メイドを連れて日本旅行
俺は沙希と一緒に、日本へ戻る計画を立てていた。マサヒロ王の話はしばらく置いておくとして、たまには息抜きも必要だろう。
「みんなで日本に行こうか?」と俺が沙希に聞いてみると、沙希は少し不安そうな顔をした。「大丈夫かなあ…」
「大丈夫だよ。母親にバレないように変装してれば」
沙希の母親は、娘がいなくなったことより金のことばかり考えているような人だ。沙希を日本で連れ回すのは少しリスキーだが、変装すればどうにかなるだろう。
「俺の部屋に直接転移すれば、外を歩く時間も短いしさ」
沙希も日本には行きたかったみたいで、すぐにうなずいた。
「わかった。行こう」
メリッサにマリーナ、リーリアも日本旅行に連れて行くことになった。せっかくだし、金貨が売れたら色々買い物もできる。メイド服ではなく私服を着てもらう必要があるが、それは母さんに相談しよう。
「じゃあ、みんな、俺に抱きついて」
俺は3人に抱きついてもらい、鼻の下を伸ばしていると、沙希が脇腹を思いっきり突いてきた。
「痛いっ」
「ムッツリ。早く行くぞ」
俺は沙希たちを連れて転移した。目指すは実家の俺の部屋だ。
一瞬の浮遊感の後、俺たちは見慣れた自分の部屋に現れた。
「ここが俺の部屋。そして、ここが俺たちの故郷、日本だよ」
メリッサたちがキョロキョロと辺りを見回す。
「すごく…物が多いですね」「なんだか変な音がします」
外から車の音や生活音が聞こえる。異世界の静かな屋敷とは大違いだ。
音を聞きつけて、母さんが台所から出てきた。
「あらっ、みんないらっしゃい!」
母さんは満面の笑みで俺たちをリビングに案内してくれた。
「母さん、今日は異世界で俺の世話をしてくれてるメイドさんたちにゆっくりして貰おうと、日本に連れてきてみた」
「拓也がメイドさんを雇うなんて出世したもんね」
母さんがニヤニヤしている。やめてくれ、俺は純真な15歳だぞ。
俺はメリッサたちに向き直った。「ここでは君たちはお客さんだから、メイドのことは忘れてね」
メリッサは「善処いたします、旦那様」と神妙な顔で言った。
「母さん、金貨は売れた?」
俺は単刀直入に聞いた。あの金貨がどうなったか、日本での資金源になるかどうかがかかっている。
母さんは嬉しそうに答えた。「ええ、今金の値段が上がっていて、50万円で買ってくれたらしいわよ」
50万! 思っていたよりずっといい値段だ。これでしばらくは生活に困らない。
「良かった。これで母さんたちにも迷惑かけずに買い物が出来るな」
俺は髪を切りたいと思っていた。異世界では理髪店なんてないから、髪は伸び放題だ。特に俺の髪はボサボサで、このままじゃ日本を歩けない。
「母さん、俺たち髪を切りに行きたいんだ。俺は床屋でいいけど、沙希たちは美容院にでも行かせたいな」
母さんが急に真顔になった。「あなたたち行方不明者扱いなのよ。いつもの床屋なんかに行ったら大変なことになるわよ」
…確かに。まだ日本では俺たちは行方不明の高校生だ。人目につくところをうろつくのは危険だ。
「でもみんな日本に来た記念にキレイにしてあげたいじゃん。母さん、どうしよう」
母さんがスマホで美容室を予約してくれた。都会から少し離れた落ち着いた店らしい。
美容室に着くと、俺はガチガチに緊張していた。美容室って、人見知りの陰キャにはハードルが高すぎる。頭を触られるのも喋るのも苦手だ。
そんな俺の様子を見て、沙希が笑った。
「初めて会った頃を思い出すな、その雰囲気」
からかわれてる。でも事実だから言い返せない。
切り終わった沙希は、腰くらいあった髪をバッサリと肩くらいまで切っていた。すごく似合っている。髪型一つでここまで雰囲気が変わるのか。
「カワイイよ、沙希」
「…おう」
沙希は照れているようだった。
メリッサも長い黒髪を肩くらいまで切って、マリーナは整えてもらっただけ。リーリアの金髪は美容師さんたちに「キレイですねぇ」と褒められ、切るのは勿体ないと言われたようで、長いままだった。
俺も短くしてもらい、全員満足して家に帰った。
父さんが仕事帰りにお寿司を買ってきてくれた。今夜はお寿司パーティーだ。
「うまい!」俺は久しぶりの寿司に感動していた。異世界の料理も美味いが、日本の味は格別だ。
「これ、生の魚ですよね?」
異世界から来たメイド3人は、目の前に出された寿司を不思議そうに眺めている。
「大丈夫、新鮮だから。騙されたと思って食べてみて」
俺が先に食べて見せると、3人は恐る恐る口に運んだ。
「美味しいっ!」
3人揃って叫んだ。その反応に、父さんと母さんも笑っている。
父さんは女性が増えて固まっていた。俺は父さん似で親子だなあとしみじみ思う。
明日は沙希とメイド3人を連れて買い物に出かけよう。異世界に持って帰れる物をたくさん買うんだ。
今日はメリッサ、マリーナ、リーリアの3人にはリビングに布団を敷いて寝てもらい、沙希は俺の部屋で一緒に寝ることにした。
「小さいベッドで一緒に寝るの、久しぶりだな」
「本当だな」
宿屋のあの頃を思い出す。おっぱいを枕にして寝ると、毎朝ビンタで起こされたこと。
「今日はおとなしく寝るから大丈夫だよ」
「当たり前だ。親がいる家で変なことしたら殺す」
沙希の目が本気だ。流石に親がいる家でいちゃつく度胸はないので、俺はおとなしく布団をかぶった。
「おやすみ、沙希」
「おやすみ」
明日はどれだけ買い物できるだろうか。メリッサたちの反応が楽しみだ。




