2-16話:普通の子だと言われた時点で、だいたい周囲の温度差が危険になる
なんだかんだで、長い移動だった。
異世界遺物。
月船の探究者。
リンカの誘拐。
淫獣。
水瀬リュウスケの異常な強さ。
そして、誰も得をしないルナ被害者の会。
情報量が多すぎて、途中からコハルの頭は処理を拒否し始めていた。
気づけば、リムジンはすでに東北へ入っている。
時刻は夜。
車窓の向こうには、仙台の街明かりが広がっていた。
高層ビル。
ネオン。
冷たい夜の空気。
都会の景色なのに、どこか静かだった。
そして。
「……でか」
コハルは思わず呟いた。
リムジンの進行方向。
街の中心部に、異様な存在感を放つ超高層ビルがそびえている。
全面ガラス張り。
青白い照明。
近未来的な外観。
だが、最も目を引くのはそこではなかった。
ビルそのものに、巨大なロゴが刻まれている。
――HELIOS SERVICE。
「東京本社もすごかったですけど……仙台支店は、また別格ですね」
マナトが静かに言った。
レンマは窓の外を眺めながら、軽く肩をすくめる。
「東北を担当する大型拠点だからね。賢者も多いし、対異世界案件の中核支部でもある」
「中核支部……」
「ヘリオスは全国にあるけど、仙台と名古屋は特に規模がおかしいよ」
「これ全部、ヘリオスなんですか?」
「全部」
「怖……」
思わず、本音が漏れた。
レンマが吹き出す。
「もう今さらでしょ」
「いや、でも、人材派遣会社ですよね?」
「表向きはね」
「今、“表向き”って言いました?」
「言った」
軽い。
口調は軽いのに、内容がまるで軽くない。
(いや、絶対に普通の会社じゃないでしょ……)
コハルは胸の内で呟いた。
人材派遣会社。
その言葉から想像する規模を、とっくに超えている。
◇
リムジンは地下駐車場へ滑り込んだ。
そのまま専用エレベーターへ案内される。
静かな電子音を響かせながら、エレベーターは上層階へ向かった。
やがて扉が開く。
その瞬間だった。
「うわ、本物だ」
「レンマさんいる」
「マナトさんだ」
「やっぱ勇者って、オーラが違うな……」
「リュウスケさん、相変わらずでっか……」
「後ろの女の人、誰?」
「新しい帰還者?」
「……なんか、めちゃくちゃ普通な感じだな」
ざわりと、空気が揺れた。
廊下の左右には、大勢の社員らしき男女が並んでいる。
二十代から三十代前半くらい。
ただし。
(男の人、多っ……)
異様に男性率が高い。
しかも全員、どこか理系の研究者じみた雰囲気をまとっていた。
スーツ姿なのに、会社員というより研究員に近い。
ガラス越しのフロアには、無数のモニターが並んでいる。
空中に展開された魔法陣。
浮かぶ術式。
通信機器。
魔力解析装置。
どう見ても、普通のオフィスではない。
完全に研究施設だった。
「遠路はるばる、お疲れ様です」
落ち着いた声が響いた。
前方から、一人の男が歩いてくる。
四十歳前後。
細身。
整えられた黒髪。
眼鏡。
隙のないスーツ姿。
穏やかな笑みを浮かべながら、男は静かに一礼した。
「一級賢者の朝霧シグレと申します。仙台支店の責任者を務めております」
「シグレさん、久しぶり~」
レンマが軽く手を上げる。
「ご無沙汰しております」
マナトも頭を下げた。
「……どうも」
リュウスケも短く返す。
一方、カイリとアスミは妙に姿勢がよかった。
明らかに緊張している。
(あ、この人、めちゃくちゃ偉い人だ)
コハルは即座に理解した。
「ああ、こちらが月岡コハル様ですね。お話は伺っております」
シグレが名刺を差し出す。
「は、はい! 月岡コハルです!」
コハルは慌てて受け取り、深く頭を下げた。
シグレは柔らかく笑う。
「それほど緊張なさらなくても大丈夫ですよ。こちらは勇者慣れしておりますので」
「勇者慣れって、何ですか……」
「職業病です」
さらりと返された。
(やっぱり、この会社おかしい……)
◇
「火岡様と土門様は、すでに到着しております。奥の客間へどうぞ」
シグレの案内で、一行は廊下を進んだ。
カイリとアスミは別の仕事があるらしく、後ほど合流することになった。
広い。
静かだ。
だが、その静けさの中に、張り詰めた空気がある。
ガラス越しのフロアでは、賢者たちが高速で術式を展開していた。
魔力探知。
位置解析。
通信制御。
結界維持。
(いや、本当に民間企業……?)
