店を出る。レベル4の身体能力は伊達じゃない。人目がない場所まで歩いて、異空間に全て収納した。
下着売り場に戻ると、みんなはもう買い物を終えて待っていた。
「旦那様、すごく履き心地が良いんですよ」
リーリアがスカートを捲って見せようとしてくる。
俺は慌てて押しとどめた。
「ダメダメ! こんな所で見せちゃダメ!」
「わかりました。では帰ってからですね」
リーリアがニコニコととんでもないことを言う。沙希が俺を睨んでくる。
(いや俺は悪くないだろ!)と心の中で叫ぶ。だが口には出さない。出したら殴られる。
それにしても、あっちの世界では制服すら高く売れるからな。日本の下着を履いたら履き心地は段違いだろう。レースの装飾とか、異世界の粗末な布とは比べものにならないはずだ。
その後は食料品売り場へ行った。メリッサが母さんに調味料の説明を熱心に聞きながら、カゴに入れていく。醤油、味噌、みりん、だしの素…。これで異世界での食事がもっと美味しくなるぞ。
「あ、米も買っていかないと。炊飯器も欲しいな」
俺は米袋をカートに載せながら、異世界での快適生活に思いを馳せた。50万円はあっという間に無くなっていくな。
最後にフードコートで、3人にラーメンを食べさせた。箸をぎこちなく使いながら、一口食べた瞬間、3人が揃って「美味しい!」と叫ぶ。その声がフードコートに響いて、周りの客がチラリとこちらを見た。
「マリーナ喜んでくれて良かったよ」
「こっちにいたら太ってしまいますね」マリーナが名残惜しそうに麺をすすっている。
本当に連れてきて良かった。彼女たちの笑顔が見られて、心が満たされた。
帰りは、人気のない場所から転移で俺の部屋まで飛ぶ。母さんまで抱きついてきたのは恥ずかしかったけど、家族なんだからいいか。
「母さん、これ、金貨10枚。また売っておいて。使ってもいいからさ」
「あら、太っ腹ね」母さんがニヤリと笑った。
俺は部屋にあったゲーム機やモニターも異空間にしまい、準備ができたところで帰ることにした。
「それじゃ、帰ろうか」
母さんが寂しそうに言った。「またみんなを連れて帰ってくるんだよ」
「わかったよ」
沙希も「お母さん、また来ます」と頭を下げ、俺は転移を発動させて屋敷に戻った。
エントランスに着いた瞬間、俺はあることに気づいた。
「あっ、しまった。燃料の軽油を買ってきてない」
発電機は手に入れたが、肝心の燃料がなければ動かせない。これでは今日の発電はお預けだ。
「明日、買いに行くか」俺はため息をついた。
その夜、メリッサ、マリーナ、リーリアによる、買ってきた服のファッションショーが始まった。
母さんと沙希のセンスは抜群で、どの服も3人によく似合っている。俺はソファに座って、一人ファッションショーの観客だ。嬉しいけれど、同時に心臓に悪すぎる。
「次は下着です」
そう言って出てきた3人の姿に、俺は思わず目をつぶった。チラリと見えただけだが、3人とも、ものすごくデカかった。メイド服は、あの洋服の下の体型を完全に隠していたんだ。いや、これはヤバイ。
「旦那様、どうですか?」
「お前らな…」俺はソファの背もたれに顔を埋めながら、心の中で何度も唱えた。俺には沙希がいる。俺には沙希がいる。俺には沙希がいる…。




