嫁、姑、邂逅
セリーさんが満足して帰った後、俺はまた転移で日本に帰った。
さっき帰った時に母さんに頼まれていたからだ。
母さんはスーパーの袋を抱えて、仁王立ちで言った。
「一度沙希ちゃんに会っておきたいわ。異世界に連れて行ってちょうだい」
「えっいきなり!?」
「いいから! 行くわよ!」
母さんの強引さには逆らえない。俺は覚悟を決めて母さんを連れて転移した。
「うわー、すごく広い家ね」
転移してすぐ、母さんは目を輝かせて歩き出す。
俺はハラハラしながら後を追った。
リビングでくつろいでいた沙希が、ぽかーんとして俺たちを見ている。突然、母親が現れたのだから無理もない。
「あなたが沙希ちゃんね。はじめまして、拓也の母の大野芳子です」
母さんから先に挨拶をした。
ソファでくつろいでいた沙希が、すぐに飛び起きて、姿勢を正した。
「はじめまして、お母さま。市橋沙希と言います」
2人の間に微妙な気配が流れる。嫁と姑の最初のぶつかり合いみたいだ。俺は息を呑んで見守った。
すると母さんがパッと顔をほころばせた。
「可愛いわねー! あなたが私の娘になるのね!」
と言って沙希を抱きしめた。
呆気に取られる沙希。俺もびっくりだ。
母さんは沙希の背中をポンポンと叩きながら言った。
「ずっと会いたかったのよ、沙希ちゃん。拓也と結婚してくれるんでしょ?」
沙希は抱きしめられたまま、少し照れくさそうに答えた。
「私もお母さまに挨拶しに行こうと…すみません、拓也…さんには結婚しようとは言われましたけど…」
その様子をメイド3人が暖かく見守っている。メリッサなんかニコニコしてるし。
母さんは沙希から離れると、今度はメイドたちに目を向けた。
「あなたたちは?」
メリッサが前に出て、恭しく一礼した。
「私たちは旦那様、拓也様の専属メイドでメリッサと言います」
続いてマリーナとリーリアも挨拶する。
母さんは3人を見て、ニヤリと笑った。
「拓也、こんな可愛い子たちと一緒に住んでるの? そりゃ帰りたく無いわね」
「母さん! 揶揄わないでよ!もう沙希に会ったんだから帰るよ」
俺が慌てると、母さんは「まあいいわ」と言ってスーパーの袋を掲げた。
「何言ってるの。拓也の好物の唐揚げ作ってあげるから食べてから帰るわ」
そしてメリッサに「キッチンに連れて行って」と言い、料理を作りに行ってしまう。
沙希が俺の脇腹を突いてきた。
「連れてくるなら先に言っとけよ」と怒っている。
「ごめん、母さん強引で…」
そのまま沙希もキッチンに向かい、「お母さま、手伝います」と言って行ってしまった。
1人残された俺に、マリーナから冷たい言葉が飛んできた。
「旦那様、いきなりは酷いと思いますよ」
リーリアも頷いている。「奥方様、驚かれてましたよ」
「…すみません」
キッチンからは楽しそうな声が聞こえてくる。
「沙希ちゃん、これ切ってくれる?」
「はい、お母さま」
「あら、手際がいいわね」
「家で家事はしていたので」
「ふふ、しっかりしてるわね、拓也にはもったいないわ」
「いえ、拓也…さんは優しいです、私にはもったいない相手です」
「あはは、優しいところはお父さんに似たかしら」
母さんと沙希の会話が弾んでいるようだ。ホッとした。仲良くなってくれたみたいだ。
しばらくすると、美味しそうな匂いがリビングに漂ってきた。
日本の醤油とニンニクと生姜の匂い。異世界では嗅いだことのない匂いだ。
「できたわよー!」
母さんが大皿に盛った唐揚げを持ってきた。
ゴロゴロとした大きめの唐揚げ。からっと揚がった皮が美味しそうだ。
「わあ…」メイドたちも目を輝かせている。
「いただきます!」
俺は唐揚げを一口で頬張った。
じゅわりと肉汁が溢れ出す。懐かしい味だ。母さんの味だ。
「うめえっ!」
「でしょ? たくさん食べなさい」
沙希も一口食べた。「おいしい…ですね、お母さま」
「気に入ってくれた? 沙希ちゃん」
「はい!」
メイドたちも恐る恐る手を伸ばす。
「んっ! これは!」
「お肉が柔らかい!」
「濃い味付けですが、くせになります!」
三人とも夢中で食べている。異世界の味付けとは違う、濃くてガツンとくる味が彼女たちにも好評だったようだ。
食事が終わると母さんは満足そうに言った。
「さて、そろそろ帰るわね」
「もう帰るの?」
「ええ。あまり長居すると拓也の迷惑になるでしょ? またいつでも来れるし」
母さんは沙希の手を握った。「沙希ちゃん、拓也をよろしくね」
「はい。お母さまもお元気で」
沙希の目が少し潤んでいる。彼女も母親の温もりに触れたのかもしれない。
「メリッサちゃんたちも、拓也と沙希ちゃんをよろしくね」
「はい、命に代えましても」メリッサが答えた。
俺は母さんを転移で連れて帰って、母さんが帰ったのを確認してからリビングに戻った。
沙希がソファでくつろいでいる。なんだかリラックスしているようだ。
「母さんと仲良くなれてよかったな」
「ああ。いい人だな、お前の母さん」
沙希がポツリと言った。「私の母親とは大違いだ」
「沙希…」
「でもさ、お前の母さんが私の母親みたいに接してくれて…嬉しかったよ」
俺は沙希の隣に座り、彼女の肩を抱いた。
「沙希は俺の家族だよ。これからもずっと」
明日からはまた探索を再開しよう、レイスがいなくなってたらいいんだけど




