第11話
少し短い。
--第三者視点--エルカルト伯爵領セコイア・エルカルト伯爵の執務室--
カリカリカリカリ!カリカリカリカリ!
「くそっ!くそっ!どうする!どうすればいい!」
指の爪を噛みながら執務室をウロウロとせわしなく歩くセコイア・エルカルト伯爵(43歳)。彼は非常に焦っていた。
「もしヴィンセント辺境伯家が襲撃者が私の軍隊であると感づき皇帝陛下へ報告をすれば私は窮地に立たされる!なにを言えばいい!どう説得すべきだ!」
焦りからひとり言が大きくなっていくセコイア・エルカルト。実はヴィンセント辺境伯家への輸送船襲撃はナノさんの言う通り衝動的な指示によるところが大きい。
これまで銀河帝国アークリアルで"交易といえばエルカルト伯爵家"と言われるほどの地位を築いてきたがそこに並ぼうとするヴィンセント辺境伯家の登場によりその地位が危ぶまれてきていた。
「くそっ!こんな事態になったのもすべてはあいつらの責任だ!これからは私ではなくヴィンセント辺境伯家に鞍替えするなどと言わなければこんなことには!」
これまでセコイア・エルカルトは自身が一番儲けるために相当あくどい交易をし続けてきた。相手がギリギリ手を引かない範囲を見極めながらしてきたエルカルト伯爵家、そこにヴィンセント辺境伯家が現れたことでエルカルト伯爵家は切られ大損失を受けた。しかもそれが1つだけではない。
「あんな田舎貧乏貴族が!私の崇高な地位を汚すとは!」
相当にプライドの高い男セコイア・エルカルト。自身の行いのせいにもかかわらず"自分はなにも悪くない"と言うように、交易を切った相手たちやヴィンセント辺境伯家を悪者として考えている。
コンコン
そんな大慌て中のセコイア・エルカルトの執務室の扉がノックされた。
「失礼いたしますセコイア様」
扉をあけながら部下が入ってくる。しかしイライラ中のセコイア・エルカルトはその苛立ちをぶつける。
「なんだ!私はいま忙しいんだ!相当な用件でなければ貴様をクビにするぞ!」
「そ、それが……我が領内で流れている噂についてなのですが……」
部下の男はセコイア・エルカルトの剣幕とそのクビという言葉に怖がりながらも報告をする。
「噂だと?それは本当に私に報告するほどのものなんだろうな?」
ギロッ!
「ッ!?ゔぃ、ヴィンセント辺境伯家についての噂であります!」
意を決して叫ぶように伝える。それはセコイア・エルカルトがいま悩んでいるヴィンセント辺境伯家の噂だった。
「ヴィンセント辺境伯家の噂だと?……話してみろ」
「は、ハッ!どうやら相当重要な積み荷を輸送するようで街中では"これが成功すればまた一段とヴィンセント辺境伯家の名が売れる"と言われているほどです!」
「……ほう……その輸送船は我が領地の近くを通るのか?……」
「そ、そのようです。輸送ルートは前回の襲撃とあまり変わらないとのこと……いかがいたしますか?」
部下が恐る恐る主人の機嫌を伺いながらそう尋ねた。しかしセコイア・エルカルトは意外にも機嫌はよくなりつつあった。
「……あのような襲撃があったルートを再び選択するということは噂通り相当重要度の高い積み荷というのは間違いない……さらにはこちらへの接触がなにもないところを見るにヴィンセント辺境伯家は気づいていない……くっくっく……」
「セ、セコイア様?」
突然に笑い出した主人を心配し呼びかける部下。
「ハーッハッハッハッハ!どうやらやつらは相当に愚鈍な馬鹿らしい!これでは私の崇高な地位が脅かされる心配もなさそうだ」
セコイア・エルカルトは部下からの報告を受けて先ほどまでの心配は吹き飛びその顔に笑顔が戻った。汚い他者を見下す笑顔が。
「おい!その輸送船も前回同様に襲え!積み荷は我々がもらい受ける!」
「ですが……もしこの噂がヴィンセント辺境伯家の策略なら逆に危険なのではないでしょうか?」
部下が主人に意見を述べる。それは正しい意見でありその言葉を受け取っていればセコイア・エルカルトもあんなことにはならなかっただろう。
「……貴様はこの私に意見をするというのか……このセコイア・エルカルト様に……」
意見を述べた部下を睨みつけるセコイア・エルカルト。その表情に部下は背を正し謝罪する。
「も、申し訳ございません!す、すぐに準備してまいります!」
バタン!
そうしてセコイア・エルカルトの唯一助かったかもしれない道へと続く扉は閉じられた。
「くっくっく……また儲けさせてもらうぞヴィンセント辺境伯……」
その不敵な笑みがもうすぐ絶望へと変わる。
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