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クラスごと異世界召喚されたボッチのオタクとヤンキー女子、パーティ編成でクラスメイトにハブられて2人だけで異世界を生き残る  作者: ミコ


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あぶれた2人

クラスメイトたちの申告が、順番に始まった。


「剣術、レベル3です」

「槍術、レベル3」

「回復魔法、レベル2」

「火魔法、レベル2」


男子も女子も、口々に自分のスキルを叫んでいく。その声には、最初の恐怖が抜け、どこか興奮の響きが混じっていた。王の威圧や兵士の暴力に震え上がっていたはずの連中が、自分の手にした力を確認した途端、この異常な状況に高揚し始めているのが分かった。剣術に魔法、回復。いかにもファンタジーだ。それに、全員がレベル2以上である。どいつもこいつも、一つしかスキルを持っていないくせに、その数値が予想以上に高いことに驚きと自信を滲ませていた。


俺の番が回ってきた。

心臓が早鐘を打つ。喉がカラカラに乾いて、舌が上顎に張り付くようだ。俺のスキルは三つある。アビリティサイト、ギフトテイカー、アビリティリンク。だが、本当にこれを全部申告していいのか? 特にギフトテイカーなど、「奪う」能力だ。そんな物騒な名前を、あの偉そうな王や、暴力を振るう兵士たちの前で堂々と叫ぶなど、自殺行為に等しい。目立ってはいけない。ハズレだと思わせて、ひっそり生き延びるのが賢明だ。


だが、緊張の極限状態で、俺の口は思考通りには動いてくれなかった。


「ぎ、ギフト…テイカー、レベル1…です」


吃った。最悪だ。情けない声で、しかも三つのうちで一番物騒なものだけを申告してしまった。アビリティサイトもリンクも言いそびれた。


兵士の一人が、俺の顔を見て鼻を鳴らした。

「なんだ、レベル1のハズレか」


その一言が、俺の胸に突き刺さった。周囲からも、安堵と蔑みが入り混じった視線が突き刺さる。「あいつよりはマシだ」「やっぱりモブだな」という、言葉にならない嘲笑が聞こえてきそうだ。俺は顔を伏め、熱くなる目頭を噛み締めた。


そして、隣の番が来た。市橋沙希さんだ。


彼女は相変わらず頬杖をついたまま、気だるげに、しかし迷いのない声で言った。

「…殴る、レベル2」


一瞬、広間が静まり返った。「殴る」? それはスキルなのか? 素手で殴るだけ? 陽キャ男子の一人がプッと吹き出し、それを皮切りにクスクスという笑い声が漏れ出す。兵士も呆れたように眉をひそめ、「ハズレか」と俺の時と同じ言葉を彼女に投げつけた。


市橋さんは、周囲の嘲笑にも兵士の侮蔑にも、一切反応しなかった。ただ、氷のように冷たい瞳で前方を見つめているだけだ。その横顔は、怒りでも恥辱でもなく、ただただ深い無関心に包まれていた。俺は、彼女と同じ「ハズレ」の烙印を押された者として、言葉にならない敗北感を共有しているような錯覚に陥った。


申告が終わると、王が満足げに頷き、玉座から退こうとした。代わりに、側に控えていた猫背の老人――大臣らしい男が一歩前に出てきて、この世界の残酷なルールを語り始めた。


「いいか、諸君。この世界は壁に守られた街のみが安全地帯だ。壁の外には、お前たちを喰らおうとする魔物がウジャウジャ這いずり回っている」


老人の声は、乾いていて、どこか楽しげですらあった。

「お前たちの仕事は、その魔物の討伐だ。冒険者ギルドに登録しろ。討伐した魔物から魔石を取り出し、ギルドに買い取ってもらう。それがお前たちの唯一の収入源だ。衣食住は自分で稼げ」


