新しい仲間
沙希さんが腕を組み、女の子を見下ろすようにして口を開いた。
「何しに来た。スキルは貰ったからもう1人で生きていけるだろう?」
その声には、明確な拒絶が含まれていた。いつも俺に向けられる軽口のようなものではなく、剣を向けるような冷たさだ。
沙希さんの言う通りだ。俺たちは彼女に槍術LV3という強力な武器を与えた。これがあれば、他のパーティに入ることだって、ソロで細々と稼ぐことだって不可能じゃないはずだ。
そこで俺は、改めて彼女をじっくりと観察した。昨日はゴブリンに服を破られ、泣きじゃくっていたせいでおっぱいしか印象に残っていなかったからね。
青髪のショートカット。真面目そうな雰囲気。沙希さんより背は低いけど、その分、胸元が強調されている気がする。沙希さんよりも明らかに大きい。安物の棒の先を削いで作っただけのような粗末な槍を握りしめ、不安げに揺れる瞳。
「一ノ瀬 静香です」彼女は小さく名乗った。
「私…あのパーティにいたから、クラスメイトの所には戻れなくて…。1人でどうしたらいいかわからなくて…。大野くんが助けてくれたから、その…」
そこまで言いかけて、沙希さんが容赦なく口を挟んだ。
「城で私たちを見捨てたのはもう忘れたのか?」
静香さんの肩がビクッと跳ねた。忘れるはずがない。あの絶望的な状況、仲間に突き飛ばされた瞬間の恐怖。
「忘れてないです…すみませんでした」彼女は絞り出すように謝った。
沙希さんがさらに追い討ちをかける。「忘れてないなら、クラスメイトの所と同じで私たちの所にも来れないよな。裏切り者を仲間に入れるほど、私たちは甘くないぜ」
静香さんの視線が沙希さんから俺へと移った。助けを求めるような、縋るような目。
「初めてだったんです…キス。それに…おっぱいも見ましたよね?」
「ぶっ!」俺は思わず吹き出した。いきなり何を言い出すんだこの子は!?
静香さんの顔が真っ赤になるが、その目は死ぬほど真剣だった。
「その…責任取って、ください!」
まるで断られたらその場で死ぬくらいの覚悟が見える。女子がここまで言うなんて、よっぽど追い詰められているのか、それとも俺に頼り切りたいのか。
沙希さんが俺の方を向いた。「お前がリーダーだ。拓也が決めろ」
沙希さんの顔は半分諦めたような、半分呆れたような顔をしている。俺の性格なら断れないと踏んでいるのかもしれない。いや、実際断れないんだけど。
静香さんが追い討ちをかけるように、さらにとんでもないことを言った。
「私、なんでもします! 大野くんが欲しいなら、身体だって!」
「い、いやいや! それはいいから!」俺は慌てて手を振った。「そういうのは、その…愛があってこそだし!」
俺が狼狽していると、沙希さんがボソッと呟いた。
「コイツは変態だぞ。毎晩私の胸に顔を埋めて寝てるんだ」
「えっ?」静香さんの目が点になる。
俺も凍りついた。「ちょ、沙希さん! 余計なこと言わないでくださいよ! 寝相が悪かっただけですって!」
静香さんの視線が俺の顔から沙希さんの胸、そして自分の胸へと移り、何かを計算したように呟いた。
「それなら…私の方が大きいから、大野くんはこっちの方がいいですよね?」
ズドン。
二人の間に見えない火花が散った気がした。沙希さんがピクリと眉を動かす。
「はあ? 大きさが全てじゃねえんだよ。形とか感触とかよ」
「ふふん、柔らかさでしたら負けませんよ?」
俺は挟まれて身動きが取れない。女の子同士の張り合いって、こんなに恐いものだったのか。
でも、キスしたのも、おっぱい見たのも事実だし、彼女をここで追い返したら、あの4人組と同じになってしまう。
俺は覚悟を決めた。
「とりあえず…一緒にやってみようか?」
静香さんの顔がパァーッと明るくなった。今日の天気みたいだ。
「はいっ! 頑張ります!」
対照的に、沙希さんの顔は渋顔になる。「チッ…仕方ねえな」
沙希さんが静香に指を突きつける。「いいか、変なことしたら拓也はスキルを奪えるからな。あの男たちみたいにスキル全部奪って放り出すぞ。わかったか?」
「は、はい! わかりました!」静香さんが直立不動で返事をする。
なんか、成り行きで仲間が1人増えてしまった。しかも、とんでもないトラブルメーカーになりそうな予感がプンプンする。
俺たちは3人で森の中へと進んだ。
とりあえず、静香さんの実力を見せてもらうことにした。
索敵にゴブリンの反応が現れる。数は20体ほど。
「静香さん、行ってみてください」
「はい!」
静香さんが槍を構え、ゴブリンの群れに突っ込んでいく。
その動きは、意外なほど軽快だった。昨日の泣きっ面が嘘のように、槍を振り回し、ゴブリンの頭を的確に突き刺していく。
「すげえ……」沙希さんも感心したように頷く。「あの槍術LV3は伊達じゃねえな。前衛として十分に戦える」
俺も後ろからギフトテイカーを発動し、ゴブリンのスキルを奪っていく。奪われて硬直したゴブリンを、静香さんの槍が仕留める。沙希さんは俺の護衛兼、静香さんのフォローに回る。
昨日の2人パーティの時とはまた違う、厚みのある戦い方ができる。
戦闘が終わると、静香さんが俺の元へ駆け寄ってきた。
「大野くん、怪我はないですか?」
「俺は大丈夫ですよ。静香さんこそ」
「私は回復魔法持ってますから、これくらいならすぐ治せますし」彼女は得意げに笑う。
その時、沙希さんが腕を擦っていた。「俺は少し擦りむいたかもな」
「あっ、沙希さん、すぐに治します!」静香さんが沙希さんに駆け寄り、回復魔法をかける。
「サンキュ。ま、悪くねえな」沙希さんも素直に認めたようだ。
回復役がいるというのは、やはり心強い。怪我をしてもその場で治せるのは、精神的な安心感が段違いだ。宿に戻ってから治す手間も省ける。
俺は静香さんの加入を心から歓迎した。うん、これならいける。
その日の夜、問題は宿で起きた。
部屋は2人部屋だ。沙希さんと俺で泊まっていた部屋に、静香さんも泊まることになった。
当然、ベッドが足りない。
静香さんがもじもじとしながら言った。「私、大野くんと一緒のベッドで寝てもいいですよ…」
「却下!」沙希さんが即座に却下する。「私が拓也と寝るんだよ。お前は床な」
「ええー…沙希さん、意地悪です」
「うるせえ。変なことさせねえぞ」
結局、沙希さんと静香さんが俺を挟んで同じベッドことになった。沙希さんは俺の胸に抱きつくようにして寝る体勢をとり、静香さんに対してマーキングしているように見えた。
消灯後、俺は眠れずにいた。
隣には沙希さんの温もりと、いい匂いがする。そして反対には静香さんがいる。
「私、なんでもします」
静香さんのあの言葉が、頭から離れない。身体だって差し出すと言ったんだ。もし俺が「やろう」と言ったら、彼女は本当に受け入れるのだろうか。
沙希さんが寝息を立てている。静香さんも静かだ。
俺の理性と欲望が、頭の中で激しくぶつかり合っていた。静香さんのおっぱいの感触。沙希さんの肌の滑らかさ。
15歳の夜は、こんなにも長くて苦しいものなのだと、俺は身をもって知った。




