魔法少女サキ
ギルドの重い扉を押し開けると、いつもの冒険者たちのざわめきが俺たちを迎えた。今日は朝から大仕事を終えてきたばかりだ。俺と沙希さんは迷わず受付へ向かい、異空間から次々と魔石と武器を取り出した。
「ゴブリンの魔石120個と、こっちが回収した武器類です」
カウンターに置かれた魔石と錆びた短剣や弓の山を見て、受付のお姉さんが目を丸くした。
「まあ、また大量に…お疲れ様です。すぐに査定しますね」
パチパチと算盤を弾く音が聞こえる間、俺は少し緊張しながら待っていた。昨日よりは落ち着いて挨拶できたけど、やっぱり知らない人との会話は緊張する。
「お待たせしました。ゴブリンの魔石120個で銀貨36枚、武器の買い取りで銀貨50枚。合計銀貨86枚になります」
「ありがとうございます!」
銀貨86枚。半日での仕事でこれは上等だろう。重い革袋を受け取ると、俺たちの生活基盤がぐっと安定した気がした。
宿に戻ると、俺はさっそく自分のステータスを確認した。
ギフトテイカーLV3、アビリティサイトLV1、アビリティリンクLV3、異空間LV2。
戦闘系は、棒術LV3 5/20、投擲LV3 6/20、短剣術LV3 4/20、弓術LV2、火魔法LV1 2/3、索敵LV2。
ゴブリンから奪いまくったおかげで、ぐんと数値が伸びている。でも、俺は頭を抱えて悩んでしまった。
沙希さんにも遠距離攻撃の手段を持っていてもらいたいんだ。今の彼女は剣術と身体能力が高いから近接特化だけど、数が多い時や安全に攻撃したい時に遠距離手段があれば生存率が跳ね上がる。そして今、俺の手元には弓術と火魔法の選択肢がある。
俺としては魔法を自分で使いたい。レベル1でライターの火だったとしても、これから育てればきっと強力な攻撃手段になるはずだ。
けど…沙希さんがとんがり帽子を被って、ヒラヒラのスカートを履いて、杖を振りながら魔法を使う姿が脳裏を過ぎった。「魔法少女サキ」…見たい。いや、絶対に可愛いに決まっている。
どっちを沙希さんに渡すべきか、俺はベッドの上で唸りながら悩んでいた。
「おい、何悩んでんだ? さっきからブツブツ言ってるぞ」
沙希さんが不思議そうに覗き込んでくる。
俺は恥ずかしいけど正直に話した。「沙希さんに遠距離攻撃の手段を持ってほしいなって思ってて。弓と魔法、どっちがいいかなって。魔法を俺が使いたいのもあるんですけど、沙希さんがとんがり帽子でヒラヒラのスカートを履いて魔法を使うのも見てみたいなって…」
俺が言い終わる前に、沙希さんは呆れたように溜息をついた。
「はぁ? 私が魔法を貰っても、そんなフリフリの格好なんてしねえぞ。普通に詠唱して火の玉飛ばすだけだ」
「えっ、着ないんですか?」
「着るわけねえだろ! 変態かお前は!」
夢の魔法少女サキは消えた。ちょっと残念だ。
「じゃあ、弓でいいですか?」
「ああ、それでいいぞ。矢が尽きなきゃ遠距離でもいけるしな」
沙希さんの言葉に、俺は短剣術と弓術のスキルを沙希さんに渡すことにした。魔法は俺の成長の糧にするんだ。
「じゃあ、スキル渡しますね」
俺は沙希さんに顔を近づけた。いつものキス。でも、ただの儀式じゃなくて、俺の気持ちも少しずつ込めたいと思っている。
唇が重なる。今日は少しだけ長く、濃厚に触れ合った。沙希さんも驚いたように目を開いたけど、すぐにそっと目を閉じて受け入れてくれた。
唇を離すと、沙希さんも自分のステータスを確認していた。
「うお、結構充実してきたな。剣術LV3に短剣術LV3、弓術LV2か。身体能力も底上げされてるし」
「俺もLV4、超人の域になるのが楽しみです」
「ああ、楽しみだな」
俺たちは武器屋へ向かった。沙希さんの新しい弓を買うためだ。俺も新しい杖…いや、魔法の練習用の何かを探したかったけど、今はまだレベル1だし保留にした。
沙希さんが試し引きをする弓を選ぶのを横で見ているだけで、なんだかドキドキした。一緒に店を回って、欲しいものを選んで、食事をして、宿に帰る。これって、デートだな。俺たちはただのパーティメンバーだけど、すごく楽しい。
「楽しいな」と思っていると、雑踏の中に見覚えのある顔を見つけた。
クラスで見たことある女子だ。名前は知らないけど、いつも大人しい子だったはずだ。
彼女が、無愛想な冒険者の男に連れられて、薄暗い路地裏へ入っていくのが見えた。
無理矢理なら止めないといけない。俺は咄嗟にそう思い、沙希さんと顔を見合わせてから、路地裏を覗き込んだ。
そこで目にした光景に、俺は言葉を失った。
彼女は男の股間に顔を埋め、小刻みに頭を揺らしていた。
無理やりされている様子じゃない。彼女自身が進んでやっているように見えた。
「うっ…」男が短く呻き、彼女が離れる。
男が銀貨1枚を投げて渡すのを、彼女は無表情で拾い上げた。
俺と沙希さんは二人でその光景を見て、無言でその場を離れた。
名前も知らないけど、顔見知りのあの子が、そういう風に生きている事実が心にチクリと刺さる。
無言で宿への道を歩く。沙希さんも何も言わない。ただ、俺の手をぎゅっと握ってくれていた。
その温もりだけが、俺の胸の冷たい穴を少しだけ埋めてくれた気がした。