自給自足。いきなりサバイバルゲームへの参加を強要されたのだ。


「そして、最も重要なことだ」


老人は一際声を低くし、ニヤリと笑った。

「この世界において、強さとはスキルレベルが全てだ。レベル1は、素人に毛が生えた程度。レベル2でようやく中級者、レベル3は達人、レベル4は超人。そしてレベル5に至れば、それは伝説となる」


俺は息を呑んだ。そして、続く言葉に絶望した。


「レベルは、最初に決定した数字から一切成長しない。何百人を殺そうと、何千年生きようと、レベル1は永遠にレベル1だ。お前たちは、今与えられたスキルとレベルそのままで、この世界を生きていくしかないのだ」


絶望が、泥沼のように俺の心を満たしていった。

成長しない。レベル上げがない。俺の知っているゲームやライトノベルの常識が、根底から覆された。レベル1は素人に毛が生えた程度。そして永遠に素人のまま。これは死刑宣告と同じではないか。


そして、俺は己の最悪の勘違いに気づいた。

ギフトテイカー。奪う力。俺はてっきり、レベル2や3の強力なスキルを奪えるのだと早とちりしていた。だが、この世界の法理に照らし合わせれば、それはあり得ない。

レベル1の俺が扱えるのは、レベル1の力だけだ。奪えるとしたら、素人に毛が生えた程度のスキルしか奪えないのではないか?


確かめるしかなかった。俺は震える手で、近くにいた名前も知らない男子の背中に人差し指を向け、心の中で強く念じた。彼が持っていた「短剣術LV2」を奪え。ギフトテイカー、発動。


…何も起きなかった。

指先から力が流出する感覚も、男子が弱々しくなる気配もない。何の変化もない。

マジか。やっぱりか。レベル1のスキルでは、レベル2のスキルを奪うことなど不可能なのだ。

完全にハズレだ。あの兵士が蔑んだ目で見るわけだ。このスキルは、ただのラベルで、中身は空っぽのゴミ箱みたいなものだ。俺は、居心地の悪い教室の隅ですらなかった。ここでは、生きる価値すらない欠陥品だ。


説明が終わると、今度はパーティ編成の命令が下された。

「冒険者の基本はパーティだ。5人1組で行動しろ。今すぐ5人ずつのパーティを組め!」


老人が号令をかける瞬間、教室――いや、広間の空気が激しく動いた。

クラスの中心人物である男子たちが、即座に有力なスキルを持つ者を集め始める。回復魔法持ちの女子は引く手数多だ。剣術レベル3がリーダー格になり、火魔法や槍術がそれに続く。陽キャたちは、元からの交友関係をベースに、効率の良い戦力を組み上げていく。


俺は、その喧騒の中で凍りついていた。

ヤバい。このクラスは32人だ。5人で6組作っても、30人しかいない。2人は必ずあぶれる。

早く声をかけないと。誰でもいい、レベル1の俺でも受け入れてくれるところを探さないと。そう思うのに、身体が動かない。喉が引きつって、音が出ない。

対人恐怖症の鉄壁が、この極限状態でも俺を支配している。今ここで話しかけられるなら、今までの高校生活で話しかけられていたはずだ。1ヶ月間、隣の席の女子にすら「おはよう」と言えなかった人間が、命の選別の最中に突然コミュニケーション能力を発揮するわけがない。


「おい、お前レベル1だっけ? ごめん、枠埋まっちゃった」

「悪いな、戦力にならなさそうだし」


明確な拒絶はない。ただ、全員が俺という存在をスルーしていく。俺が声をかけようと一歩踏み出す前に、枠は埋まっていく。まるで、避けられている空気感染症患者のように、誰も俺の周りだけ空白を残してパーティを形成していく。


