索敵LV2
俺は決意していた。沙希さんにふさわしい男になって、いつか告白しようと。
この極度の人見知りをどうにかしたら、一人前になれるのだろうか。あいつらみたいに、平気で人を蹴落としたり、脅したりできる度胸なんて要らない。でも、沙希さんを守れる強さだけは絶対に手に入れたい。
朝、沙希さんが洗面所から戻ってくるのを待って、俺は今後の予定を切り出した。
「沙希さん、これからのことなんですけど」
彼女は髪を拭きながら、怪訝な顔をした。「どうした? なんか改まって」
「いや、ちょっと考えたんです。とりあえず、お金に余裕が出たので、しばらくはゴブリン狩りをして、俺の棒術と沙希さんの短剣術、それに投擲をレベル4にしたいんです。それで掲示板にスケルトンの依頼が出れば、剣術スキルも上げていくって感じでどうでしょう?」
俺の提案に、沙希さんは髪を拭く手を止めて頷いた。
「それでいいぞ。基礎を固めるのが先決だしな。金もそこそこ稼げるだろうし」
「ありがとうございます!」
内心、俺は小さくガッツポーズをした。短剣術を沙希さんに渡すためには、毎日キスが必要だ。それが一番のモチベーションになっているのは否定できないが、それを口に出すわけにはいかない。
俺たちは街の壁の外へ出て、いつもの森へ向かった。
だが、様子がおかしかった。ゴブリンはもっといたはずなのに、索敵スキルを展開しても反応がほとんどない。時折感じる微弱な気配も、すぐに消えてしまう。
「変だな。静かすぎる」沙希さんが周囲を警戒しながら呟く。
「ええ。もっと奥に行ってみましょう」
俺たちは森の深部へと足を進めた。すると、索敵に5つの生体反応が引っかかった。ゴブリンではない。人間だ。こっそりと近づいて様子を窺う。
木陰から見えたのは、元クラスメイトのパーティだった。中心にいるのは、剣術LV3を持っている男。こいつだ。使えないクラスメイトを見捨てて、夜逃げした奴だ。他の4人はこいつに追従していた連中だ。
彼らは効率よくゴブリンを狩っていた。見捨てたはずの弱者がついていけない速度で、ゴブリンを駆逐している。コイツらがゴブリンを根絶やしにしていたのか。俺たちみたいに他のクラスメイトも見捨てて、奴らは安全な場所で稼いでいたのか。
腹の底からドス黒い感情が湧き上がってきたけれど、俺はそれを押し殺した。関わればろくなことにならない。それに、今の俺たちには奴らと争う理由はない。
「沙希さん、狩場が被ってますね。反対側に移動しましょう」
俺は小声で提案した。
沙希さんも俺の意図を汲み取ってくれたらしく、「そうだな。アイツらには関わり合いたくないしな」と同意してくれた。
奴らに見つからないように、俺たちは来た道を引き返し、森の反対側へと向かった。
「時間をロスしましたね」と俺が言うと、「仕方ねえよ」と沙希さんが慰めてくれた。
反対側の森に入り、再び索敵スキルを展開しながら歩いていく。
すると、2つの生体反応があった。と思った瞬間、その反応が凄まじいスピードでこっちに向かってくるのが分かった。
「沙希さん、敵です! 走ってきます! 多分、向こうも索敵スキルを持ってますね!」
俺が叫ぶのとほぼ同時に、茂みを突き破って二体の魔物が飛び出してきた。
オオカミのような魔物だったが、今まで遭遇した個体よりも一回り大きく、毛並みが違う。銀色の毛が淡く発光していて、明らかに下位種とは別物だ。そして何より速い。
「奪うまで倒さないでください!」俺が叫びながらギフトテイカーを発動する。
オオカミたちは俺たちを狙って威嚇してきた。鋭い牙が剥き出しになり、低い唸り声が響く。だが、俺の視界にはスキルの文字が浮かんでいる。
【索敵LV1】
ズルリとした感触。オオカミたちの動きが一瞬だけ止まる。俺は即座に沙希さんに伝えた。
「沙希さん、奪いました! もう倒していいですよ!」
その言葉を聞くや否や、沙希さんが地を蹴った。
剣術LV3の身体能力が爆発する。威嚇していたオオカミの目の前に一瞬で移動し、腰の剣を抜き放つ。
銀色の閃きが森の中を走った。
一匹目が喉を貫かれ、声も出せずに崩れ落ちる。もう一匹が反応して飛び退こうとするが、沙希さんはそれよりも速く踏み込んでいた。逆手に持った剣が、二匹目の頭蓋を深々と貫く。
「はっ…」
俺は思わず息を呑んだ。
瞬殺だ。ビッグボアの時みたいな奇襲じゃない。真正面から、圧倒的な技量で仕留めた。剣術LV3はこんなにも凄いのか。沙希さんの戦う姿は、ただただ美しかった。
沙希さんが剣を振って血を払い、鞘に納めるのを見届けてから、俺は自分のステータスを確認した。
すると、予想外の変化があった。
「あっ、沙希さん! 索敵の範囲が広がりました! レベルが上がってLV2になってます。多分半径500メートルくらいまで探知できますよ!」
索敵LV2になった感覚は、まるで霧が晴れたようだった。さっきまでは「あっちに何かいる」程度の大雑把な気配だったのに、今ははっきりと「そこに何がいて、どれくらいの大きさで、どんな風に動いているか」が手に取るように分かる。これなら不意打ちされる心配はほとんどないだろう。
「これで狩りの効率と安全が飛躍的に良くなりますよ!」俺は興奮気味に言った。
沙希さんは目を丸くしてから、ニカッと笑った。
「さすが拓也だな! すげえじゃねえか!」
その笑顔と言葉が、俺の胸にストレートに突き刺さった。俺に尻尾があったら、間違いなくブンブン振っているだろう。沙希さんに褒められるのがこんなに嬉しいなんて。守られるだけじゃなくて、俺も沙希さんの力になれているんだと実感できた。
「へへ…ありがとうございます! さあ、ゴブリンを探しましょう!」
俺たちは俄然やる気になって、狩りを再開した。索敵LV2の威力は絶大だった。近づいてくる魔物の気配をいち早く察知し、先制攻撃を仕掛けることができる。俺の投擲で牽制し、近づいてきたところを沙希さんが剣で仕留める。完璧な連携だ。
俺は心の中で誓った。絶対に強くなって、沙希さんにふさわしい男になってやる。そしていつか、この想いを伝えよう。




