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クラスごと異世界召喚されたボッチのオタクとヤンキー女子、パーティ編成でクラスメイトにハブられて2人だけで異世界を生き残る  作者: ミコ


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異世界召喚

俺の名前は大野拓也おおのたくや


高校に入学してから、ちょうど一ヶ月が過ぎようとしていた。黄金週間の連休明け、初日の朝。教室の空気はどこか浮ついていて、休みぼけした顔をしたクラスメイトたちが、出欠確認のHRを待ちわびるように机に突っ伏している。そんな彼らの輪から外れた、教室の最後尾。窓際の席が、俺の城であり、檻だった。


俺は人見知りが激しい。いや、激しいという言葉すら生ぬるい。対人アレルギーと呼ぶべきかもしれない。新しい環境に入れば、他人の視線が痛いほどに肌に刺さり、どう挨拶していいか、どこに視線を合わせていいかも分からず、ただ喉の奥が引きつって声が出なくなる。中学校の頃からずっとそうだった。教室の隅で本を読み、休み時間も一人で過ごし、放課後は真っ先に帰宅する。いわゆる「ぼっち」というやつだ。加えて俺はオタクだ。ライトノベルやアニメ、ゲームの世界にしか救いを見出せない陰キャだ。現実は灰色で、二次元だけが鮮やかだなんて、ありふれたセリフが今の俺には這うほどの真実としてのしかかっている。


だから、入学して一ヶ月経っても、俺はクラスの誰とも言葉を交わしていなかった。隣の席の奴に「よろしくな」とか「消しゴム借して」とか、そんな当たり前のコミュニケーションすら放棄して、ただ息を潛めるように毎日を生き延びていた。


その隣の席には、市橋沙希いちはしさきさんが座っている。


彼女は、このクラスどころか学年全体でも一目置かれる存在だった。染められた茶髪は校則ギリギリの明るさで、スカートはいつも短く、制服のリボンはだらしなく緩んでいる。授業は頻繁にサボり、遅刻常習犯。

男子からは「怖いけど何か色気がある」、女子からは「ああいうヤンキー女子には関わらない方がいい」と陰口を叩かれているような人物だ。


俺にとって彼女は、ラノベに出てくる「クラスの問題児」のテンプレそのものに見えたが、残念ながら俺は彼女と交流を持つ主人公の役回りではない。ただの背景モブだ。だから、隣に座っているという事実だけで、俺の心拍数は常に常時より少し高かった。声をかけようか、と迷うこともあった。「おはよう」と一言、それだけで俺の人間関係は劇的に改善されるかもしれない。だが、いざ彼女の横顔に視線を向けると、その冷ややかな瞳や、眉間に寄った皺に気圧されて、喉の奥から言葉が蒸発してしまう。結局、俺は一年間、隣の席の住人と一言も話せないまま終わるのだろうと、半ば諦めていた。


その日の朝は、いつもと少し様子が違っていた。


珍しく、市橋さんが朝から教室にいたのだ。頬杖をつき、窓の外をぼんやりと眺めている。サボりの常習犯が、連休明けの気だるい朝にきちんと登校しているという事実が、些か不可思議だったが、俺には関わりのないことだ。俺もまた、無言で自分の席に着いた。カバンを机の横に掛け、チョークの粉の匂いが染み付いた窓を少しだけ開け、朝の冷たい空気を吸い込む。日常だ。何の変哲もない、退屈で、安全な日常。


だが、その日常は唐突に裂かれた。


ホームルームが始まる直前、クラスの全員が登校し、ざわめきが教室を満たした瞬間だった。突然、教室全体が白い光に包まれた。窓から差し込む朝日とは違う。空間そのものが発光したかのような、網膜を焼くほどの強烈な白。眩暫まばゆさに思わず目を閉じる。身体が浮遊するような、重力の不安定な感覚。何が起きているのか理解する間もなく、世界が回転し、俺の意識は白い深淵へと落ちていった。


次に目を開けた時、そこはもう教室ではなかった。


コンクリートの床は冷たい石に変わり、天井は高く、見上げるほどのアーチ状になっていた。壁には見慣れない紋章が刻まれ、松明がオレンジ色の揺らめく光を投げかけている。どこかの中世ヨーロッパの城、それも王城の大広間のような場所に、俺たちは放り出されていた。


クラスメイトたちは混乱していた。悲鳴を上げる者、顔を青ざめて周囲を見回す者、腰を抜かして座り込む者。騒然とする中、俺は一人だけ、冷静に状況を分析していた。いや、冷静ではなかったかもしれない。心臓は早鐘を打っていたが、その鼓動の理由は恐怖ではなく、ある種の信じ難い歓喜だった。


(異世界転移だ!)


俺の脳裏に、それまで読んできた数百冊のライトノベルの知識が一気に流入してきた。教室ごと異世界に飛ばされるという、王道中の王道。間違いない、俺たちは異世界に呼ばれたのだ。


もしかして、俺が勇者になるのか! その考えが閃いた瞬間、俺の口元が歪みそうになった。ずっと現実で報われなかった俺が、ついに選ばれた存在になる時が来たのか。クラスの中心で笑う陽キャたちがここでは無力で、オタク知識を武器に大活躍する俺。そんな下衆な劣等感の裏返しのような妄想が、一瞬で頭を満たした。


大広間の奥、一段高い祭壇のような場所に、玉座があった。そこに座っていたのは、赤いマントを羽織った壮年の男だ。頭には金細工の冠を戴き、威圧的な表情で俺たちを見下ろしている。


(来た!)


