薄い壁
平屋の団地みたいな感じで、同じ造りの家がずらりと並んでいる区画だった。冒険者用の長屋だ。
中に入ると、パーティで住む前提で作られているため、大きなリビングの隣に3畳ほどの小さな個室が5つ並んでいた。キッチンもあり、水場も完備されている。簡素だが、機能的だ。
「ここなら自分の部屋もあるし、ゆっくり出来そうだね」俺が言うと、沙希さんも頷いた。
「そうだな。自室なんてベッドが置ければいいだけだしな。荷物も異空間に入れっぱなしにできるからな」
静香さんはキラキラした目で部屋を見回し、「かわいい家具を買いに行きましょう! カーテンとか小物とか!」と早くも女子の計画を立て始めていた。
俺が「じゃあ、ここで決めようか」と言うと、2人も賛成してくれた。
問題は家賃だ。1ヶ月の家賃が金貨1枚。それに、冒険に出て帰ってこなかった時の補償金として金貨3枚を預ける必要がある。つまり、初期費用で金貨4枚だ。
俺たちの貯金ならなんとか払えるが、これが消えたら一気に余裕がなくなってしまう。でも、毎日宿に泊まるよりは断然安い。これは投資だ。
俺たちはギルドに戻り、契約手続きを済ませた。金貨4枚を支払う時、少しだけ心が痛んだが、これで俺たちの城が手に入った。
契約書にサインを終えると、受付のお姉さんが「あ、そうそう。スケルトンの依頼、出ましたよ」と教えてくれた。
やった! ついに来たか。スケルトンの討伐依頼だ。これがあれば、沙希さんの剣術スキルをさらに伸ばせるし、何より一大金儲けのチャンスだ。スケルトンは骨だけの魔物だが、遺跡の奥深くに行けば、希少なスキルを持った個体に出会える可能性もある。
「お姉さん、ありがとう! 明日、早速行ってきます!」俺は深くお礼を言い、ギルドを後にした。
その日は、今まで泊まっていた宿の女将さんに世話になった礼を言ってから、買い物に出かけた。
美少女2人と同居するための買い物。一緒に店を回っているだけで、異世界サイコー!と叫びたい気分だった。
「拓也、このベッド硬そうだな。もう少し良いやつにしようぜ」沙希さんが寝具の感触を確かめながら言う。
「大野くん、このお皿可愛いです! これにしましょうよ!」静香さんがピンク色の陶器を手に取ってはしゃぐ。
俺は2人の意見を聞きながら、一番いいベッドと布団、それぞれの食器、それに最低限の調理器具を揃えた。
支払いを済ませ、商品を異空間に放り込む。俺と沙希さん、そして静香さんの3人がかりで異空間を使えば、大量の荷物も一瞬で運び終わる。このスキル、こんな時にも便利すぎる。
新しい家に戻り、異空間から荷物を出して部屋を整えた。
「ふぅ、こんなもんか」
「「お疲れ様でした」」
3人で買ったベッドにダイブする。自分の家のベッドってだけで、宿のベッドとは違う安心感がある。
明日は朝早くから遺跡に向かうので、早めに寝ることにした。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
それぞれの個室に引き上げる。
俺は自分の部屋のベッドに横たわった。一人のベッドだ。今までは沙希さんと添い寝、昨日は静香さんも交えてのカオスな状態だったから、落ち着かない。
でも、これで思いっきり抜けるぞ!
俺は意気込んでパンツを脱ぎ捨てた。数日分の欲望が今にも爆発しそうだ。
手を動かし始める。頭の中には沙希さんの色白の肌、そして昨日見た静香さんの大きな胸が交互に浮かんでくる。
気持ちが盛り上がって、つい声が漏れてしまう。
「沙希さん…沙希さん、気持ちいいよ…」
一人言だ。誰に聞かれるわけでもない。俺はのけぞりながら、久しぶりの解放感を味わっていた。
果てた後、トロトロになった頭で布団を被る。あー、すっきりした。
俺は満足してすぐに眠りに落ちた。
翌朝。
俺は爽やかな目覚めを迎えたはずだったが、リビングに出た瞬間、空気が重いことに気づいた。
沙希さんも静香さんも、俺の目を全く見てくれない。二人してキッチンの隅で朝食を作っているが、首まで真っ赤だ。
「おはようございます」俺が声をかけると、
「お、おう…」沙希さんがそっぽを向いたまま返事をする。
「おはようございます…大野くん…」静香さんも消え入りそうな声だ。
なんだこの気まずさは。
ふと、壁を見る。…あ。
この長屋、思いのほか壁が薄いみたいだ。
俺が昨晩、「沙希さん、気持ちいいよ」とか叫んでいたの、筒抜けだったんじゃないか?
しかも沙希さんは名前を呼ばれていたから、自分のことだと思っただろうし、静香さんも俺が沙希さんの名前を呼びながらシコっていたことを知ってしまったわけだ。
俺は穴があったら入りたい気分だった。でも、冒険者に気まずさを引きずっている余裕なんてない。
「あ、あのさ! 今日は遺跡行くんでしたよね! 準備、しましょうか!」俺は無理やり話題を変えた。
「そ、そうだな! 行くぞ!」沙希さんも逃げるように頷く。
「は、はい! 行きましょう!」静香さんも武器を手に取った。
俺たちは逃げるように家を出て、街の外へと向かった。
目指すは遺跡。スケルトンが徘徊している俺たちの稼ぎ場所だ。