コハルが若干引いているうちに、一行は最奥の客間へ辿り着いた。
扉が開く。
「遅かったじゃないか」
最初に声をかけてきたのは、日焼けした爽やかな男だった。
三十代前半。
短髪。
人当たりのよさそうな笑顔の男前。
だが、その笑顔の奥には、妙な圧があった。
一方。
「いつまで待たせる気だよ」
低い声が落ちる。
紺色の髪。
耳元には大量のピアス。
鋭い目。
眉間に刻まれた皺。
高身長で、筋肉質。
男はテーブルの上に胡坐をかき、ガムを噛んでいた。
態度が悪い。
こちらも、そこにいるだけで普通ではないと分かる。
「お疲れ様です。ジュンタさん、クニヒロさん」
マナトが挨拶する。
「ごめん、ごめん。ちょっと寄り道しててさ~」
レンマが笑った。
「……久しぶり」
リュウスケも短く返す。
(あ、この二人も“勇者側”だ)
コハルはすぐに理解した。
そこにいるだけで、空気の重心が変わる。
強者特有の圧。
「お、そっちの子が例の新米勇者?」
爽やかな男が笑う。
「俺が火岡ジュンタ。で、こっちが――」
「土門クニヒロだ」
ぶっきらぼうな男も名乗った。
「よろしくね」
「月岡コハルです。よろしくお願いします」
コハルはぺこりと頭を下げる。
その瞬間。
ジュンタとクニヒロが、じっとコハルを見た。
値踏みするような視線だった。
「……うーん」
ジュンタが苦笑する。
「なんか、すごく普通の子だね」
「え」
「もっとこう……リンカみたいなタイプを想像してた」
「分かる」
クニヒロも、ガムを噛みながら頷いた。
「オーラも薄いし、地味だな」
空気が止まった。
コハルの思考も止まる。
(えっ)
レンマの目が細くなる。
マナトの空気も変わった。
「コハルちゃんは、すごく優しくて、いい子だよ」
レンマは笑っていた。
ただし、目だけは一切笑っていない。
「初対面で、そういう言い方をするのはやめてくれる?」
「そうです」
マナトも静かに続ける。
「コハルさんには、コハルさんの良さがあります」
ぴり、と空気が張った。
ジュンタがわずかに目を丸くする。
「おっと」
「随分、入れ込んでんな」
クニヒロが鼻で笑う。
「当然でしょ」
「当然です」
二人の声が重なった。
(なんで!?)