俺は内心で拳を握った。次は王様が出てきて、こう言うはずだ。「おお、勇者たちよ。我が国は今、魔王の脅威にさらされている。どうか、その力で魔王を討伐してくれ!」と。俺はほらなと得意げになる。俺の知っている物語の通りだ。俺たちはチート能力を与えられ、レベル上げの旅に出る。そう信じて疑わなかった。


だが、男が口を開いて発した言葉は、俺の甘い予想を無惨に打ち砕くものだった。


「――聞け、異世界の者たちよ」


男の声は低く、大広間の石壁に反響して響き渡った。その響きには、歓迎の色など微塵もなく、あるのは傲慢と侮蔑だけだった。


「お前たちはこの国の戦力として召喚した。外には魔物が跋扈ばっこし、我らは日々血を流している。お前たちは、その魔物と戦う戦闘員として呼んだのだ」


戦闘員。その単語が俺の脳を鈍器で殴ったような衝撃を与えた。勇者じゃない? 魔王を倒す選ばれし存在じゃない? ただの、使い捨ての兵士?


「異世界人は稀に、この世界の理を超えたすごいスキルを持ってくることがある。それが我らの求めるところだ。…お前たち、今すぐ自分のスキルを確認して報告するんだ」


男は玉座から身を乗り出し、まるで家畜に号令をかける農夫のように、かなり偉そうに言い放った。


静寂が落ちたのは一瞬だった。すぐに、クラスの中心人物である男子たちが声を上げた。


「なんで言うこと聞かなきゃいけないんだよ!」

「早く元の世界に戻せよ!」


彼らの怒号は当然の反応だ。突然見知らぬ場所に連れてこられ、理不尽な命令を下されれば、誰だって反発する。陽キャたちは連帯感を頼りに、王に向かって吠えた。


だが、その反発は、すぐに暴力によって鎮圧された。


「言うことを聞け!」


王の合図と共に、周囲に配置されていた甲冑を着込んだ兵士たちが動いた。鈍い音が響く。兵士の鉄の籠手が、先頭で叫んでいた男子の腹を深々と突き刺したのだ。彼は苦悶の声を上げて床に崩れ落ちた。さらに、別の男子が兵士の剣の柄で顔面を殴られ、鼻血を流してうずくまる。


「ひっ!」


女子の悲鳴が上がり、クラスの空気は一気に凍りついた。暴力の前で、十代の少年たちは為す術もなく押し黙る。血の匂いと、石の冷たさが、ここが安全な日本ではないことを痛感させた。


俺は、その光景を呆然と見つめていた。(えっ、勇者の召喚じゃないの?)その疑問が頭の中でリフレインしたが、口に出すことなど到底できなかった。出せば、あの男子たちのように殴られるのは目に見えている。現実は、ネット小説のように甘くはない。ここは、暴力と力が支配する本物の異世界だ。


王は冷ややかな視線でクラスを一巡させると、淡々と告げた。


「『ステータス』と唱えよ。そうすれば自身のスキルが分かる」


その言葉に、誰もが震える声で「ステータス」と唱えた。俺も、乾いた唇を震わせながら、小さくその言葉を呟いた。


「…ステータス」


視界の前に、半透明の青白い光の板が出現した。ホログラムのようなその表示には、俺の名前と共に、三つのスキル名が浮かび上がっていた。


大野拓也

スキル:アビリティサイトLV1

    ギフトテイカーLV1

    アビリティリンクLV1


アビリティサイト。ギフトテイカー。アビリティリンク。


俺はその言葉の意味を反芻した。アビリティサイトとは、他者の能力やスキル、あるいは弱点などを見通す目。ギフトテイカーとは、贈り物を奪う者……いや、この文脈なら「能力を奪う者」と解釈するのが妥当か。


心臓が早鐘を打った。今度の鼓動の理由は、紛れもない歓喜だった。


これは…チートじゃないか?


目で見て、奪う。レベル1とはいえ、このスキルの組み合わせが意味するところは明確だ。俺は他者の強力な能力を識別し、それを我が物とすることができる。ただの戦闘員としての召喚? 使い捨ての駒? 違う。そう捉えるのは王様だ。俺にとって、この状況はむしろ、下剋上の好機だ。


クラスメイトたちが武勇伝を語る陽キャたちが、ある日突然、自分の力を失い、代わりに俺がその力を手に入れる。そんな物語が脳裏に過る。これなら、誰とも話せなかった俺が、頂点に立つことも夢じゃない。


俺は周囲のクラスメイトたちが自分のスキルに絶望したり、歓喜したりする様子を横目で見ながら、ふと隣に視線を向けた。そこには、市橋沙希さんの姿があった。


彼女だけが、クラスの誰よりも冷静だった。頬杖をついたまま、薄い唇を少し歪め、王と兵士を冷ややかな目で見つめている。殴られた男子を助けようとするわけでもなく、かといって恐怖に怯えるわけでもない。まるで、この理不尽な状況すらも予見していたかのような、あるいは、彼女のいた世界ではこれが日常茶飯事だったかのような、鋭い瞳をしていた。


市橋さんの目の前にも、半透明の板が浮かんでいるはずだ。彼女は何と言うスキルを持っているのだろう。アビリティサイトがあれば、それを知ることは簡単だ。だが、今ここで発動すれば、俺がただならぬ能力を持っていることが周囲に露見する。王や兵士たちに目をつけられるリスクもある。まだ、このスキルを知るのは俺一人でいい。


俺は視線を市橋さんから外し、再び自分のステータス板を見つめた。アビリティサイトLV1。ギフトテイカーLV1。アビリティリンクLV1。


奪う力。それは、俺がこの残酷な異世界で生き抜くための、唯一の武器だ。


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