一ノ瀬 静香視点
私の高校デビューは順調だった。
入学式の日から、私はクラスメイト全員の名前を必死に覚えた。自己紹介の時に聞き漏らさないように、ノートに書き出して暗記までした。そして、目立ちそうな子たちの輪にさりげなく入っていく。カースト上位のグループに入ること、それが私の青春の使命だったから。
1ヶ月間、私は必死だった。休み時間は誰と話すか、お弁当は誰と食べるか、放課後は誰と帰るか。全てを計算して、やっと居場所を作ったのに——白い光に包まれて、異世界だって?
なにそれ? 冗談じゃないよ。パパ、ママ、助けてよ。魔物なんて、戦えないよ。
私が貰えたスキルは回復LV2。自分では戦えない。攻撃魔法もなければ、剣を振るう力もない。ただ傷を治すだけ。でも、みんなから「パーティに入ってくれ」って言われて、私はホッとした。役に立てるなら、またグループの中にいられるって。
みんながLV2のスキルなのに、LV3のスキルをもらった男の子がいた。ケンタが声をかけてくれて、その男の子のパーティに入れた。あぶれたのは、いつも遅刻してくるヤンキーの市橋さんと、1ヶ月誰とも話してるのを見たことない男の子。
大田くん? 大井くん? 入学した時に名前を覚えたけど、忘れちゃった。だって彼、全然喋らないし、教室の隅で本ばかり読んでるし、存在感が薄すぎたんだもん。
順当だと思った。私は努力してきた。人間関係を築くために必死だった。それに比べてこの2人は、人間関係を蔑ろにしてきたんだから、あぶれても仕方ないって思った。自分が惨めにならないように、そう言い聞かせた。
2人は城を追い出されてしまった。その後、食事を出してくれて、この世界の服に着替えさせられた。戦える装備をくれて、王様が期待しているって声をかけてくれる。
嫌だけど、みんなやる気になっているから、そんな事言えない雰囲気だ。お金もくれて、1人金貨1枚。どれだけの価値があるかわからないけど、みんな喜んでいる。私もとりあえず安心した。
剣術LV3を持ったケンタがリーダーシップを取って、みんなで冒険者ギルドに登録をした。
「俺が守ってやるから、全員で行動しよう」
ケンタのその言葉に、私たちは安心してついていった。30人で魔物狩りに出かけた。
ぷよぷよしたスライムみたいな魔物を何匹か倒して、その日は終わった。
宿に泊まって、好きな物を食べて……でも、貰った金貨はすぐに無くなった。みんなでぷよぷよを倒しても、1日で1人分の宿代にもならない。
お金が無くなり、みんな宿にも泊まれずに、疲れ切っていた。
ある日、ケンタが言い出した。「全員を養うのは無理だ」
その夜中に、私は連れ出された。5人でパーティを組み直すことになった。
なんとか生活出来るくらいにはなった。でも、だんだん私に対する扱いが酷くなっていく。
「戦いで私だけ何もしてない」って。分け前を減らされる時もあった。
当然私は文句を言った。「ケガをしなければ出番がないんだから、もっと稼げる強い魔物と戦ってよ!」って。
そしたら…私はゴブリンの群れの中に突き落とされた。
「ひっ!」
見捨てられたんだと理解するのに、数秒もかからなかった。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
誰か助けてっ! もうこんな世界イヤだよ!
縛られて、私はこの醜い魔物に食べられるんだって、泣いていたら——
男の子が突っ込んで来るのが見えた。
助かるっ! やった! 早く助けてっ!
彼は…大田くん? 大野くん? すごいスピードで魔物たちを倒して駆けつけてくれた。
カッコいい…。
あっ、私のおっぱいが丸見えだっ! いやっ見ないでっ! 恥ずかしいよぉ!
彼は私を助けた後、ケンタたちの所に行って怒ってくれた。ケンタたちの力を奪った? どういうこと?
そして私にキスをしてきた。
えっ?
唇が触れただけじゃない。舌が入ってくる。初めてのキス。しかも大人のキス。
戦える力をくれた?
私に槍術LV3が付いていた。さっきまで無かったから、彼が何かしたんだよね。あのキスで。
でも、私には行き場所が無かった。
元のクラスメイトたちには、ケンタが酷いことしてたから、同じパーティだった私のことも憎まれている。
初めての彼に助けてもらうしか無い。
初めておっぱいを見せた男の子。初めての大人のキスをした男の子。
責任取ってもらうんだ!
えっと、大田? 大野? どっちだっけ? 多分大野かな。
「大野くん!」って呼んだ。
彼は、ヤンキーの市橋さん——沙希さんが反対してたけど仲間にしてくれた。
武器も買ってくれて、便利な異空間スキルもくれた。
嬉しい…。彼も私のこと好きなのかも。
と思っていたら…なんか1人でしてる時、「沙希さん」って呼んでいた。
なんで? 私じゃないの?
思い切って聞いてみた。「なんで私をパーティに入れてくれたの?」って。
彼は言った。「初めて名前を覚えてくれていた人に会ったから」って。
やばかった。
あの時「大田くん」って呼んでいたら、今の私は無かったんだ!
う、うん…名前覚えていたよって誤魔化したけど、冷や汗ダラダラだった。
本当にギリギリセーフだった。私の高校デビューの努力が実を結んだ瞬間だ。
沙希さんに今はリードされているけど、絶対に大野くんは私の物にするんだ。
もう好きになっちゃったんだから。
沙希さんが「悪かったな。私はクラスメイトに興味なかったからな」って言った時、大野くんは「沙希さんの事情はわかってますから大丈夫ですよ」って言った。
その優しい言葉が私にも向けられるように。
絶対に大野くんは私の物にするんだ。