コハルの胃が痛くなる。
ジュンタは軽く手を振った。
「いやいや。別に悪気はないって。ただ、想像と違っただけ」
「そうだな」
クニヒロが吐き捨てる。
「リンカと並べるには、弱そうだ」
その瞬間。
空気の温度が、一段下がった。
「……で?」
レンマが笑う。
「言いたいことは、それだけ?」
風が鳴っていた。
目には見えない。
だが、確実に室内の空気が揺れている。
「いや、本題はここから」
ジュンタは笑顔を崩さないまま続けた。
「リンカが攫われた件、聞いてるよね?」
「うん。エリィナって奴から」
「なら、話は早い」
そして。
あまりにも自然に言った。
「リンカとコハルさん、さっそく交換しに行こうか」
沈黙。
「……え?」
コハルの口から、かすかな声が漏れた。
レンマの笑みが消える。
マナトの目には、はっきりと殺意が宿った。
「……今の、冗談?」
レンマが尋ねる。
ジュンタは笑っていた。
「そんなわけないだろ」
「だったら、なおさら問題です」
マナトが一歩前へ出る。
「コハルさんを渡す気はありません」
「おいおい」
クニヒロが笑う。
「勇者になりたての小娘一人と、リンカが同じ価値なわけねぇだろ」
「ヘリオスにはリンカが必要なんだよ」
ジュンタも続ける。
「俺たちにもね」
そして、穏やかな声のまま告げた。
「命ってさ、平等じゃないんだよ」
コハルの背筋が冷える。
「コハルさんには悪いけど、リンカを失うわけにはいかない」
ジュンタは笑った。
「大丈夫。君の犠牲は、無駄にはしないからさ」
その瞬間だった。
ゴッ――!!
客間の空気が爆発した。
グラスが震える。
照明が明滅する。
レンマの周囲で、暴風が渦巻いた。
「……今、誰を犠牲って言った?」
笑っていない。
軽薄さも。
余裕も。
すべて消えている。
風が裂ける。
空気そのものが悲鳴を上げていた。
一方。
マナトの足元では、青白い雷光が弾けている。
「冗談でも、その発言は許容できません」
低い。
静かすぎる声。
だからこそ、恐ろしい。
クニヒロが鼻で笑った。
「図星を突かれてキレてんのか?」
「クニヒロ」
ジュンタが制止する。
だが、遅かった。
「弱ぇ奴を切るのは当然だろ」
――バチィンッ!!
雷鳴。
一瞬だった。
次の瞬間には、マナトがクニヒロの眼前へ踏み込んでいた。
(見えな――)
コハルの認識が追いつかない。
だが。
「おっと」
ジュンタが片手で受け止めていた。
衝撃。
空気が爆ぜる。
壁が揺れる。
床に亀裂が走った。
(速っ……!?)
何が起きたのか、ほとんど分からない。
ジュンタの顔から、軽い笑みが薄れる。
「正直、時間がない。綺麗事を言っている余裕もないんだ」
その声には、先ほどまでの軽さがなかった。
「異世界では、選択しなければ生き残れなかっただろう? 今回も同じだ。選ばなければ、全員を失う」
「ここはもう、異世界ではありません」
マナトは引かなかった。
バチバチッ、と青白い雷がさらに強く弾ける。
「おやめください」
止めたのはシグレだった。
「ここで本気を出されると、仙台支店が消し飛びます」
「……」
マナトは動かない。
雷だけが、静かに弾け続けている。
「コハルさんを物のように扱った発言を、撤回してください」
「チッ」
クニヒロが舌打ちする。
「火岡様、土門様」
今度は、シグレの声が低くなった。
「こちらにも限度があります」
「……分かったよ」
ジュンタが肩をすくめる。
「言い方は悪かった。でも、考えは変わらないけどね」
その瞬間。
今度はレンマが笑った。
「そっか」
風が膨れ上がる。
空気が軋む。
窓ガラスが震えた。
「じゃあさ」
レンマの目が細くなる。
「俺たちと本気でやる覚悟があるってことで、いい?」
「……悪いとは思っているよ。でも、俺はリンカを選ぶ」
ジュンタはまっすぐレンマを見返した。
「たとえ君たちに恨まれてもね」
ジュンタの指先から、炎が立ち上がる。
その目には、本気で戦う意志が宿っていた。
