沙希視点
高校に入って一ヶ月。私はクラスに馴染めないでいた。
いや、馴染もうとする努力を放棄していたと言った方が正しいかもしれない。
私の母親は、どうしようもないダメ人間だ。昼はパチンコ店に出入りし、夜になればホストのいるお店へ飲み歩いて、家には帰ってこない。お父さんが振り込んでくれる養育費も、国から支給される母子手当も、あいつの財布には決して長く留まらない。
それでも足りないと知ると、あいつは私に言った。「お前も稼いで来い」と。
中学生にもなれば、働ける場所はある。私はいくつものバイトを掛け持ちし、学校が終われば制服のままコンビニへ、休日は居酒屋の皿洗いへと向かった。毎日が眠い。授業中に机に突っ伏しているうちに、気づけば私は「学校をサボっているヤンキー」というレッテルを貼られていた。
友達なんてできるはずもない。誰も私の事情なんて知らないし、知ろうともしない。
だから、あの白い光に包まれた時、私は心のどこかで安堵していた。
なんか異世界に飛ばされて、元の世界に帰れないって?
やった。これであの女から逃げられる。
私の人生が、ここからやり直せるかもしれないと期待した。
クラスのみんなと今から仲良くできたら、なんて淡い希望も抱いていた。
でも、現実は甘くなかった。あの優等生タイプの男子や、目立っていた女子たちが中心となって秩序を作り上げようとする中、私みたいな異物は排除される運命にあったのだ。
なんかオドオドした頼りなさそうな奴——拓也と、二人で城を追い出されてしまった。
死にたくはなかった。
こんな奴でも壁くらいにはなるか。最悪、魔物が来たら彼を囮にして逃げればいい。そう打算付きで連れて行った。
けど、コイツのスキルは凄かった。スキルを奪える? スキルを譲渡できる?
今まで聞いた情報を整理しても、コイツの「ギフトテイカー」はこの世界で最強じゃないのか?
コイツについて行けば生き残れる。そう確信した。
利用してやろう。私の剣になってくれればいい。
私に剣術スキルをくれた時は驚いた。何の見返りもなしに。
キスはされたけど、あれだってスキル移動には必要な儀式だと言っていた。
こんな凄いスキル、「使ってやるから身体をよこせ」って言われてもおかしくないと思っていたのに。
新しく手に入れたスキルも、「私が欲しい」って言えばすぐにくれる。
コイツの狙いはなんだ?
何で見返りを要求しないんだ?
そう思って観察していると、コイツは頻繁に私の身体をチラチラと見ていることに気づいた。
少し揺さぶってみるか。
お湯で身体を拭く時に背中を拭きあいっこしてみた。
これで襲ってきたら、コイツの本性がわかるだろう。私の身体を目的にしていたんだと分かれば、利用するのも簡単になる。
けど…チラチラ胸を見るだけで襲ってこない。
「あまり見るなよ」って言うと、慌てて目を逸らすし、背中を拭く手つきは丁寧で優しい。
コイツは本当に私を仲間として見ているんだと悟った。ムッツリスケベだけど、根はいい奴なんだろう。
そうなると話は変わってくる。
私は拓也に捨てられたくないと思ってしまった。
他のクラスメイトの女子たちはまだ拓也のスキルに気づいていない。今は私と拓也が追い出されたことを笑っているかもしれないが、もし拓也の有能さに気づいてしまえば、必ず身体を使ってでも引き込もうとするだろう。
あいつらならやりかねない。
阻止しなければ。元クラスメイトに拓也の事がバレないようにしなければ。
昨日、拓也が私を守ってくれた時は嬉しかった。
足を震わせながらも、私の前に立ちはだかってくれたあの姿。
私のために怒鳴ってくれたあの声。
どうしたら喜ぶだろうと考えて、おっぱいを顔に押しつけてみた。
「おっぱい好きだろ」と言った時の自分の心臓の音がすごくうるさかった。
でも、喜んでくれたみたいだし…私も嬉しくなった。
そして、その日の夜のことだ。
ゴソゴソと何かしながら私の名前を呼んでいる。
「沙希さん…沙希さん…」
最初は何をしているのか分からなかったけれど、あの息遣いと雰囲気で直ぐに理解した。
これってアレだよね。アレしてるんだよね。
寝たふりをしながら、ずっと聞いていた。心臓がうるさくてバレないか心配だったけど。
私の名前を呼びながら…私のことを考えながらしてるんだ。
朝起きると、拓也の顔が直視できなかった。
私のことを考えながらイっていたってことは…好きってことだよね?
私もどんどん拓也が好きになっていく気がする。
昨日守ってくれた時も、おっぱい押し付けた時も、昨晩のことも全部ひっくるめて。
ずっと2人でこの世界で生きていけたらいいな。
「沙希さん、今日も頑張りましょうね!」
拓也が元気よく言う。こいつ、絶対自覚ないな。昨晩のこと気づいてないのか?
まあいい。私が知ってるだけで十分だ。
「…おう。そうだな」
私は少し顔が熱くなるのを感じながらも、拓也と一緒に部屋を出た。




