第22話
初めてだった。目の前で人間が死ぬ瞬間を見たのは。しかしその異常な身体能力を有したやつはその日以降も何度もやってきた。今はその日から数週間後。
「……レオン様。また例の人間が出たようです……」
1人の諜報員が部屋にいる俺にそう報告してくれる。
「そうか……場所は?周囲への被害は?」
「発見は宇宙ポート。検問に引っ掛かりその場で暴れました。即座に複数の騎士にて対処したため周囲には被害はありません」
「それはよかった……報告してくれてありがとう……」
俺がお礼を言うと頭を下げて姿を消した。あの日以降は宇宙ポートでの検問を強化しさらにその場に対人能力に長けた騎士を増員。そのお陰もあり最初と二度目以降は街に降りてくることはなくなった。
「(ナノさん……いったい何が起きてるのか教えてほしい……)」
『最初に申し上げます。前回同様にいまだ推測の域を出ません。それでよければお話いたします』
「(それでいい……お願い……)」
『これまでの数人の身体的特徴とマスターが最初に対峙した人物のわずかな言葉から推測いたします。確定なのは最初の人物の標的はマスターであるということ。そして①爆発したのは自身の自由意志ではないということ。②その人物の家族も危険であったということ。これらはほぼ確定といえます。これらから考えられるのはこのようなことをしている人物=黒幕がいるということ』
「(……)」
『現状の情報で最もその黒幕に近いのは三大宇宙海賊の一角に名を連ねる"海賊災害"ボル・ノマーノ。彼の評判としてよく見かけるのはプライドの高さともう一つ……残虐性です。爆発した遺体のそばに機械片が落ちていたことからも、それが異常なほどに身体能力を増幅させていた可能性があります。しかしその高すぎる身体能力に普通の人間の身体強度では耐えられず血が噴き出していた。痛みなどは消されていたのかもしれません』
ナノさんの報告は前回と変わったところはない。そして俺が思うことも同じ。
俺は必死に俺に対して"死んでくれ"と懇願しながら死んでいったあの瞬間の映像が頭から離れない。
「(……ボル・ノマーノはなんでこんなことを……こんなことができるんだ……)」
『三大宇宙海賊の一角と言われるほどの男がこれでヴィンセント辺境伯軍がどうにかなるとは思っていないでしょう。その伝え聞く性格上から推測いたしますと……ただの嫌がらせの可能性が高いかと思われます……)」
「……」
ドン!
あまりの怒りに思わず壁を叩いてしまう。
「こんなに……怒りを覚えたのは初めてだ……」
それは前世でも経験しなかった頂点の怒り。今すぐにでもボル・ノマーノの下へ駆けつけて殺してやりたい気持ちでいっぱいだった。
『マスター、落ち着いてください。ボル・ノマーノの居場所はその戦力の数の多さに反してほとんど知られておりません。さらに居場所が判明してもどんな罠が張られているかわからない限りは迂闊な行動は控えるべきかと』
「そんなことは言われなくてもわかってる!でも今も苦しんでいる人がいるかもしれない!今のこの騒動もいつ終わるかわからない!どうしたらいいんだよ!」
仮にも前世ではそこそこの大人だったんだ。どれほど強くなってもすべての人たちを救えるなんて思い上がりはない。それでも……あんな姿を見たら……
「……なんとかして助けたいって思うだろ……」
コンコン
するとそんなときに俺の部屋をノックする音がする。
がちゃ
「失礼しますレオン様」
それはザリルだった。
「ザリル……どうしたの?」
「ひとつ……やりませんか?」
そういってザリルは木剣を俺に投げ渡した。それを受け取り俺は無言でいつもの庭へと向かう。
カンカンカンカン
「……」
「相当に参っているようですね。そこは子供らしくて安心しました」
打ち合いながらもザリルが俺に話しかけてくる。
「なんだよそれ……俺は子供じゃねえよ……」
「12歳は十分に子供でしょう?その強さが異常なだけでね」
カンカンカンカン
会話は続かず俺たちの間に無言の時間が続く。
「……」
「人は……”怒りに飲まれるな”と言います……それが正しいかのように……すべての人に当てはまるかのように……」
ザリルが足を止め俺に語るように言う。
「……でも私は飲まれてもいいと思っています……怒りに飲まれその激情を誰かに……その人物にぶつければいい……そのあとに帰ってくればいいんですから……」
「……そんな都合よく……」
「帰ってこれますよ……レオン様なら。 少なくともあなたには俺がいる」
「……ザリル……」
伏せていた顔を上げザリルの顔を見る。その顔は笑顔だった。
「たかが模擬戦で勝ったぐらいで調子に乗るなよレオン?怪我を考慮に入れなけりゃあ勝つのは俺だ。俺はかつていくつもの銀河を統べる宇宙一の大国アークリアルにて近衛騎士長という最強の地位にいた男だぞ?」
「……ふふ……」
そのザリルの言葉によって俺のなにかが晴れた気がした。
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