クニヒロの周囲では、重力が増していく。
マナトとレンマを見る目に、容赦はない。
互いに一歩も引かない。
二対二。
四人の勇者が、真正面から睨み合う。
(どうして……こんな……)
コハルの瞳から、一筋の涙がこぼれた。
その時だった。
「――やめてくれ」
低い声が落ちた。
重かった。
それだけで、場の空気が沈む。
全員の視線が、一斉に動いた。
今まで黙っていた男。
ソファの端に座っていた、水瀬リュウスケ。
彼が、ゆっくりと立ち上がっていた。
ただそれだけで。
客間全体の圧力が変わる。
コハルの肌が粟立った。
(……あ)
まただ。
この人だけ、何かがおかしい。
ジュンタも。
クニヒロも。
レンマも。
マナトも。
全員、間違いなく強い。
けれど。
リュウスケだけは、“種類”が違う。
「仙台支店でやるのは、やめてくれ」
静かな声だった。
感情は薄い。
だが、逆らってはいけない何かがあった。
「……リュウスケさん」
レンマが眉を寄せる。
リュウスケは、誰とも視線を合わせなかった。
「リンカさんを助ける前に、内輪揉めで壊滅とか笑えない」
「でも――」
「分かってる」
短く遮る。
そして、リュウスケはゆっくりクニヒロを見た。
「クニヒロくんも、言いすぎ」
「……は?」
「コハルさんは弱くない」
その言葉に。
今度はコハルが固まった。
「え」
リュウスケは続ける。
「少なくとも」
静かだった。
静かなのに、全員が耳を傾けてしまう。
「普通のまま、ここに立っていられる時点で異常だ」
沈黙。
「みんなの圧、普通の人間なら気絶してる」
さらりと言う。
「なのに、コハルさんは逃げてない」
コハルは息を呑んだ。
「怖がってるけど、立ってる」
「……」
「それだけで、十分おかしい」
クニヒロが顔をしかめる。
「いや、だからそれは――」
その言葉は、最後まで続かなかった。
突如。
ブツッ、と。
客間に置かれていた大型モニターが、勝手に点いた。
照明ではない。
術式の反応でもない。
通信担当の賢者が操作したわけでもない。
何の前触れもなく、黒かった画面にざらついたノイズが走る。
ジジッ。
ジジジッ。
不快な音。
耳の奥を引っ掻くような電子音が響き、部屋中の視線がモニターへ向いた。
シグレの表情が、かすかに強張る。
「……外部干渉?」
次の瞬間。
『毎度おなじみ、エリィナだよ』
聞き覚えのある、ふざけた声が響いた。
画面に映ったのは、エリィナだった。
相変わらず楽しそうだった。
相変わらず悪びれていなかった。
相変わらず、人の神経を逆撫でするように笑っていた。
『仲間割れしてみっともないお前らのために、いいものを見せてやるよ』
その言葉と同時に、画面が切り替わる。
そこに映ったものを見て。
全員の呼吸が止まった。
「リンカさん!」
「リンカ!」
「リンカさん!」
レンマ。
ジュンタ。
マナト。
ほとんど同時だった。
三人の声が重なる。
だが、画面の向こうにいるリンカは反応しなかった。
鳥籠のような結界。
細い光の格子が幾重にも重なり、リンカの身体を閉じ込めている。
まるで、飾り物のように。
まるで、見世物のように。
その中心で、日高リンカはぐったりとうなだれていた。
いつもの圧がない。
乱暴な明るさもない。
人を引っ張り回すような、強引な生命力もない。
頬はこけている。
唇の色も悪い。
目は開いているのに、焦点が合っていなかった。
虚ろだった。
ただ、そこにいるだけ。
生きている。
けれど。
生きているだけに見えた。
「……リンカさんが……」
コハルの声が震える。
あのリンカが。
強くて。
怖くて。
雑で。
それでも、誰よりも頼りになるように見えた、あの人が。
こんなふうに閉じ込められている。
それだけで、胸の奥が冷たくなった。
リュウスケは何も言わない。
ただ、画面を見つめていた。
無表情のまま。
けれど、その沈黙が誰よりも重かった。
『あはは! いい顔するじゃん』
エリィナが笑う。
