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静かな難民たち

難民たちの話をさらに聞いていくと、行方不明になった二人は男と女だった。ただし、カップルでも家族でもないらしい。同じ村の出身ではあるが、特別親しかったわけでもなく、逃げてくる途中も別々に行動していたという。

「突然いなくなったんだ」

最初に話していた男が、力なく言う。

「夜になって、朝にはいなかった。荷物は少し残ってた。争ったような跡もない」

「ここまで来て逃げ出す理由は?」

レンが確認すると、男は首を振る。

「ないと思う。もう少しでザヴィルなんだ。逃げるにしても、わざわざ夜中に一人で出る意味がない」

「先にザヴィルに行きたかったとか?」

ソフィアの問いかけにも、男は首を振った。

「まとめて行動した方が滞在しやすい。得体の知れない二人より、難民数十人の方が動きやすいと普通は考える」


確かにそうだ。追われてきた人間なら、まず安全な街へ安全に入りたがる。川沿いの集落でわざわざ離脱する理由は薄い。

(少なくとも、自主的に出ていったと考えるのは無理があるな)


ソフィアは病人の方を見に行っていた。レンとテオも後を追う。毛布にくるまって横になっているのは三人。全員、顔色は悪いが、高熱でうなされている様子ではない。

「どう?」

テオが小声で尋ねる。

ソフィアは一人の手首に触れ、少し首を傾げた。

「熱はないわね」

「熱が出てるって話じゃなかったか?」

「本人たちはそう感じてるのかも。でも体温はそこまで高くないわ」

「怪我は?」

「見た限りない。外傷も噛み跡も見当たらない」

ソフィアは二人目、三人目も確かめる。

「同じく熱はないわね」

病人の一人が、薄く目を開けた。

「……すみません」

「謝る必要はないわ。痛むところは?」

「痛いわけじゃないんです。ただ……立とうとすると、力が抜けるんです」

言葉もはっきりしている。意識が混濁しているわけでもない。

レンはその様子を見ながら、妙な引っかかりを覚えた。

(病気にしては、揃いすぎてるな)


三人とも動かせない以上、連れて帰るには運ぶしかない。テオが村長に確認すると、簡単な担架なら用意できるという。

「明日の朝には出たいですな」

村長が不安そうに言う。

「食料も薬も、そう長くはもちません。こちらも漁村でして、余裕があるわけではないのです」

「わかってる。明日の朝、出発しよう」

テオが答えた。

「夕方までにザヴィルへ着けるように動く。病人は交代で担ぐしかないな。数名なら、病人が増えても皆で協力すれば運べるだろう」

「二人がいなくなったこともあるし、夜のうちにもう一度何かあると困るわ」

ソフィアが周囲を見回す。

「見張りも立てましょう」


準備を進めながら、レンは近くの女に、もう一つ気になっていたことを聞いた。

「冒険者や政府を怖がるのは、昔何かあったからか?」


女は少しだけ顔を曇らせた。

「ええ……」

少し沈黙した後、話を続ける。

「昔、私たちの村が襲われた時のことです。最初に来たのは冒険者でした。助けてくれると思ったんですが、あいつらは村を守るより、金になりそうな物と、まだ動ける女性を優先して連れていこうとした」

テオの表情が強張る。

「それを止めようとした村長や男たちがやられました。後から来た兵士も似たようなものでして……助かったと思ったら、今度はあれこれ理由をつけて村のものを持っていった」

「だから、冒険者も政府も信用できない、と」

ソフィアが静かに言う。

女は頷いた。

「全部がそうじゃないのかもしれません。ただ、あれを見たやつは忘れられない」


レンは何も言えなかった。世の中には碌でもない連中がいる。それは知っていたし、そういった犯罪者を“駆除”したこともある。だが、こうして怯えそのものになって残っているのを見ると、言葉が見つからない。

(俺たちも、向こうから見れば同じ“冒険者”なんだよな)


日が落ちる頃には、集落全体がさらに静かになった。難民たちは数名ごとに分かれて寝る場所を確保している。川の音だけが、途切れずに響いていた。

「なんか、やっぱり変よね」

焚き火を見つめながら、ソフィアが呟く。

「病人も、消えた二人も、全部が綺麗すぎる」

「綺麗?」

「ええ。怪我もなく、痕跡もなく、理由もなく。いなくなるにしても、倒れるにしても、もう少し乱れるものじゃない?」

「今も十分乱れている気がするが」

怪訝そうなテオに、レンも口を開く。

「俺も同意見だな。そもそも、川から他国から流れてきた難民という雰囲気がない」

「雰囲気?」

「ああ。これからどうなるんだろうっていう悲壮感や、新しく頑張っていこうっていう前向きさ、そのどちらもなくて、ただ淡々としているのが気になる」

「そもそも川を流れるだけで王国へ辿り着けるのかしら?」

「そこは……かなり死者が出た可能性はあるな。老人や子供は力尽きたのかもしれない」

「そうね、確かに」


「とにかく、難しいことを考えていても仕方ない。魔物やその他、何も起きないようにしっかり見張りをしよう。そう考えると、交代じゃなくて三人で同時に見張りをした方がいいか?」

「流石に寝ないと明日に響くかしら」

「確かに、一案ではあるな。間に交代で仮眠を取りながら、全員で対応しよう。何か、気味が悪い」

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