ヴァンパイアロード
俺はアルベル王に、要求を伝えた。
「国民のスキルを俺にくれないか?」
王は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに興味深そうに身を乗り出した。「スキルを、だと?」
「ああ。戦えるスキルじゃなくていい。数が多いスキルを集めたいんだ」
大臣が横から口を挟んだ。「数が多いスキルといえば、やはり生活スキルですね。この国で最も多くの国民が持っているのは…荷運びスキルです」
「荷運びスキル?」
「はい。荷物を担いだ時に、少しだけ軽く感じるというものです。戦闘には全く役に立たない、いわゆるハズレスキルでして…」
大臣の説明を聞いて、俺は内心でガッツポーズをした。それなら奪っても誰にも影響がない。完璧だ。
「大臣、荷運びスキルLV1を3万人分、集めて欲しい」
「さ、3万人!?」
大臣が素っ頓狂な声を上げた。無理もない。とんでもない数字だ。
しかしアルベル王は静かに頷いた。「わかった。国中にお触れを出そう。荷運びスキルを持っている者には、金貨1枚の特別支給をする、とな」
「ありがとうございます、王様」
次の日から、城には荷運びスキルを持った国民が続々と集まってきた。老若男女、様々な人々が金貨1枚を目当てにやってくる。
俺は城門の前に立ち、一人ひとりからスキルを奪っていった。
「スキルテイカー」
手をかざすだけで、相手の荷運びスキルが俺の中に流れ込んでくる。奪われた側は一瞬だけ不思議そうな顔をするが、特に体調が悪くなるわけでもない。金貨を受け取って嬉しそうに帰っていく。
朝から晩まで、ひたすらスキルを奪い続けた。100人、200人、500人……。気が遠くなるような作業だったが、沙希さんと静香さんがずっと横で支えてくれた。
「拓也、休憩しろ。無理するな」
「大野くん、お水どうぞ」
2人の優しさに甘えながら、俺は奪い続けた。
ついにその時が来た。
「荷運びLV4 49/50が…荷運びLV5になった!」
俺は叫んだ。頭の中に直接、新しい力が流れ込んでくる感覚。同時に、ステータス画面を見ると、俺のスキル「ギフトテイカー」がLV5に上がっていた。
「やったな!」
「おめでとうございます!」
沙希さんと静香さんが抱き合って喜んでいる。俺は拳を握りしめた。これでヴァンパイアロードがLV5のスキルを持っていたとしても奪える。勝機は格段に上がった。
俺はすぐに荷運びスキルを沙希さんに渡し、キスをしてアビリティリンクもLV5にしておく。
これで沙希さんもLV5のスキルを使えるようになった。
「これで準備は整ったな」
俺たちは、アルベル王にもう一つ頼みごとをした。
「元クラスメイト達で、冒険者として生活出来ていない者を、城で保護して欲しいんです」
王はすぐに「わかった」と答えた。優秀なクラスメイトたちは既にギルドで活躍しているらしいが、戦闘に向かないスキルを持った者たちは、街で細々と暮らしているという。そんな彼らを城で雇い、生活の保障をしてくれるそうだ。
「そのかわり、ヴァンパイアロードを必ず倒してくれよ」
アルベル王は俺の目をまっすぐに見て言った。
「約束します。俺たちが必ず倒します」
俺たちは異空間に食料やキャンプ道具を詰め込み、いよいよ出発の時を迎えた。
城門の前には、多くの兵士や国民が集まっていた。期待と不安が入り混じった表情で、俺たちを見つめている。
「行くぞ、2人とも」
「ああ」
「はい!」
俺たちは北へと歩き出した。
ヴァンパイアロードの住むという北の城は、徒歩で3日ほどの距離にあるらしい。
初日は順調だった。王都周辺の魔物は、俺たちが既に狩り尽くしていたからだ。見晴らしの良い街道を、まるでピクニック気分で歩いていく。
「天気が良くて気持ちいいな」