無邪気だった。
あまりにも無邪気で、吐き気がするほど残酷だった。
『このままいくと、衰弱して死んじゃうかもね。早く考えた方がいいよ』
客間の空気が凍る。
レンマの風が止まった。
止まったのに、先ほどよりも怖かった。
マナトの雷も静かになる。
静かになったのに、さらに危険に見えた。
ジュンタの笑顔は消えている。
クニヒロでさえ、ガムを噛むのをやめていた。
『あ、そうそう』
エリィナは楽しそうに、何かを取り出した。
細長いもの。
黒く艶のある、一本の万年筆。
表面には、見慣れない文字がびっしりと刻まれている。
文字のようで。
呪文のようで。
生き物のようにも見える、不気味な文様。
『お前らに、約束を破る卑怯者だって思われるのも癪だし? 今回はちゃんと、異世界遺物を使った取引にしてやるよ』
シグレの表情が変わった。
「……世界綴りの万年筆」
低く呟く。
その声には、明確な警戒が滲んでいた。
コハルは息を呑む。
(また異世界遺物……)
もう、その単語を聞くだけで嫌な予感しかしない。
エリィナは万年筆を指先でくるりと回し、画面越しに見せつけた。
『知らない無知なバカタレどもに説明してやるとだな』
にやりと笑う。
『この万年筆で書いた契約は、必ず成立する』
誰も喋らない。
『条件を書けば、契約になる。署名すれば、縛りになる。約束すれば、逃げられない』
エリィナの声だけが、客間に響いていた。
『で、もし契約を破ろうとする意思を感知したら――』
万年筆の先端が、ぬらりと光る。
『この子が勝手に動く』
ぞわりと、コハルの背筋に寒気が走った。
『邪魔した奴。裏切った奴。約束を踏みにじろうとした奴。全員、殺しちゃう』
明るい声だった。
子供が悪戯を自慢するような声だった。
だからこそ、余計に気味が悪い。
『あはは! 便利だろ? これならお互い安心安全、公平な取引ってわけだ』
「どこが公平だ」
クニヒロが低く吐き捨てた。
エリィナは嬉しそうに笑う。
『命の価値に差をつけてるお前が、それ言う?』
クニヒロの顔が歪んだ。
ジュンタが何かを言いかける。
だが、言えなかった。
画面の向こうで、リンカの身体がわずかに揺れたからだ。
「リンカ!」
クニヒロが声を上げる。
リンカの唇が、かすかに動く。
けれど、声は届かない。
何かを言おうとしている。
何かを伝えようとしている。
だが、結界がそれを許さない。
音も。
魔力も。
意思さえも。
鳥籠の内側に閉じ込めている。
『残念。声はなし。感動の再会はまた今度』
エリィナが笑った。
『じゃあ、明日の夜明けまでに考えとけよ』
軽い声。
だが、その内容は重すぎた。
『月岡コハルを連れてくるか』
ひと呼吸。
『日高リンカを見殺しにするか』
コハルの心臓が、嫌な音を立てた。
『それまでに決められなかったら、勢い余って殺しちゃうかも』
エリィナは画面越しに手を振る。
『またねー』
プツン。
映像が切れた。
モニターは黒に戻る。
警報音もない。
ノイズもない。
ただ、沈黙だけが落ちた。
誰も動かない。
誰も喋らない。
さっきまで渦巻いていた怒りも。
風も。
雷も。
すべてが、重い沈黙の底へ沈んでいた。
コハルは、映像の消えたモニターを見つめたまま、指先を握りしめる。
自分を差し出せば、リンカは助かるのか。
自分が行かなければ、リンカは死ぬのか。
その問いが、胸の奥へ落ちてくる。
重く。
冷たく。
逃げ場もなく。
そして。
その沈黙の中で、最初に口を開いたのは――。
「……僕が行く」
マナトではなかった。
レンマでもなかった。
ジュンタでも。
クニヒロでもなかった。
低い声。
水瀬リュウスケだった。
全員の視線が、彼へ向く。
リュウスケは、黒くなったモニターを見たまま、静かに言った。
「コハルさんは渡さない」
そして。
「リンカさんも、死なせない」
その声に、感情はほとんどなかった。
けれど。
なぜかその場の誰よりも、覚悟だけは濃かった。




