アルベル・ヴァルディス王
大臣に連れられて、ついに玉座の間にたどり着いた。
豪華な装飾が施された広間の奥、玉座の前にその男は立っていた。
白い髪に深い皺を刻んだ顔。威厳はあるが、その瞳には深い疲労と悲しみが宿っている。
大臣は俺たちの前で平伏し、恐る恐る口を開いた。
「王よ…彼らは、召喚された者たちです。レベル4の力を持ち、城門を破り、兵士を圧倒しました」
王はゆっくりと頷き、大臣に下がるよう指示した。大臣は安堵した表情で脇に下がる。
王は玉座から降り、俺たちと同じ高さの床に立った。
「私がこの国の王、アルベル・ヴァルディスだ」
低く、よく通る声だった。
俺は一歩前に出る。
「拓也・大野。この前召喚された、日本の高校生だ」
紹介されたからには、名乗らねばなるまい。
アルベル王は、俺の顔をまっすぐに見つめて言った。
「覚えている。レベル1だった者だな。其方の強さはレベル4クラスだと聞いたが、嘘の申告をしたのか?」
俺は肩をすくめて答えた。
「いや、嘘じゃない。俺のスキルは成長するんだ。最初はレベル1だったけど、今はレベル4だ」
王は目を細め、「そんなスキルもあったのじゃな」と呟いた。
「それで、今日は私を殺しに来たのか?」
王の言葉に、殺気はなかった。ただ、静かに事実を確認するようだった。
俺は首を横に振る。
「いや、抵抗するなら殺すけど、俺たちは二度と召喚が出来ないようにしに来たんだ」
その言葉を聞いた瞬間、アルベル王はゆっくりと、深く頭を下げた。
「我々の身勝手で召喚して、申し訳なかった」
俺は思わず沙希さんと顔を見合わせた。一国の王が、しかも俺たちのような異世界人に頭を下げるなんて、予想していなかったからだ。俺たちは少し面食らってしまった。
王が頭を上げると、その目には決意の色が宿っていた。
「しかし、それは待ってくれないか」
俺は眉をひそめた。「理由があるのか?」
アルベル王は、重々しく語り始めた。
「この国は無くなる運命なのだ。ある魔物のせいで、今は外の世界と遮断されて、交流が出来なくなっている」
「遮断?」
「その魔物とは、ヴァンパイアロード。この国を餌場として、もう100年ほど支配しておる。周囲の森に強力な魔物を配置して、ここから逃げられなくしているのだ。そして数日に一度いきなり現れては、見目麗しい女性を攫って行く」
王の声が震えた。「私の妻も、連れ去られてしまった。美しい女性がどんどんいなくなることで、出生率も下がって、人口は減る一方なのだ」
俺は街の様子を思い出した。確かに、キレイな女性は受付のお姉さんくらいしか見ていない。若い女性が極端に少ないのは、そういう理由だったのか。
「そこで、城に伝わっていた召喚の魔法陣で強力な勇者を召喚して、なんとかしてもらおうと思ったのじゃ」
王は続けた。「召喚された者は、強力なスキルを持っていることが多いからの。しかし何回やっても、ヴァンパイアロードを倒せそうなレベル5を持っている勇者は現れなかった。だから、森の魔物を何とかしてもらうために、ずっと召喚を続けていたのじゃ」
なるほど。俺たちが召喚されたのは、レベル5の勇者が来るまでの「捨て駒」として、あるいは「森の魔物の餌」としてだったわけか。納得できる話だ。
「レベル5でないと倒せないのか?」俺は聞いた。
王は悲しげに言った。「一度、レベル4の剣術スキルを持った者が現れたのじゃ。ヴァンパイアロード討伐に向かわせたが…帰ってこなかった。そうなると、もうレベル5を期待するしかなかったのじゃ」
俺は沙希さんと静香さんを見た。2人とも真剣な表情で王の話を聞いている。
ヴァンパイアロードか。ドラゴンやデーモンと並ぶ、ファンタジーの王道モンスター。俺のオタク心が少しだけ騒ぐが、現実は甘くない。レベル4の剣士が返り討ちにされた相手だ。
でも、俺には「スキルテイカー」がある。
俺は王に向き直り、宣言した。
「俺たちが倒してやる。だから、召喚の魔法陣は潰させてもらうぞ」
王は驚いたように目を見開いた。「…其方たちにできるのか?」
「ああ。俺たちはレベル4だ。でも、俺のスキルは特別だ。奪えば奪うほど強くなる」
俺は不敵に笑った。「それに、俺には頼もしい仲間がいるしな」
王はしばらく俺たちを見つめていたが、やがて頷いた。
「そうだな。何回やってもレベル5のスキルを持っている者は現れないし、其方たちに賭けるのも悪くないな。この国が生き残れるかどうか、任せてもいいのか?」
「ああ、そのかわり、頼みを聞いてもらうぞ」と俺はニヤリと笑った。
「言ってみろ」