そして、数分もしないうちに、6つのパーティが完成した。


残されたのは、教室の最後尾、窓際の席にいた二人だけだった。

俺と、市橋沙希さん。


大臣の男が、残った俺たちを冷ややかに見下ろした。

「おやおや。レベル1と、殴るレベル2の奴か。使い道がないな」


その言葉に、クラスメイトたちの視線が一斉に集まる。そこには同情などなく、ただ「自分たちじゃなくてよかった」という安堵だけがあった。


「お前たちは、勝手に冒険者ギルドに行って仕事してこい。掃き溜めの魔物の一匹くらいは、差し違えて死ねよ」


極限の侮蔑。死ねよ。その言葉が、老人の口から軽く吐き捨てられた。兵士たちは笑い、クラスメイトたちも気まずそうに、しかし否定もせずに黙っている。


俺は、すがるような思いでクラスメイトたちを見た。

「助けてくれ」とは言えなかったが、視線だけは訴えていた。俺たちは同じ日本人だ、同じクラスの仲間だろう? なのに、俺と目が合った瞬間、彼らは揃って目を逸らした。元から関わりのなかったモブを助ける勇気も、余裕も、彼らにはない。彼らは彼らの生存と利益のために結束し、俺たちという厄介払いを切り捨てたのだ。


「さあ、行け!」


兵士に背中を強く押され、俺は石段につまずきそうになりながら前へ出た。市橋さんも、無言で俺の隣を歩き出す。


重厚な城門が、ギギギと音を立てて開かれた。

外から吹き込んできたのは、生暖かく、血と鉄の錆びたような臭いが混じった風だった。眩しい太陽の光の下に広がっていたのは、整備された街路ではなく、荒れ果てた大地と、遠くにうっすらと見える黒い森の影だった。


俺たちは、文字通り、裸一貫で異世界の荒野に放り出されたのだ。


城門が背後でドン!と閉まる音が、俺たちと「元クラスメイト」との縁を永久に断ち切った。


俺は足が震えていた。恐怖と絶望で、その場にへたり込みそうになる。レベル1のハズレスキル。成長なしのルール。相棒は、コミュニケーション不可能な俺と、「殴る」しか能のないヤンキー女子。この理不尽な世界で、俺たちは明日の朝日を拝むことすらできないかもしれない。


だが、ふと横を見ると、市橋さんが立っていた。彼女は閉ざされた城門を一度だけ振り返り、そして前を向いた。スカートの丈の短い制服が、荒野の風にはためく。


「…チッ」


彼女が小さく舌打ちをした。

それだけだった。泣き言も、愚痴も、俺への八つ当たりもない。ただ、俺の方を見もせずに、彼女は乾いた大地の上に一歩を踏み出した。


俺は、その小さな、しかし迷いのない背中を見つめた。

クラスで誰もが恐れ、関わりを持たなかった女子。今、俺と彼女だけが、同じ「ハズレ」としてこの地獄に立っている。


「あ、あの…」


俺は必死で、震える喉から声を絞り出した。1ヶ月間、出せなかった声を。


市橋さんは立ち止まり、初めて俺の方を振り返った。その瞳は、教室で見ていた時と同じく冷ややかだったが、どこか死に急ぐような絶望感はなく、ただ現実を冷徹に見つめている光を宿していた。


「なんだよ」


短い、低い声。やはり怖い。でも、今ここで引くわけにはいかなかった。俺たちが生き延びるには、この人と協力するしかないのだから。


「あ、冒険者ギルド…どこか、分かんないすよね。一緒に、探さないっすか?」


酷く情けない、吃った声だった。でも、市橋さんは一瞬だけ目を丸くし、すぐに興味なさそうに視線を前方に戻した。


「…死にたくなきゃ、ついてくれば?」


彼女はそれだけ言うと、また歩き出した。

その背中は、不思議と頼もしく見えた。俺は、ズボンのポケットに突っ込んでいた両手を握りしめ、彼女の後を追った。


レベル1のモブと、殴るだけのヤンキー。

最弱の2人が織りなす、過酷な異世界サバイバルが、今、始まろうとしていた。

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