バレた自慰
「拓也、こっち来い」
ベッドに腰掛けたまま、沙希さんがそう言った。俺はまだ足の震えが完全には引かないまま、おずおずと彼女の隣に腰を下ろした。
次の瞬間、ふわりと温かい感触に包まれた。沙希さんが俺を抱きしめてくれたのだ。
彼女の腕が背中に回り、俺の顔は否応なく彼女の胸元に押し付けられた。柔らかくて、弾力があって、何より沙希さんの体温が直接伝わってくる。シャツ越しとはいえ、そこはまぎれもなくおっぱいだ。さっきまでの緊張と恐怖が、温水に浸かったように溶けていく感覚だった。
「よく頑張ったな、拓也」
そう言いながら、沙希さんはずっと抱きしめていてくれた。背中をポンポンと叩くリズムが、まるで母親に甘える子供のように俺を安心させた。
「…拓也、おっぱい好きだろ」
耳元で囁かれた声は、少し躊躇いがちだった。「今日だけは許してやる」
言いながら、沙希さんの顔が熱を帯びているのが分かった。俺も顔が沸騰しそうなほど熱い。でも、この心地よい柔らかさから逃げ出すことなんてできるはずもなく、俺は言われるがままに、彼女の胸に顔を埋め続けた。匂いも、温もりも、全部が愛おしかった。
しばらく堪能した後、「もういいか?」と少し恥ずかしそうな声で聞かれたので、俺は名残惜しさを堪え、そっと身を離した。
「ありがとうございます」
俺がお礼を言うと、震えはすっかり止まっていた。
「良かった」
沙希さんは安堵したように笑顔になった。その笑顔が、俺にとって何よりも救いだった。
けれど、震えが止まって落ち着きを取り戻すと、今度は昼間に考えていたことが切実な問題として頭をもたげてきた。
抜きたい。
この世界に来てから一度もしていない。沙希さんという魅力的な存在がすぐそばにいる環境で、しかも毎日一緒に寝起きしているのだ。生理的な欲求は、安全と安らぎを得た反動も手伝って、限界点に達しようとしていた。
どうにか一人になれないか。その機会を窺っていたが、沙希さんと行動を共にしている限り、そんな隙は訪れない。そのまま夕食を済ませ、就寝の時間になってしまった。
布団に入り、横で沙希さんが寝息を立て始める。規則正しい寝息。熟睡しているようだ。
こっそりやったらバレないだろうか?
俺は闇の中でゴクリと唾を飲み込んだ。あっ、ティッシュはないよな。異空間に入れた手拭いで受け止めるか。後で洗って乾かせばバレないはずだ。
理性の堤防が決壊した。もう我慢できずに、ゴソゴソと布団の中でパンツに手を入れた。
当然、オカズは沙希さんだ。目を閉じれば、昼間の抱きしめられた時の感触が蘇る。あの柔らかさ、あの温もり、そして「今日だけは許してやる」と言った時の彼女の赤らんだ顔。
「沙希さん…沙希さん…」
小さな声で名前を呟きながら、俺はフィニッシュした。
隣の沙希さんの顔が、布団に潛って熱を持っていることにも、俺は全く気づかないままだった。
翌朝。
目を覚ますと、沙希さんの様子が妙におかしかった。
いつもなら「朝だぞ、変態」と元気に(あるいは呆れたように)起こしてくれるのに、今日は背中を向けたままモジモジとしている。
「沙希さん、おはようございます」
俺が声をかけると、彼女はビクッと肩を震わせ、ゆっくりとこちらを向いた。
「お、おはよ……」
顔が真っ赤だ。耳まで茹で上がったように赤くなっている。視線も定まらず、俺の目をまともに見てくれない。
俺はというと、昨夜の行為を沙希さんに悟られた不安など微塵も感じていなかったので、何事もなかったかのように元気よく答えた。
「沙希さん、今日も頑張りましょうね!」
「…あ、ああ…そうだな…」
沙希さんはそれだけ言うと、そそくさと洗面所へ向かった。その背中は、どこか逃げるようだった。
俺は首を傾げながらも、着替えを始めた。
今日はどんな冒険が待っているだろうか。元クラスメイトの脅しも効いたし、少しは町での暮らしも安泰になったはずだ。それに何より、俺たちは一緒だ。それだけで、どんな困難でも乗り越えられる気がしていた。
ただ、沙希さんが洗面所からなかなか出てこないことだけが、少し気にかかった。




