スケルトンの依頼
半日かけて遺跡にたどり着いた。
荒涼とした大地に、ぽっかりと口を開けた地下への入り口。石造りの階段は風化して崩れかけているが、その奥からは冷たい風と共に、死の気配が漂ってくる。
「うわっ、またウジャウジャいますよ、ガイコツ!」
階段を降りきった広間には、白い骨の群れが蠢いていた。カチカチと骨が擦れ合う不気味な音が反響している。
初めて見る静香さんは、動くガイコツに引きつった顔をしていた。槍を構える手が微かに震えている。
「大丈夫ですか、静香さん」
「は、はい…ちょっと気持ち悪いですが、やります!」
「あいつらは剣術LV2を持っていますから気をつけてくださいね」俺は静香さんに注意する。「俺が手前の奴からスキルを奪っていくから、動きが遅くなった奴から倒しちゃってください。沙希さんは静香さんのフォローをお願いします」
「了解だ!」沙希さんが剣を抜く。
俺はギフトテイカーを連続で発動した。
ズルズルズルッ!
スケルトンから剣術LV2のスキルが次々と引き剥がされていく。スキルを失ったスケルトンは、ただの動く骨に成り下がる。剣を振るう動作も、ただ腕を振り回すだけの緩慢なものになる。
「今だ!」
静香さんが槍を突き出す。ドスッ! と背骨の隙間に正確に槍の穂先が突き刺さり、スケルトンはガラガラと崩れ落ちた。
「やった!」
「よし、その調子だ!」沙希さんも剣でスケルトンの頭蓋を砕いていく。
スキルを奪われたスケルトンなんて、LV3のスキルを持っている俺たちの敵じゃない。戦場は一方的な屠殺場となった。
3人で50体のスケルトンを倒すのに、1時間もかからなかった。
「ふぅ、これで全部かな」
俺は息を吐きながら、散乱した骨の山の中を歩き、魔石と武器を回収していく。
50本の錆びた剣と魔石。剣だけで金貨10枚は堅い。やっぱりスケルトン狩りは美味しい仕事だ。
「沙希さん、剣術スキル渡しますね」
俺は沙希さんに向き合った。
沙希さんは、静香さんが見ているのを意識したのか、いつもより激しいキスをしてきた。
唇を重ねるだけでなく、舌をねじ込み、俺の口内を貪るような濃厚なキスだ。お互いの唾液が絡み合い、チュパチュパと水音が響く。
スキル移動が終わっても、沙希さんの舌は俺の中を彷徨い、離れない。
「んっ…沙希さん、スキル渡し終わりましたよ…」
俺が顔を離すと、沙希さんはニヤリと笑って唇を拭った。
静香さんは顔を真っ赤にして、横目で俺たちを見ている。視線が泳いでいる。
「じゃ、急いで帰りますか。夜までに帰らないと、ベッドじゃなく地面で寝る事になっちゃいますからね」俺が言うと、
「そうだな。せっかくベッド買ったんだ、使わないと勿体無いよな」沙希さんも早足になる。
暗くなり始めた頃、俺たちは街に着いた。
久しぶりに大稼ぎしたし、今日は3人で食事をすることにした。酒場のテーブルに並んで座る。
パンと炙った肉。異世界の食事もだいぶ慣れてきた。
静香さんが水を一口飲んで、ふと思い詰めたように俺を見た。
「どうして私を仲間に入れてくれたんですか? やっぱり…私の胸を見たからですか?」
ぶっ! 俺は水を吹き出しそうになった。
「いきなり何言ってんの!」
「だって…あんな姿見られちゃって…それに責任取ってとか言っちゃったし…」静香さんは顔を赤くして、でも真剣な眼差しで俺を見つめてくる。
俺はテーブルに肘をつき、彼女の目を真っ直ぐに見返した。
「それも理由の1割くらいかな」
「1割?…」
「残りの9割は…静香さんが森の中で俺たちを追いかけてきた時、俺の名前を知っていたからだよ」
「名前を?」
「うん。こっちに来て初めて、名前を知っている人がいた。俺のことを覚えていてくれた人がいたんだ。それがすごく嬉しかったんだよ、俺のことを見ていてくれた人がいたんだって」
静香さんは目を丸くした。そして、「ふーん」と言いながら、なんか汗をかいている。
「うん…名前、覚えていたよ…」彼女は小声で呟いた。
沙希さんが肉を頬張りながら、ポツリと言った。
「悪かったな。私はクラスメイトに興味なかったからな。拓也だけじゃなくて全員の名前を知らなかったんだ」
「沙希さん…」
俺は苦笑いする。「沙希さんの事情はわかってますから大丈夫ですよ。沙希さんは俺の隣にいてくれればそれで」
すると静香さんが、爆弾発言を投下した。
「2人は仲良いですよね。大野くんが寝言で沙希さんの名前呼ぶくらい」
「ぶほっ!」俺は今度こそ水を噴き出した。「い、言っちゃう!? そこ!」
沙希さんはフォークをカチャカチャさせながら、「それ蒸し返すのか?」と静香さんを睨む。
「だって事実ですし」
「事実でも言っていいことと悪いことがあるだろ!」俺は顔を赤くして食事を続ける。
くそー、壁薄いし、静香さん耳いいし、余計なこと言うし。
次からは絶対に静かにやろうと心に誓った。