「そうだな。これでヴァンパイアロードを倒しに行くってのが信じられないよ」
沙希さんが笑う。静香さんも「お弁当、作ってきて良かったです」と言って、異空間からサンドイッチを取り出した。
しかし2日目から様相が変わった。
街道は途切れ、深い森の中を進むことになる。木々が生い茂り、昼間だというのに薄暗い。空気が重く、じめじめとしている。
「なんか、嫌な感じだな」
「ええ。魔力が淀んでいます」静香さんが眉をひそめる。
さらに進むと、魔物の姿が増えてきた。ゴブリンどころではない。大きな体躯を持つオーガや、空から襲ってくるハーピー。どれもLV2からLV3クラスの強さだ。
「来たぞ、左から!」
「任せて!」
沙希さんが剣を振るい、オーガの首を一閃する。LV4の身体能力を得た彼女の動きは、もはや神速だ。
「上です!」
ハーピーの群れが急降下してくる。静香さんが手をかざすと、巨大な火球が放たれた。LV3の火魔法だ。ハーピーたちは悲鳴を上げる間もなく、灰になって消えた。
「すげえ…」
俺は自分の手を見つめた。俺たちはレベル4のスキルをメインに戦っているが、いつでもLV5の力を使える。これは反則級の強さだ。これならヴァンパイアロードにも勝てる。そう確信した。
3日目、ついに目的の城が見えてきた。
黒くそびえ立つ古城。まるでホラー映画からそのまま出てきたような、不気味な佇まいだ。周囲の木々は枯れ果て、地面は灰色に変色している。
「ここが…」
「ヴァンパイアロードの城か」
俺たちは武器を構え、城門をくぐった。
中はさらに異様だった。廊下にはボロボロの鎧が転がり、壁には乾いた血痕がこびりついている。そして、うめき声のような風の音が絶え間なく響いている。
「気をつけろ、いつ襲われてもおかしくない」
俺はアビリティサイトを発動させながら進む。すると、前方から何かが近づいてくる気配を感じた。
「来るぞ!」
現れたのは、鎧を着たスケルトンの群れだった。ただし、遺跡で戦ったものとは明らかに格が違う。全身が黒いオーラに包まれ、目には赤い光が灯っている。
「スケルトンナイト…剣術LV3の群れか」
「数が多いな!」
沙希さんが前に出る。俺も棍棒を構え、静香さんは槍を構えて、魔法の詠唱を始めた。
「一気に片付けるぞ!」
「おう!」
戦闘が始まった。スケルトンナイトたちは統率が取れており、次々と波状攻撃を仕掛けてくる。だが、俺たちの敵ではない。
沙希さんが前衛で敵を斬り伏せ、静香さんが後方から魔法で援護する。俺は隙を見て敵のスキルを奪い、弱体化させていく。
「ギフトテイカー!」
一体のスケルトンナイトから剣術LV3を奪う。動きが鈍ったところを、沙希さんが真っ二つにした。
「次!」
「任せろ!」
10分ほどの戦闘で、20体以上いたスケルトンナイトは全て殲滅された。
「ふう…結構いたな」
「でも、まだまだ余裕ですよ」
静香さんが微笑む。確かに、まだ誰も疲れていない。LV5の身体能力と、奪ったスキルのおかげで、スタミナも底なしだ。
俺たちはさらに奥へと進んだ。広間に出ると、そこには巨大な玉座が置かれていた。そして、その玉座に座る人影が一つ。
「よく来たな、人間どもよ」
低く、ぞっとするような声が広間に響き渡った。
玉座から立ち上がったのは、背の高い男だった。肌は青白く、目は血のように赤い。口元からは鋭い牙がのぞいている。
「私がヴァンパイアロード、アルカードだ」
俺はアビリティサイトを発動させた。
「…吸血LV5、魅了LV5、剣術LV4、闇魔法LV4、転移LV5」
なるほど、これは強い。レベル4の剣士が返り討ちにされたのも納得だ。
だが、俺は不敵に笑った。
「上等だ。そのスキル、全部奪ってやる」
戦いの火蓋が切って落とされた。




